軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60 意識を失う

マイヨールが捕まらないと話を進められない。

私が美術館職員の嘘の記憶を取り出すにしても、私を疑っている人の記憶を抜き取るのは危険な気がする。ここは落ち着いて対処を考えたい。

殿下も同意見で、今日はこれで解散になった。

夕飯は帰りにパイのお店『パイとペストリー ミゼル』で買って済ませることにした。

熱いシャワーをたっぷり浴びて髪を拭いていると、フレッド君がドスッと背中に頭突きしてきた。

「痛いんですけど?」

「オレ、 マ(・) イ(・) オ(・) ー(・) ル(・) がきにいらない」

「マイヨールなら私も気に入りませんよ」

「まほうはいいものだろ? なんでわるいことにつかうんだ?」

「人間はね、生まれたときは天使だけど、そこから少しずつ汚れていくのよ」

「ふうん。じいさんはみんなわるものなのか?」

「そんなことないわ。心が汚れないお年寄りもいます」

少し間が空いてから、「レクスは?」と聞かれた。

「レクスさんは心がきれいなおじいさんになります。……たぶん」

そこで下の階から声がかけられた。

「夕食にしよう。下りておいで」

「はあい! 今、行きます!」

「こころのきれいなじいさんがよんでるぞ……ぷぷ」

「その話は内緒ですよ」

「わかってる」

二十八人という過去最高人数の記憶を一気に見た私は、へとへとだった。

食事の途中で猛烈に眠くなって、レクスさんに何を話しかけられてもまともに答えられない。

その上、まるで子供のように上半身がグラグラして、(あれ? 眠すぎてふらついてる?)と思ったところまでは覚えている。

気がついたら居間のソファーで寝ていた。

「目が覚めた? 気分はどう?」

「やだ……私ったら食事の最中に眠っちゃったんですね。子供みたい」

「違うよ。フレッドに頼んで師匠に知らせの鳥を送ってもらったんだ。事情を話したら、ニナは過労で意識を失ったのだろうと言われた。ベッドで寝たほうがいいね。二階まで僕が支えるよ」

「なにか甘いものを食べたい……けど、なんにもないですね。ハチミツでも舐めようかな」

「いいものがあるよ。ちょっと待ってて」

レクスさんが階段を駆け上がり、紙袋を持って下りてきた。袋からパラフィン紙に包まれた棒状のものを一本、渡してくれた。

包みを開けると中はずっしりした焼き菓子で、レモンの香りがする砂糖衣がかけられている。

「いただきます」とかぶりついたらすごく美味しい。

だけど(これは飲み物が必要になるお菓子だ)と思って立ち上がったら、グラリと頭が揺れた。レクスさんが私の肩を押さえてソファに座らせる。

「いいよ、飲み物なら僕が持ってくる。なにがいい?」

「お湯を」

「わかった」

レクスさんが白湯を持ってきて、私の隣に座った。

「ニナが疲れ切っていることに気づかなかった。想定できたことだったのに、ごめん」

「ううん。私も気づかなかったんですから」

「師匠がスパイクさんに連絡してくれて、ニナはマイヨールが捕まるまではお城に行かなくていいことになった」

よかった。かなり疲れているから、休みたかった。

「すり替えられた宝石はどうなったのかな。真っ当な宝石店は由来のわからない高価な宝石を買い取らないはず。闇市場で売れば買い叩かれる。すり替えが露見した場合のリスクを考えれば、今回の件は割に合わない犯罪だ」

「動機はおそらく、お金ではないと思います」

「殿下はいったい、どこでどんな恨みを買ったのだろう。きっと無自覚なんだろうな。なんだか、他人事とは思えないよ」

リンダさんの件以降レクスさんは自信を失って、出会った頃のクールな感じが消えている。

しかも最近は魔法使いの世界に関わっているから、無力感が強いんだろうなあ。

「レクスさんを魔法使いの世界に巻き込んで振り回していますけど、役に立ってないと思わないでくださいね。レクスさんがいてくれて私はどれだけ心強いか」

「ありがとう。でも、僕は今までこれほど役立たずだったことがなかったから、ちょっとね」

「私は小説を書けませんけど、レクスさんは私を見下さないでしょ?」

「そりゃそうだよ。だって……。ああそうか。そうだね。同じことだね」

「同じことです。これ、美味しいですね」

ドアが開いて、パジャマ姿のフレッド君が居間に入ってきた。

「ニナァ、めがさめたのか?」

「うん。ごめんね、食事の途中で眠っちゃって」

フレッド君が走って私に抱きついた。

「びっくりしたぞ」

「もう大丈夫ですよ」

「ニナが意識を失って、フレッドは泣いていたよ。君の師匠に『ニナは過労だろう。フレッドも魔法を使い過ぎるとそうなるよ』と注意されたんだ」

「やめろよお。オレがないたことはいうなよぉ!」

「ごめんごめん」

私はフレッド君と寝室に入り、一緒のベッドにもぐり込んだ。

「ニナ、オレはあしたからひとりでねる。オレはつよいまほうつかいになるぞ。つよいまほうつかいは、ひとりでねられる」

「そう? じゃあ、隣の部屋をフレッド君の部屋にしますね」

「うん。でも、たまにこのへやでねてもいいか?」

「いいですよ。おやすみなさい、強い魔法使いさん」

「ふへへ」

明日は公園での仕事も休もう。ここでゆっくりすごそう。

そう決めたらまた、ドロドロに眠くなった。