軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72 魔法評議会

朝早くスパイクさんの知らせの鳥が現れた。

「ニナは魔法協会に来てくれ。魔法評議会にはレクセンティウスさんとフレッド君は参加できない」

「わかりました」

「ベンジャミン君は魔法使いになる意思があり、成人しているから見学できるんだよ」

それを聞いたレクスさんがとても心配して、「無理だと思ったら身を引くことも勇気だから」と言う。フレッド君は元気がない。

「マイヨールとまたあうのか?」

「どうだろう。よくわからない」

「おれはいつニナといっしょにいけるんだ?」

「成人してからだから……十七歳になったらかな」

そう答えるとフレッド君はテーブルに突っ伏した。

「すげえおとなじゃん……オレ、ごさいなのに。いつだよそれ」

「十七歳なんて結構すぐだって」

「すぐじゃねえよ」

私が立ち上がって出かけようとしてもフレッド君は顔を上げない。

「魔法協会まで送るよ。その後はここで待ってる」

「はい。フレッド君、行ってきます」

「うん」

テーブルから顔を上げないフレッド君をレクスさんが抱きあげた。三人が無言のまま車に乗り、魔法協会の前に着いた。降りようとする私の手をレクスさんが握って「無理はしないで」と言って私の顔を見る。

「終わったらすぐに帰りますね」

「うん。アシャール城で待ってる」

レクスさんは微笑んで送り出してくれたけど、フレッド君は私を見なかった。

魔法協会に入ると、今まさに知らせの鳥が集まりつつあるところだった。スパイクさんは私を見ながら頷き、次々と知らせの鳥を送り出している。

人間は私、ベンジャミン君、クローディアさんとスパイクさんの四人のみ。ベンジャミン君は私に会釈しただけで、隣のクローディアさんと話をしていた。そこへ「遅くなった」と言って師匠が入ってきた。

「師匠!」

「ニナ、話はあとだ。座りなさい」

師匠が厳しい顔でそう言って、私から離れた場所に腰を下ろした。

部屋中に色とりどり、大きさも様々な鳥が場所を確保したところで評議会が始まった。

「では評議会を始めます。今回、マイヨール・デテウが犯した罪は既に知らせた通り。非魔法使いへの悪意ある魔法の使用、及び魔法を使った窃盗です。協会員の皆さんの判断をお願いします。有罪と思う方は窓際へ。無罪と思う方は入り口側に移動してください」

四十数羽の小鳥が一斉に窓際の本棚、椅子、カーテンレールに飛び移った。羽ばたく音が全くしないところに違和感がある。

師匠とクローディアさんが立ち上がって窓際に立った。私もその隣に立つ。

「ふむ。では有罪は決定です。量刑については一人一人のご意見を伺いましょう。ゲインズ」

「魔法の使用を禁じるのが相当と考えます」

「マックス」

「ゲインズに同じく。魔法の使用禁止を望みます」

「ビムズリー」

「魔法の使用禁止を」

スパイクさんが名前を呼ぶと、その都度小鳥が羽ばたき、空中で答える。それを繰り返して最後の一羽になった。真っ白なオウムだ。

「カニング」

「マイヨールの罪は使用禁止措置が相当だが、彼を魔法使いと認めなかった魔法協会に責任はないのだろうか。私は魔法協会も何らかの責任を負うべきと思う」

「待って。私はその意見には反対よ」

反対したのは胸が濃い桃色のベニヒワだ。

「スパイク、マイヨールは魔法協会に認定を希望したのよね?」

「三十五年前に申請しています。しかし彼は他の魔法が使えなかったので、却下されています」

「そのときはそれがルールだった。魔法協会の判断に問題はないわ。ルールは時代と共に変わる。さかのぼって文句を言い出したらキリがないわよ」

「ニナ、同じ理由で君も長いこと認定されなかったね。君はどう思う?」

スパイクさんの言葉で、すべての小鳥が一斉に私を見た。師匠とクローディアさんも。

「一般の法律は時代によって変わります。私たちは法律の下で守られ、暮らしています。同じように魔法協会のルールが変わったとしても、そのときそのときのルールに従うべきだと思います。ただ……」

(どうする? 聞かれていないことまで意見を言う?)と迷ったけど、言うことにした。

「ルールを厳格に運用するのなら、そのルールに漏れがないか、時代に合っているか、頻繁に確認する必要はあると思っています。それと、私はマイヨールの娘さんから『自分と母親の記憶を父から消してくれ』と頼まれています。私はどうすべきか、ご判断をお願いします」

「ふむ。それについて皆さんはどう思いますか?」

それについてもスパイクさんが皆の意見を聞いた。驚いたことに、全員の答えは同じだった。

「依頼されたニナが決めるべきこと。それは評議会が決めることではない」

私は慌てて声を上げた。

「待ってください。マイヨールが記憶の削除を望まない状態で記憶を消したら、彼がどうなるのか私にはわかりません」

「ラングリナ、師匠であるあなたの意見は?」

師匠は立ち上がり、私を見ないで話を始めた。

「我々の魔法も、非魔法使いの医者が使う薬も、使用後の結果を百パーセント保証できないのは同じだ。ニナは成人している正規の魔法使いだ。ニナが判断すればいいと思う」

そんな、と言いかけてやめた。そうだ、私は一人前の魔法使いだ。私が私の責任において判断しなきゃいけないんだ。

「わかりました。もう一度娘さんに面会して話し合います」

「では、カニング、君も魔法の使用禁止に賛成でいいですか?」

「賛成で」

「では、マイヨールの魔法使用禁止措置ですが、ラングリナからその処置を引き受けると申し出がありました。ラングリナに任せて問題はありませんか。反対の方は意見をどうぞ」

反対意見は出なかった。

「ではマイヨールの措置はラングリナに依頼します。評議会はこれにて終了します。ご参加ありがとうございました」

小鳥たちは姿を消し、師匠が私の前に立った。私を見送ってくれたあの日と同じゆったりした紺色無地のワンピースを着ていて、髪もあの日と同じ緩めに編んだ三つ編みだ。

「久しぶりだね、ニナ」

「師匠!」

何も考えずに抱きついた。

「スパイクから話は聞いているよ。頑張っているようだね」

「はい、はい」

「私はこれからマイヨールのところへ行く。お前はどうする? 見ていて楽しいものじゃないから……」

「一緒に行きます。でも、もうですか?」

「そうだ。マイヨールが収監されたまま大人しくしている保証はない。一日も早く彼の能力を封じる必要があるんだよ。モタモタして今回の事件が魔法使いの犯罪だと知られれば、魔法使いへの逆風が世間に吹き荒れる。特にニナ、お前は同種の魔法を使う身だ。それを知られれば、下手すりゃ暴走した非能力者にお前が襲われる」

師匠は優しい笑顔で私の頬を撫でた。

「真面目なお前がマイヨールのとばっちりを受けることは、なんとしても避けなければならない」

「あらまあ、師匠。ずいぶん優しいんですね? 姉弟子としてはちょっと妬けちゃうわ」

「姉弟子? クローディアさんは師匠の弟子なんですか?」

「そうよ。言わなかったかしら。私はラングリナ・エンドの弟子なの。ニナも家事に苦労したでしょう? 師匠は大雑把な人だから」

「相変わらず失礼な弟子だね。おおらかと言いなさい」

ああ、そういう縁でクローディアさんは私を助けてくれたのか。

私がお城で襲われたときに助けてくれたのは「近くにいた」という理由だけじゃないんだ。

「では出発しましょう。ベンジャミン君はここまでだよ」

スパイクさんの掛け声で、私たち四人は出発した。