軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 遺跡の海

僕にとって『海』とはお話の中のモノだ。

貧農時代両親や大人達から聞いて、『種族の集い』時代は冒険者達から、『奈落』時代は 恩恵(ギフト) 『無限ガチャ』から出た本などで『海』がどのようなモノか理解した。

現在の僕がその気になれば『海』を直接目にすることは難しくないが、わざわざ見物に行く必要性がなかったため考えもしなかった。

しかし『大規模過去文明遺跡』内部にも拘わらず、目の前に広がる光景は話や書籍で見聞きした『海』としか表現できない。

地下なのに先程と同じように天井から太陽光のような光源があり、見渡す限り青い海水が白い波を作っては消えていった。

僕達の下にある小島(半径50m)の一部が砂浜になっており、まさに本で見た通りの海辺の風景だ。

「ダンジョンならともかく……人の手で海を作り出すなんて……」

ストーンゴーレムが溢れ出た一つ上の階も驚いたが、目の前に広がる光景はそれ以上の衝撃を僕に与える。

まさか地下に海を作り出すなんて。

むしろよく作ろうと思って、実行し、完成させたものだ。

メイの糸箱が静かに小島へと着地する。

小島には一部木々しかなく、非常に見晴らしが良い。

ひとつ上の階の時と同じように、最初に僕達が下りてモンスター、罠などが無いかの確認をし、その後、ドワーフ種達に下りてもらう。

小島にモンスターの気配は無く、罠も無い。

『ウヒョォォオォォォォォォ!』

糸箱から下りたドワーフ種達が、興奮気味に駆け出す。

ある者は地面をほじくり、土や草花、砂浜の砂を採取。

ある者は海水をひと舐め、問題が無いと分かるとごくごく飲み出す。

ある者は海中を観察しようと服を脱いで飛び込もうとしたが、さすがに止めた。海中までどうなっているか分からないためだ。

……興奮したドワーフ種は下手な敵より厄介かもしれないな。まるで子供の引率をしているようだ。

僕は軽く溜息をつき、メラに指示を出す。

「メラ、上の階と同じように周囲の探査を頼む」

「ケケケケケ! 了解しました、ご主人さま!」

メラは再び体を変化させて分体を作り出す。

両腕から4羽の顔立ちが凛々しい猛禽類を作り出すと、長い裾から飛び立たせる。

僕はその鳥達を見送り、周囲をぐるりと見回す。

「メラの分体が戻ってくるまで、ここで休憩かな。さすがに目標もなくこの海(?)を移動するのは危険だからね」

「ライト殿! その間にこの小島や海の研究をしててもよいか!?」

もじゃもじゃと髭を生やしたオッさんドワーフ種達が、少年のようにキラキラとした瞳で訴えかけてくる。

ここで『駄目です』とも言えず、僕は再び溜息をつき許可を出す。

メラの鳥達が戻ってくるまで実際、時間がある。その間、暇なのは確かだ。

「護衛を付けますが十分注意してくださいね。小島はともかく、さすがに海中に何があるのかまでは僕達でも把握し切れませんから」

脅しではなく、いくらレベル9999で気配察知能力が高まっても、海中の内部まで把握するのは難しい。

水際までならともかく、海中深くまでをとなるとほぼ不可能である。

メラのように体の一部を魚類化、解放し探査させて回収後、記憶を確認する――なら、詳しく把握することが出来るだろうが、僕達ではさすがに無理だ。

「護衛を付ければいいんじゃな! 分かったわい!」

ドワーフ王ダガンが元気よく返事をすると、ドワーフ種は二手に分かれる。

小島の研究と、砂浜&海水側の2つだ。

僕はメラ、スズ達に指示を飛ばす。

「メラ、スズ、彼らの護衛を頼む」

『海中カラ襲ワレテモスグニ対応デキル、おいら達ガ海側ニ就キマスワ』

「(こくこく)」

「ケケケケケケケ! ならアタシは小島側のドワーフ種達の護衛に就くよ」

ロックの進言で、メラが小島側、スズ達が海側と綺麗に別れる。

ちなみに護衛に選ばれなかったナズナはというと……。

背負った大剣を手にして興味深そうにばしゃばしゃと波に触れさせたり、砂浜を掘っていた。

一応、彼女が持つ大剣は『奈落』内部で僕が手にする『 神葬(しんそう) グングニール』に次ぐほどクラスが高い。

……ちなみに、僕の『無限ガチャ』から出るカードのレア度合いと、 神話級(ミトロジー・クラス) 、 幻想級(ファンタズマ・クラス) などの 級(クラス) との間には同一性というか、単純にSURは何級、URは何級、というような法則性はない。

どうやら『無限ガチャ』カードのレア区分は、その武具や道具がレアか有能か、で区分しており、逆に 創世級(ジェネシス・クラス) ~ 遺物級(レリック・クラス) は魔力の含有量や攻撃力・防御力・回復力等を基本としているようだ。

『無限ガチャ』は、強さももちろん重要だが、『レア』な能力を持つものも上のレアリティに区分されやすい。その辺りについては『無限ガチャ』は僕だけが持つ能力のため、特殊性があるということなのだろう。

(……まあ、ナズナの剣は魔力で護られているし、海水に濡れて錆びるような物ではないからいいのかな?)

