軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇魔法は悪いものではない。

アゼリアの闇属性は誰かのためになるものだ。

そんな言葉はアゼリアにどんな風に響いたか分からない。もしかしたら何も変わっていないかもしれないが、アゼリアは真綿が水を吸収するように、どんどん内側から綺麗になっていくように思えてきた。

最初は食べ方。

食べ方が分からずに食べさせていたのが嘘みたいに、テーブルマナーを身に着けて上品な食べ方になってきた。

次に勉強。字を書くのも大変だったのだが、文字を教えている教師が、

「誰かに毎日手紙を出せば上達しますよ」

などと告げたとたんに毎日自分にアゼリアが手紙を書いて渡してくれる。

最初は簡単な文章。誤字脱字が目立っていたが、それもどんどん少なくなっていき、難しい言葉が増えてくる。

それでも、難しい言葉を使おうとして意味が間違っているのもあって、それを微笑ましく読んでしまい、あとで知ったアゼリアが慌てて手紙を回収しようとすると言うこともあり、それもまた可愛らしいなと思っていたのだが……。

「………またか」

手紙とは喜ばしいものばかりではない。前世の時にも思ったけど、たまに来る手紙は面倒なものが多い。

「リュカスさま。どうしましたか?」

いつものようにメイド服に身を包んで、こちらを覗き込んでくる。

「ちょっとね……」

お茶会の誘い……というかうちの娘と内々にあってほしいといういわゆるお見合いの誘いだ。

こういうのは父たちに出せばいいのに自分の方にも送ってくる。

(父上達じゃらちが明かないと思われているのだろうな……。表向きは同じ年頃の子供との顔合わせという体裁をとっているようだし)

「身分も釣り合う相手があまりいないから白羽の矢が立ったのか」

相手は公爵令嬢。10年早く、または5年遅ければ王族に嫁ぐことも可能だったかもしれないが、一番若い王族は御年5歳。上の年齢は成人なされて結婚している。

自分と同じ9歳ぐらいで王族はおらず、王族の年齢に貴族子息、令嬢は側近、または婚約をさせたいために年齢を合わせようとするから王族と年齢が釣り合わないころに運悪く生まれた子供たちは丁度いい婚約できそうな相手は少ないのだ。

「リュカスさま? どういう意味ですか?」

アゼリアには難しい言葉だったようだ。もしかしたら前世の言葉を使っていたような……。

「白羽の矢ってこの世界にもあるだろうか……」

古事記とかで出てくるけど、もしかして無いような……。

「……リュカスさま」

答えてくれないことで不安そうに視線を揺らすアゼリアの姿に罪悪感が芽生える。

「えっと、ごめん。この手紙はお茶会の招待状……という名目のお見合い……うちの娘を嫁にしませんかという内容なんだ」

「…………………リュカスさまのお嫁さんはわたし? ですよね?」

きょとんと首を傾げる様に可愛いなと思いつつ、

「そうなんだよね……」

何でそんな自分に話を持ってこようとするんだろうか。

「――当然ですよ。若さま」

ずっと話を黙って聞いていたメイドが口を開く。

「若さまは、朝に弱くて起きられない困った性分だと知らない人からすれば、全属性持ちの侯爵家跡取りです。婚姻を結びたいと思うのも当然かと」

「朝弱いのは事実だけど、そこで持ち出すのは……」

勘弁して。自分付きのメイドに伝えるとくすくす笑って黙ってくれる。

メイドたちはいないもの扱いをする。

それが貴族の常識だったが、そこは前世の記憶がある立場。そんなことが出来なかった。

なので、幼い時に年相応の対応をしてほしいと伝えた。

誰かをいないもの扱い。誰かに傅かれるのを当たり前になってしまったら自分は傲慢な人間に育つだろうから。

いくら今は侯爵子息とは言え、前世の習慣とかは抜けないし、根っからの小心者だ。変な驕りが生まれると思う。

なのに、それを、聡明な子だとか、先が有望だとかで過大評価はやめて欲しい……。ただでさえ、全属性持ちなんて分不相応なものを持っていて、精神的につらいのに。あと、眩しいのも勘弁して。

「それと……」

「ルチアーナ?」

メイドのルチアーナが言い淀んでそっとアゼリアを見る。

ルチアーナの口が動く。風属性のルチアーナが空気を操って、自分だけに聞こえる声を送る。

「闇属性のアゼリアちゃんがリュカスさまの庇護下にいると知り、それを欲した家が、娘をリュカスさまに息子にアゼリアちゃんと婚約させようと目論んでいるとか」

ルチアーナの言葉は他のメイドにも聞こえていたのか。

「メイドの格好をしているのを誰かが見たようで、アゼリアちゃんの格好とか引き取られる前の状況も調べて、その……御せると」

「………ふ~ん」

髪の一部が風属性の色に染まる。風を操る程度なら髪の先だけ染まる程度で済む。

そんな目論見か。

自分のことはいいけど、アゼリアを利用するつもりなのが許せない。

「リュカスさま。それに関して一つ提案が」

ルチアーナの言葉に任せると伝えると、自分の知らないところで話をされているのを察したのかアゼリアが不安そうにこちらを見てくるのをそっと頭を撫でて誤魔化した。

黙っているのは心苦しいが、アゼリアには知ってもらいたくないという想いもあったので。

まさか、数年後。唇の動きを読んで内容を把握する技術をアゼリアが身につけるなんて思わなかったが……。