軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第152話 赤の呪縛と魔法使いの憂い

ミヅハとは別の場所でゼクトが、そしてリゲルたち四人が盗賊と交戦する。ゼクトは自分一人で請け負うこともできたが、仲間たちに経験を積ませる判断をした。

「おりゃぁっ……!」

「――せやぁっ!」

リゲルが果敢にブロードソードで盗賊に斬りかかる。同時にライアも切り込み、刀を抜いて斬り払いを繰り出す。

「っ……なんだ、この手応えっ……!」

盗賊は曲剣でリゲルの剣を受け止める――すると曲剣が赤い輝きに包まれ、リゲルの剣の刃が浮き、強引に押し戻される。ライアも不自然なほど手応えを感じず、盗賊の革鎧は削れてすらいなかった。

「――ただの鎧ではない……やはり、この者たちは……リゲル、退けっ!」

「うぉぉっ……!!」

リゲルとライアは左右に転がるようにして反撃を避ける――次の瞬間、後ろに控えていたマッキンリーが放ったボウガンの弾が、盗賊の一人に向けて飛ぶ。

「――がぁぁっ!」

弾丸に反応し、盗賊は獣のような雄叫びと共に曲剣を振り抜く。マッキンリーの弾丸に反応することはAAランクに達しようとしているライアにも困難であるはずが、盗賊はそれを成してみせた――しかし。

衝撃で破砕した弾丸から飛び出したのは、強靭な植物の蔦で作られたネットだった。

「うがぁっ……がぁぁぁっ……!!」

「な、なんだこいつは……さっきから唸り声ばかり……」

ネットに捕らえられて暴れ狂う男を見ても、他の盗賊たちは動じていない。立ち上がれないリゲルに向けて、盗賊の一人が吹き矢を放つ。

「――やぁぁぁっ!!」

そこに踏み込んできたのはティオだった――槍を回転させ、風圧で吹き矢を吹き飛ばし、そのまま猛烈な勢いで突進していく。

「バランシュ流槍術……『 獅子烈風撃(ししれっぷうげき) 』……!」

ティオは突進しながら、長尺の槍を回転させて発生させた風を盗賊たちに叩きつける――風の精霊魔法を乗せたその一撃は、盗賊二人を巻き込んで吹き飛ばし、樹木の幹に叩きつける。

「――ティオ、まだ一人いるっ……!」

気配を消していた盗賊が、ティオが技を出し切ったあとに、飛び出して短刀で突きかかる――ティオは避けきれないと判断して、傷を受けることを厭わずに小手で攻撃を受け止めようとする。

「そりゃぁっ!」

「――ッ!!」

ティオの突撃に追従していたリゲルが、盗賊に足払いを仕掛ける――盗賊は姿勢を崩し、短刀を投げつけようとするが、その前にティオの槍が振るわれていた。

「やぁぁっ!」

短刀を弾き、さらに盗賊自身を吹き飛ばす――それでも受け身を取って立ち上がろうとしたところを、距離を詰めていたライアが刀の峰で打って昏倒させる。

ネットの中で暴れていた盗賊に、マッキンリーが麻酔弾を撃ち込む――それでもなお暴れ続けていたが、やがて動きが鈍くなり、ようやく意識を失う。

「魔獣でも眠らせられる弾ですよ……信じられませんね、こんなに意識を保っていられるとは」

「――みんな、あかん! その人らから離れてっ!」

駆けつけたミヅハの声が森に響き渡る――リゲルたち四人は即座に反応すると、倒れている盗賊たちから飛び退くようにして距離を取る。

『(一つずつ封殺する……こんな使い方をするのは、初めてだがな……!)』

空中を滑るようにして飛んできた小さな光――ディックの分け身が、無詠唱で魔法を発動させる。そして、赤い光を放ち始めていた盗賊たちの身体を、それぞれ球状の結界が包み込んだ。

―― 結界珠・四重封印(プリズンオーブ・クアドラブル) ――

盗賊の身体を離れ、ティオとライアに向かおうとした赤い光は、すべて結界に阻まれる――そして、行き場を無くしてやがて消失する。

「こ、こいつは一体……何かとんでもないことになってませんか……?」

「何者かが、盗賊団を操っている……そして、力を与えていたようにも見える」

「……あの、光は……蛍……?」

ディックは正体を明かさないまま、ミヅハの所に戻る――ギルド員たちを見守り援護するという役目を終えた今、ディックは説明についてミヅハに一任した。ミヅハはどう説明したものかと考えたあと、後からやってきたゼクトの姿に気づき、助力を求める。

「ゼクトさん、無事でしたか。俺たちは、何か蛍みたいな光に助けられて……」

「ああ、マスターがミヅハに託しておいてくれたまじないだ。俺も、ついさっき助けられた……盗賊の身体に宿っていた赤い光は、どうやら他者の身体を乗っ取り、操るものらしい。防御魔法で防ぐことはできるようだが」

「誰が一体そんなことを……馬車組合か、それともウェルテム商会に敵対する人物ですかね?」

ゼクトはリゲルの疑問に答える前に、持っていたものを仲間たちに見せる――それは、切断された革の断片だった。短い鎖がつけられており、それも切断された痕跡がある。

ミヅハは目を見開き、自分の身体を抱くようにする――ライアとティオはミヅハの様子に気づいて、彼女に歩み寄って付き添う。

「……『隷属の首輪』によく似ている。ミヅハを捕らえたガラムドア商会が所有し、拡散させたものは、俺たちの手で全て回収したはずだ」

「取りこぼしがあった……ということは?」

「ガラムドア商会が捕らえた獣人については、リストに載っていた全員を解放している。首輪だけが流出したということも考えづらい……首輪には作られた順番に番号が振られていた。だが、それがこの首輪には無い」