そんな事を考えていると、後ろから声がかかる。

「ライト様、ご休憩場の準備整いました」

「……ありがとうメイ」

メラの鳥達が戻ってくるまでどう考えても時間がかかる。

待つ間の場所としてメイがアイテムボックスから日陰用傘、テーブル、椅子、紅茶セット、間食の菓子を取り出し設置し終えていた。

海の青さに合わせて白を基調にするなど、色彩バランスさえ整える余裕がメイにはあった。

未だ誰も戻ってきた事がない危険な遺跡内部にもかかわらず、ここだけ貴族庭園のお茶会のような雰囲気が漂う。

メイが椅子を引いて、僕が座りやすいようにしてくれる。

席に座ると彼女が慣れた手つきで紅茶を淹れてくれた。

『無限ガチャ』から出た茶葉でどこの産地の物かは分からないが、甘く華やかな匂いがするため個人的には好みだった。

「うん……美味しいよ、メイ」

「ありがとうございます」

温度、濃さ、味、匂い全てが僕の好みで落ち着く味だ。

初めて聞く波の音が繰り返し耳を叩く。

最初はちょっと『想像してたよりも音が大きいな』と思っていたが、だんだんと繰り返し聞いていると波の音が心地よくなってくる。

給仕として側に立つメイも、波の音が心地よいのか目を閉じて耳を傾けているようだった。

危険な遺跡内部にいるにもかかわらず僕は非常にリラックスしてしまう。

紅茶を飲んで少しだけぼんやりしていると、視界の隅でナズナがドワーフ種のマネをして海水を手で汲むと口に入れて飲む。

「うげッ!?」

海水が予想以上にしょっぱく、不味かったらしく、声を漏らすとぺっぺっと吐き出す。

行儀が悪い行為にメイが眉根を顰めるが、ナズナは気付かず涙目で僕へと駆け寄ってくる。

「ご、ご主人ざま~」

「ナズナ……何をやっているのさ……」

「だって、ドワーフ種達が飲んでいるから、美味しいのかなと思って」

海水を汲んで、口に含み味を確かめているドワーフ種達は居るが、何もマネをしなくても……。

僕は呆れつつ、甘いクッキーと飲んでいた紅茶を手渡す。

涙目のナズナが紅茶で口内の海水を洗い流し、クッキーで甘みを補充した。

「ライト様と間接接吻……」

「…………」

メイが小さく言葉を漏らし、海で護衛に就いているスズが羨ましそうな視線を向けてくる。

ナズナは一切そんな言葉や視線に気付かず、いつも通りの明るい笑顔を取り戻す。

「ありがとうございます、ご主人様! やっぱりご主人様は優しいから大好きだっ!」

「はいはい、ありがとう。今度からは何でもかんでも口に入れないように注意するんだよ?」

「大丈夫、分かってる!」

ナズナは……返事だけは元気があるんだよな……。

ちょっと心配しつつも、彼女はそのままメイに声をかけて新しい椅子を出してもらう。

座るとお腹が減っていたのかパクパクと目の前のお菓子を食べ始める。

お菓子を食べ、紅茶を飲む姿は非常に幸せそうで、見ているこちらも幸せな気分になる。

――数時間後。

メラが放った分体が何かを発見したらしく戻ってくる。

メラが分体と再統合し記憶を確認する。

「――ケケケケケ! ご主人さま、どうやら南方に上で見た二重螺旋が建つ小島を発見したようです。空から見る限り、下に潜る穴がまた空いているようですね」

「ありがとうメラ、頼りになるよ」

「ッゥ! ケケケケケ! お礼など必要ありませんよ。アタシ達はご主人さまのお役に立てることこそ最上の幸せなのですから!」

メラは僕に褒められたのが嬉しかったのか、顔を真っ赤にして身震いし言葉を上げる。

身長が高く、口が大きいためか一部から怖がられているが、顔を赤くして喜ぶメラは非常に可愛らしかった。

むしろ、メラはやや皮肉屋だが、素直で可愛い子だと思うんだが、どうして一部とはいえ怖がっているのだろう?

胸中で首を傾げつつ、次に向かう方角へと視線を向けた。

「……さて次は南方へ向かうのはいいとして、どうやってこの海を渡ろうか?」