軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編4 エリーの反省

「本当にあの女はやってくれましたわね……」

『SUR、禁忌の魔女エリー レベル9999』が、自室の机に座り、『あの女』ミキに苛立ちながら書類を作成する。

本棚には多数の書籍が収まり、分厚い物や派手な背表紙、中には骨の手や蔓が巻き付いた、明らかに取り扱いに注意が必要そうな本が混じっていた。どれも魔術書である。

魔術書だけではなく、可愛い背表紙や薄い詩の本、童話集などもあった。

エリーの趣味は読書で、賃金で 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』カードで出た書籍を購入している。

知識をつけるため、ナズナによく貸して読ませようとするが、彼女はひたすら嫌がっていた。

他には魔術道具、描きかけの魔法陣、触媒に使う植物の植木鉢や材料などが置かれている。

そんな『如何にも魔女』と言った環境でエリーは書類を書いていた。

書類の内容は『巨塔街内部の調査、警戒、監視態勢の構築について』だ。

元魔人国側マスターであるミキが外部の審査をパスし、巨塔街内部へと侵入。

彼女の証言から、『外部から侵入するのは難しいが、一度内部に入り込んだら緩い』と指摘され、実際、ミキが操る蜂によって情報が巨塔街の外に流れ、敵の襲撃を受けたのだ。

エリーはこの失態に自身の首を差し出すつもりだったが、ライトに諫められた。

敬愛するライトは最初、エリーを罰しない判断を下すが、それでは彼女の気が済まない。

ライバル視しているメイに借りを作りつつも、ライトに困り顔をさせながらも『罰を考える』という言葉を得た。

『巨塔』内部の警戒が緩かったこともだが、自分のせいでライトを困らせてしまったのもエリーの心を抉った。

思い出しただけで『ギリッ』と歯噛みし、口の端から赤い血が垂れる。

ライトに提出する書類に血が付く前に、エリーはハンカチで口元を拭く。

ハンカチをしまいながら、

「それもこれも、あの破廉恥な女のせいですわ!」

ライトの前で卑猥な言葉を叫ぶ女――ミキを思い出し苛立ちをさらに募らせる。

前向きに捉えれば、大きな被害が出る前に問題点が発覚してよかったと言えるが……エリーはそれほど楽観的な性格ではない。

自身のミス、『巨塔』内部の警戒網の薄さのせいで、襲撃を受け被害が出て、最終的に倒せたがライトの右腕を切り落とし再生する嵌めになった。

その事態を作り出してしまった自分自身が心底許せなかったのである。

もしライトから許可が出るなら今すぐ、自らに刃を刺して落とし前を付けたいが、彼に否定され、罰を後ほど受ける身のため、自害は出来ない。

エリーは鉛のように重い溜息を漏らす。

「わたくしのミスでライト 神様(しんさま) を傷つけ、『巨塔』にも被害を出してしまいましたわ……。本当に穴があったら入りたいですの」

現実的に穴に入っている暇はない。

ミスを挽回するためにも、『巨塔内部の調査、警戒、監視態勢の構築』しなければならないからだ。

その鍵を握るのが、ライトから渡された『SSSR、レベル2864 小人妖精』である。

「内部の構築をする鍵なのは確かでしょうが……少々、いえ、あなた達はかなり変わったカードですわね」

『褒めても何も出ないデチ』

『褒めるならお菓子を所望するデチ』

『菓子より酒が欲しいデチ!』

机の上、サンプルとして連れてきた数名の小人妖精がプラカードを抱えて訴えてくる。

『SSSR、レベル2864 小人妖精』は、二頭身で名前の通り小さいためか、隠れることが非常に得意だ。さらに分裂し、互いに連絡を取り合うネットワークを構築していた。

『 巨塔街(きょとうがい) 』内部に敵が潜んでいないか等を監視させるには、まさに打って付けの人材である。

だが弱点が無い訳ではない。

まず、レベルはそこそこあるが攻撃能力はゼロ。小さいせいで移動速度もお世辞にも速くない。分裂するが個体によって趣味趣向が違うので、こうして要求される内容もマチマチだ。別に報酬など与えずこき使う事も出来るが、彼らもライトの配下には違いないため、対応する手筈を整える必要があった。

