軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話 接触

「葉っぱに虫食いの痕は無し。茎にも変な色はなくて虫もついていないし、枯れている様子も無し……うん、今日も問題無しだね」

ミヤが薬師住居の裏手に作られた薬草菜園をチェックする。

薬草菜園には薬に使う植物が多数植えられており、毎日弟子であるミヤが『各薬草に問題が無いか』チェックしているのだ。

薬草が虫に囓られたり病気になって枯れてしまったりすれば、当然使い物にならない。

そのような問題が起きないように毎日ミヤはチェックしていた。

これも薬師の仕事の一つである。

チェックを終えると、籠に薬草を摘んでいく。

必要量を確保すると彼女は薬師の仕事場兼住居――ミヤが弟子入りした薬師老婆の下へと戻る。

「先生、確認終わりました。全部、問題ありません。今日作る軟膏の薬草も摘んできました。確認お願いします」

「ご苦労様、ミヤちゃん。どれどれ……」

頭からすっぽり頭巾を被ったいかにも『年老いた魔女』という風貌の女性が、ミヤから籠を受け取り薬草をチェックする。

この老婆こそミヤが師事する村の薬師だ。

「問題無いね。それじゃ早速、軟膏を作ろうかね。ミヤちゃん、水を出してもらえるかい」

「分かりました。準備しますね!」

ミヤは指示を受けると元気よく返事をして、桶を持ってテーブルへと置く。

他にも軟膏作りに必要なすり鉢、すりこぎ、薬品などがテーブルに並ぶ。

彼女はテーブルに立てかけていた杖を手に取り、意識を集中。

「――魔力よ、顕現し水を作り形をなせ、ウォーターボール!」

空中に水の塊が姿を現す。

水の塊はゆっくりと移動し、桶へと収まる。

一瞬で桶一杯に水が溜まった。

基礎的な水魔術だが、これが使えるとダンジョン等で水に困ることが無い。

そのため使える魔術師はダンジョンに長期潜るチームなどに引っ張りだこになるが、村などでは井戸があるし、通常の生活では水を魔力から作り出す必要はない。

ではなぜわざわざ魔力で水を作り出したのか?

「ミヤちゃんの作る水のお陰で、薬の効果が高くなって本当にありがたいよ」

「お役に立てて嬉しいです! って、わたしはただ水を出しただけですけど」

ミヤが照れくさそうに笑う。

老婆の孫娘は薬学勉強のためにシックス公国に留学中。

その孫娘からの手紙に、シックス公国でおこなわれている最新の研究論文によれば『ポーションや薬などを魔力で作り出した水で製造した場合、通常の水で作るより効果が高い』という結果が出た、と書いてあった。

手紙の内容に従い、ミヤが魔術で作り出した水で実際に薬を作り出すと――本当に効果が高くなっていた。

お陰で通常より高い値段で売ることが出来るようになったのである。

現状、ミヤは一生懸命に薬学の勉強に励んでいた。

もちろん彼女が努力する理由は、『ダークの火傷痕を癒す薬作り』のためである。

またダークに宣言した通り、魔術師としての研鑽も時間を見つけては積んでいた。

彼女の真面目な態度に、老婆が眩しそうに目を細める。

「ミヤちゃんは真面目で良い子だね。それじゃ早速、作っていこうか」

「はい、今日も勉強させていただきます」

彼女は元気よく答えると、老婆の手伝いとミヤ自身、実際に薬――今回は傷を癒す軟膏を作る。

老婆とミヤが並んで薬を作る姿は非常に微笑ましかった。

――そんな微笑ましい平和な雰囲気を破る音が響く。

扉を叩く音。

ミヤが立ち上がり、念のため扉越しに問いかける。

「はい! どちら様でしょうか!」

『ミヤ、俺だ』

「エリオお兄ちゃん?」

この時間、兄は畑仕事だ。

薬屋に来る理由がない。

ミヤは『誰か怪我でもして緊急で薬が欲しくなったのかも』と予想し、慌てて扉を開く。

扉を開くと、いつも通りの雰囲気の兄エリオが立っていた。

彼の雰囲気と表情から、緊急事態ではないらしいと老婆とミヤはすぐに気付く。

「……急に尋ねて悪い。村にいつもの行商人が来たから、声を掛けに来たんだが」

「もう来てくれたんだ。今月はいつもよりちょっと早いね」

村に店は無い。

そのため行商人が月1で訪れた時に購入するか、自分達で街に行くしかなかった。

行商人も馬車移動のため、事故や雨などの災害、モンスターの襲撃等で必ずしも毎月正確な日時で到着することはなかった。

あくまでだいたい『月1』という感覚である。

今回はいつもに比べて早かったが。

「知らせに来てくれてありがとう、お兄ちゃん。ついでにお薬を運ぶから荷物持ってもらってもいい?」

「構わないぞ。そのために来たんだから」

行商人がやってくるこの時は、商品を購入するだけではなく、村人が作った商品を売るチャンスでもあった。

ミヤ達の場合、余剰分の薬を行商人に卸している。

ミヤが魔術で作り出した水のお陰で、薬の効能が高くなり値段も少しだけ高くなったが評判は上々。

商人が村に寄ったら必ず購入する商品となっていた。

「お兄ちゃん、この箱をお願いね」

「了解、了解……よっと!」

「ありがとうね、いつも悪いね」

老婆が薬を纏めた箱を持つエリオに声をかける。

彼は笑顔で返答した。

「いえ、これぐらい妹がお世話になっているのですから、お安いご用です」

以前は足が悪い老婆のため、直接商人が顔を出し、薬を受け取っていた。

現在はミヤかエリオが手伝って商人が居る所まで運んでいた。

老婆は再び目を細める。

「ミヤちゃんもだけど、エリオちゃんも良い子だねぇ」

「ははは、ありがとうございます……」

ミヤはともかく、自分まで『ちゃん』付けで呼ばれエリオが微妙な笑みを零す。

わざわざ否定するのも気まずいため、笑うことしか出来なかった。

ミヤはそんな兄に声をかけて急かす。

「エリオお兄ちゃん、早く行こう。先生、では薬を卸しに行ってきますね」

「お願いね。こっちは引き続き薬を作っているからね」

老婆に声をかけた後、兄妹は会話をしながら行商人が待つ村中央へと向かうのだった。

村の中央広場に、見慣れた馬車が停まっていた。

幌馬車で1馬引きの年季の入った馬車だ。またもう1台の馬車が続く。

幌馬車荷台には塩、布、鉄製品、釘、皿、保存食など村ではなかなか手に入らない物が複数積まれている。

いつもなら、その商品を購入したり眺めたりしようと、娯楽に飢えた村人達が一斉に群がるのだが……。

「ようやく村についたぜ!」

「ひゃっはー! 井戸があるぜ、水だ! 水が遠慮なく飲めるぜ! ひゃっはー!」

「水だけじゃないぜ! 酒と温かい飯をたらふく食えそうだぜ!」

「どうやら今夜はまともなベッドで寝られそうだな!」

「へっへっへ……今夜が楽しみだな!」

見慣れた商人の傍に、見慣れないモヒカンで武装したガラが非常に悪い冒険者達がたむろしているのだ。

そのせいで村人達が近づけず遠巻きに見ているしかできなかった。

エリオ、ミヤもあまりに予想外な光景に、

「お、お兄ちゃん、あの人達なに?」

「お、俺にも分からないよ。行商人が来たって人から聞いたから呼びに行っただけで直接見てた訳じゃないから……」

兄妹そろって状況についていけず、村人達同様遠巻きに見つめるしか出来なかったのだった。