「……削れてしまったとか、そういうことは……ううん、そんなことあらへんよね。だって、首輪を作ったんは……」

『隷属の首輪』を作ったのはリムセリットであり、ゼクトとミヅハも謝罪を受けている。ミヅハはリムセリットがディックと一時的に敵対していた理由についても、リムセリット自身の口から聞かされていた。

――こんなこと、言い訳にならないって分かってる。

――ディー君にも、許してもらおうなんて思っちゃいけない。ミヅハちゃんや獣人の人たちにも。

自責の言葉を口にするリムセリットを、ミヅハは責めなかった。氷狐の姿から戻ることができなくなり、救出されるまでのことを思い出すと、今でも不安が蘇る――それでも、自分を救ったディックがリムセリットを許したいというなら、ミヅハは迷うことはなかった。

「……この首輪は、リムセリットさんが作ったものとは違う。でも、そうやとしたら、これを作ったか、持ち込んだ人がおるっていうことや」

「そうなりますね……ゼクトさん、賊のアジトを探してみますか」

「すでに奴らの足跡を『影』に辿らせている。しかし、俺が相手をした頭領も、何らかの方法で強くなっていた……この首輪を着けているうちは、Sランクに届いていたかもしれん」

Sランク――ゼクトとミヅハを除いたメンバーがパーティを組んでも蹂躙される相手。もし遭遇して不意を突かれれば、深刻な被害が出る可能性がある。

「……ゼクト殿、ミヅハ殿。私たちは馬車を守るために待機することにします」

「ああ、今は深入りしないほうがいい。段階を踏んで強くなればいい……それこそ、王都の迷宮がそれに向いているんだがな」

「俺たちは俺たちにできることをします。盗賊の所持品を調べておきますよ」

「……気をつけて……ください。私たちは……お待ち、してます……」

ゼクトは頷き、ミヅハと共に森を移動する――盗賊団のアジトは、それほど遠くない場所にあった。

「……うちらみたいな目に遭う人を、もう増やしたらあかんよね」

「ああ……そうだな」

『ミヅハが言っていた通り、師匠の作った首輪は全て回収した……今回は頭領一人に首輪を着けさせて、その手下まで全て操っていた。そんなことをやってのけた人間が、この国に入り込んでるっていうことだ』

ディックが語りかけてくる声が頭に響いて、ゼクトとミヅハは頷きを返す。

「あるいは、この国の中で以前から身を潜めていたか。いずれにせよ、事が大きくなる前に片付けなくてはなるまい」

ゼクトは足を速め、ミヅハと共に森を駆け抜ける。

森の中に隠れるように作られたあばら家のようなアジトに辿り着いた二人は、すぐに気づいた――盗賊は一人も残ってはいない。そして盗賊団の首領に首輪を着けたと考えられる人物の痕跡もまた、残ってはいなかった。

倒した盗賊の処遇については最寄りの砦にいる騎士団に報告することにして、ディックはゼクトたちに王都へと戻るように指示し、意識を王都にいる本体に戻した。

いずれ騎士団が動いたとしても、コーディが出向かなければ大きな損害を出した可能性がある。親友に心労をかけないためにも、ウェルテム商会からの依頼という形で動くことにしたのは悪い判断ではなかったとディックは考えていた。

◆◇◆

ミラルカ・イーリスは、魔法大学の研究室で、机の上に置いたピアスを見つめていた。

『封印のピアス』――ミラルカの魔力を抑制するための魔道具。それは彼女が、魔王討伐の旅の途上で手に入れたものだった。

しかし誰から譲り受けたのか、その記憶がミラルカには残っていない。分かるのはこの魔道具が自分の知識の外にある技術で作られたことと、そして破損した場合に修復することができないということだった。

(ディックに相談するべきなのでしょうけど……けれど、私は……)

ミラルカは、ディックが一人で『クヴァリス』のもとに向かった夜のことを思い出す。

ディックの考えは理解できた。魔王討伐隊の全員、ヴェルレーヌ、シェリーの力を宿したことで、彼はおよそ人智の及ばない強さを手に入れた――元からそうであったにも関わらず、さらに限界を超えてしまった。

それほどに強くなっても、ディックは何も変わっていない。変わっていないと思おうとした――彼は魔王討伐隊の一員で、自分たちを重要な時に頼ってくれる。

現実には、そうならなかった。ディックは誰も巻き込もうとせず、一人で全てを終わらせようとした。王都の人たちが、ミラルカたちが眠っている間に終わらせて――もしそれが成功していたら、彼は何をしたかも言わずにいただろう。

それができなければ、ディックはどうなっていたのか。考えるだけで、ミラルカは胸に痛みを覚える。

ディックが家に訪ねてきたことで、ミラルカはスフィアを失ったことを悔いるだけではなく、顔を上げようと思うことができた。スフィアが戻ってきた今は、それ以上望むべきことは何もない。

何もない――そう思い込もうとしながら、ミラルカの胸に片隅に、消すことのできない思いがある。

もう一度『クヴァリス』のような強敵が現れたとき、ディックは自分たちを連れて行くことを迷うのではないか。

彼の隣に並ぶには、自分たちの力は足りていないのではないか。

「……弱音を言っていてはいけないわね」

ディックが一人にならないように、自分たちも強くなくてはならない。それは当たり前のことで、不可能でもない。

魔力を抑制するためのピアスはもう必要がない。このピアスが力を無くしても、独力で魔力を制御することができればそれでいい。

ミラルカはピアスを仕舞うと、いつもマナリナが座っている席を見やった。

王女の務めで忙しくしているマナリナも休みを取ることができたら、『銀の水瓶亭』を訪ねたい。ミラルカはその時までには、心の中を整理しておけると思った――ディックと胸を張って向き合うために。