とはいえ彼らが内部監視に有益なのは確かであるが、働いてもいないのに要求を呑むほどエリーは甘くない。

エリーは小人妖精達に軽く手を振りはね除ける。

「働いてもいないのに報酬を与えるはずありませんわ。大人しく水でも飲んでいなさい、水でも」

『横暴デチ!』

『お菓子! お菓子! お菓子!』

『酒! 酒! 酒!』

『鬼! 悪魔! エリー、デチ!』

「あら? 何か文句がありまして?」

エリーが笑顔で魔力を解放する。

レベル9999の魔力解放に小人妖精達は文字通り蜘蛛の子のように逃げ出した。

エリーはその姿を呆れた様子で見送り、再度書類作成に取り掛かる。

☆ ☆ ☆

書類作成と巨塔内部の見直しを終えて、ライトに報告&提出に向かう。

ライトはいつも通り『奈落』最下層執務室で、書類仕事をしていた。

事前にアポを取っていたためエリーはスムーズに彼と面会する。

今日の側付きメイドに提出する書類『巨塔内部の調査、警戒、監視態勢の構築について』を提出。

ライトの机前で、端的に分かり易く噛み砕いて書類内容を伝えた。

『SSSR、レベル2864 小人妖精』のお陰もあり、構築はスムーズで、なにより内容が非常に分かり易く、書類を精査する必要がないほどだ。

ライト配下で最も頭が切れるエリーにとって、この程度の仕事たいしたモノではない。

ライトも満足そうに頷き、手放しで褒める。

「さすがエリー、文句の付け所がないよ。エリーに仕事を任せて本当によかった」

「ありがとうございますわ。ですが、これもライト 神様(しんさま) が与えてくださった、『SSSR、レベル2864 小人妖精』があってのこと。わたくしの力だけではこれほど完成度の高いモノを作り出すことは不可能ですの」

「そうかな? エリーなら『SSSR、レベル2864 小人妖精』が無くても、同じレベルのモノが作れると思うけどな」

「いえ、わたくしなんて……」

エリーが謙遜を口にしたが、その声音は普段以上に暗かった。

ライトもすぐ未だ彼女がミキ侵入の責を抱えて、気持ちが晴れていないと理解する。

彼は暫し、黙り込み、側付きメイドに声をかけた

「……エリーと2人で話がしたい。席を外してくれ。出口を警備する者達も扉から一時距離を取るように指示を頼む」

「わ、わたしはともかく、警備の者まで遠ざけるのは……」

「僕はそうしろと言ったんだが」

「も、申し訳ございません!」

ライトの一段低くなった声音に妖精メイドが青を通り越し、白くなった表情で部屋を出て行く。

ライトが胸中で『声が厳しくなり過ぎちゃったかな。後でフォローしておかないと』と反省する。

その間に扉の前から気配が消えるのを知覚した。

とりあえず、これでエリーと2人っきりで話し合う環境が整う。

一連のやりとりをエリーは困惑した様子で見守っていた。

ライトは彼女の困惑を気にせず、椅子から立ち上がると歩き寄る。

「ら、ライト 神様(しんさま) ……」

「エリー」

エリーは近付かれて不安そうな声音を漏らしてしまう。

ライトはそんな彼女の手をソッと取り、両手で握り締める。

彼は幼い子供に話しかけるように、声をかけた。

「以前も言ったけど、ミキの侵入や外部への情報流出なんかは、僕にも責任がある。エリーが1人で抱え込む必要は無いんだ」

「……ありがとうございますわ、ライト 神様(しんさま) 。ですがやはりわたくしに全責任があると思いますの」

ミキが侵入する前に気付き、防ぐことが十分出来たとエリー自身が考えていた。

気付かず、彼女の侵入を許し被害を出したのは自分の責任だと。

彼女の言葉にライトが微笑む。

「エリーは真面目だね。そこがエリーの魅力的な所の一つだけど」

「ら、ライト 神様(しんさま) ……」

先程とは打って変わって、ライトに褒められて嬉しさと喜びから声が震えてしまう。

そんなエリーにライトは満面の笑顔を向ける。

「でも僕にも責任があるのは確かなんだ。だから、自分1人で背負い込もうとしないで。エリーは責任感が強くて難しいかもしれないけど、僕もその責任を一緒に支えたいんだ。駄目かな?」

身長はエリーの方が高いため、ライトが意図せずして上目遣いで訴える形になってしまう。

ただでさえライトに手を握られて心臓が高鳴るのに、敬愛する主であるライトの上目遣い、優しい言葉遣い、優しい声音にエリーの心臓はときめき過ぎて爆発しそうだった。

また何より、自分を心配してくれるライトの姿に脳味噌が弾け飛びそうになる。

(す、少しでも気を緩めたらあの ミキ(破廉恥女) のように思いの丈を叫び出しそうになりますの!)

さすがにあんなはしたないマネをライトの前でするのは、エリーのプライドが許さない。

耳まで赤くなっているのを自覚しつつ、消え入りそうな声音で返答した。

「ど、ど、努力いたしますわ」

「ありがとうエリー、僕のお願いを聞いてくれて」

「は、は、はいでしゅの」

最後は複雑に感情が絡み合い噛んでしまうが、そちらに気を裂く余裕すらない。

こうしてエリーの報告が終わった。

☆ ☆ ☆

ライトに報告をした帰り道、『奈落』最下層廊下でエリーは頬がとろけそうになるほどニマニマしていた。

途中、棒がついたグルグルの飴を舐めつつ歩くナズナと遭遇する。

ナズナはエリーに気付き、声をかけようとしたが……彼女の普段見ない様子に驚き目を見張ってしまう。

「え、エリー、オマエ何かあったのか? 顔がぐでんぐでんになっているぞ?」

「……うふふふふ」

「ちょっ!? いふぁい、いふぁい! くふぃをふぃっふぁるなぁ!」

失礼な感想を漏らしたナズナに対して、未だライトとのやりとりで顔が赤いエリーは恥ずかしさを誤魔化すように彼女の頬を両手で引っ張る。

ナズナは暫く、エリーに頬を引っ張られつづけたのだった。