軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5

アゼリアは屋敷に到着した当初は所在なさげに怯えていた。

馬小屋や物置小屋を探してそちらで休もうとするさまに。以前、どんな暮らしをしていたのか想像できてしまう。

そんなアゼリアに一室を用意してもらったが居心地悪いのか部屋の隅で丸くなっていたとメイドから報告が来たので旅の間に自分の次に懐かれたメロウに相談して、一番小さな部屋か自分の隣の部屋を用意できないかと執事に頼んだ。

執事は隣の部屋を用意して、近いうちに部屋と部屋の間に扉を作り、行き来できるようにすると業者に依頼していた。

メロウは裁縫室に自由に出入りする権利を得て、アゼリアのための服をいくつか作っていた。

メイド服がいくつかとメイド服ではないが動き易い格好の服。本格的な服はアゼリアがこの環境になれてからでいいだろうと判断したのだが、白い服とか紫色の服が多いのはなぜだろう。

そんなアゼリアの生活は当初はずっと自分にくっついていたが、しばらくすると慣れたのかメロウの後にくっついてメイド仕事をするようになった。

「若様~。アゼリアちゃんに勉強を教えれませんか~?」

そんな日々の中メロウがいきなりそんなことを言いだした。

「どうしたんだ?」

「いや~。アゼリアちゃん。若様とずっといるのは迷惑ではないかと判断していたみたいで~。寂しいなら素直にお手紙を出せばいいと告げたら恥ずかしそうに……」

『文字、知らない』

と教えてくれた。

メロウに報告されるまでその可能性を考えなかった自分に腹が立つ。

(前世の影響を受け過ぎていた)

識字率の高い国出身なので、誰もが文字が書ける、読めるのは当然だと思い込んでいた。そうではないのは家に仕えている者達で分かっていたのに。

「分かった。手配する」

「お願いします。基本のことは今教えている最中なので」

「そうか。――感謝する」

メイドたちは先輩メイドが教える。その流れでアゼリアもを教えてもらっている最中だが、アゼリアは自分の嫁として連れ帰ってきた貴族令嬢だ。メイドたちよりも知らないといけない知識がある。

父に相談して、いい人材を……。少なくとも8歳で知識が遅れている少女に優しく教えて、それでいて、8歳相応の知識が身につくような教え方の上手い人を……。

「あっ、それから。若様って、全属性持ちですね」

「そうだが」

いきなり何を言い出すのだ。

「アゼリアちゃんに闇属性は悪いものではないとさりげなく、教えてあげてください。闇属性が悪いものと偏った知識を持っていたら成長を妨げる気がするので」

「…………」

なるほど。あり得る。

ふと視線を感じてそちらを見るとこちらを窺うアゼリアの姿。

「分かった。――アゼリア。おいで」

アゼリアの嬉しそうな顔。呼ばれるままにこちらに向かってくるアゼリアの手を繋いで、そっと中庭に向かう。

中庭で地面の腰を下ろして、アゼリアに隣に座る。

「いいものを見せてあげるね」

水の塊を空中に浮かべる。

「先日やって見せたけど、蜃気楼……水の魔法を使えば幻覚を作って擬態できるんだ」

光の乱反射とか蜃気楼とかを作用させて黒い髪も黒以外の色だと錯覚させれる。

「水系の魔術で強い人は日照りの所に雨を呼べる」

農業系の人が就く職業だと言われている。

「次に炎」

いくつかの炎を浮かべてくるくると回す。

「きれい……」

「炎系の魔術はこの見た目とかで人気。明かりや暖房。武器とかにも使えるから重宝される」

全属性持ちだけど、得意不得意というのはやはりあって、両親から受け継いだこの炎属性と水属性が得意だったりする。

他の属性はまだ練習中なので先生のいない場所では使うのは禁止にされているが、教師がいないので独学で学ぶ必要がある属性が二つある。

まず。光。

していることは炎と同じように光っている。だけど、炎と異なるのは、

「アゼリア。見てて」

花のつぼみ。その鼻に光魔法を注ぐとあっという間に花が咲く。

「わぁ」

歓声をあげるアゼリアに悪いがここからが本番。

咲いた花を乱暴に折って花を潰す。

「……っ!!」

アゼリアの悲しそうな顔に目を背けたいが、それでは続きが出来ない。

再び光を注ぐと折れて潰れていたはずの花が回復する。

「光魔法は 身(・) 体(・) の(・) 治癒能力に特化しているんだ」

治癒に特化。とは言うがあくまで身体の話。光魔法をアゼリアの母国……とは正直言いたくないが、あの国はそれがあったから光魔法を崇めている。

それと対照的に闇魔法を嫌悪して、闇属性のアゼリアが冷遇されていた。だが、我が国は違う。

そっと闇魔法を使って、黒い幕を中庭に張る。

闇魔法で冷遇されていたアゼリアは使われた魔法が自分の属性である事とそれでどんな目に合わされてきたのか理解しているから闇魔法を使ったとたんこちらを案じるように見つめてくる。

優しい子だ。なんでこんな優しい子に冷遇なんて出来たのだろうか。

安心させるようにそっと撫でて、

「闇魔法はね。心を治癒するんだ」

「心……?」

闇に包まれた空間にそっと炎を浮かべる。

「闇魔法は精神が不安定な人を休ませるための眠りの魔法。周りと距離を置きたい人を遮断して逃げ場を作ってあげるんだ」

防音などにも適している。前世に聞いたことある話で、音に過敏な人に防音設備のある場所に避難させて気持ちを落ち着かせる……確か、パニックルームだったかな? そんな空間が必要だとか。

闇魔法はそれが出来るのだ。

光魔法が肉体なら闇魔法は精神。だけど、外側は分かりやすいけど、内側の傷などは人は理解しにくい。なので闇魔法の効果を知らなかったのだろう。

我が国で知ったのも近年らしく、震災で精神が病んでいた子供に闇魔法の人が気持ちを落ち着かせる魔法を作ったのが始まりとか。

「闇魔法が恐ろしいと言われているのは正体が分からないからなんだ」

闇魔法という名前こそついているが、能力は真空とかそんな感じなのだ。

空気を遮断する空間など怖いだろう。だけど、理解してしまえばそんなもの。

「空気が密封状態になることで保存食というものが発明された。便利な魔法なんだよ」

だから怯えないで、魔法も道具も使い方次第なのだから。

「闇があるからこそきれいなものがあるしね……」

前世の花火のような炎を生み出して見せる。昼間では見えない炎の花。

「うん……」

ぼろぼろと涙を流すアゼリア。その涙をそっと拭ってあげる。

アゼリアの心の傷は簡単に癒されないだろう。だけど、癒す手伝いが出来ればいい。そう思った。