作品タイトル不明
第135話 ギルド幹部たちと副マスター任命
酒場の昼の部が一段落したところで、俺たちはホールのテーブルで食事を取った。ミヅハの好物の魚料理も喜ばれたが、何より久しぶりのココノビシェイクが彼女には嬉しかったようだ。
「兄上もココノビラムが飲みたいって時々言ってます。リーザさんが作ると、まだマスターと同じ味にはならないって言って、ちょっと無神経やんかって怒ったりして」
ゼクトは普段黙々と食事をするタイプだが、俺の作る酒が気に入っていたとは――俺と同じくらい上手くブレンドできるヴェルレーヌも苦笑している。
「女性より、男性が作るほうが良いとは……ゼクトは相変わらずの堅物なのだな。それだけ、ご主人様の技術には代わりがきかないということでもあるが」
「ダンナの料理は王都でも随一の繊細さだからね。あたいも腕に自信はあるけど、ダンナの手際は見てて心地が良いし、基礎に忠実で、それでいて常に創意工夫がある」
「マスターのお料理を食べたと言ったら、ギルドの皆さんが羨ましがりマス」
ハレ姐さんもラムサスもそう言ってくれるが、二人の腕に俺は全幅の信頼を置いている。俺が居ないあいだも店は普通に回っているし、お客さんの反応も良かった。
「ダンナ、そろそろ新しいメニューの開発する? しばらく落ち着けるのなら、今の間にお願いしたいんだけど……」
新メニューについては、厨房係の誰でもアイデアを出していいことになっている。今のメニューの七割ほどは俺が考案したものだが、残りはハレ姐さんが作った――ラムサスも数点は店に出せるレベルのものを作れている。
この店の厨房は俺の手を離れている。だから二人に任せる――そう言葉が出そうになった。しかしハレ姐さんもラムサスも、期待を隠しもせずに俺を見ている。
「そうだな……しばらくは王都を離れるような用件もないし、久しぶりにメニューを増やすか」
「そう来なくちゃ。ダンナ、あたいも時間を空けとくから、夜営業の前に呼んでよ」
「ハレ姐さん、嬉しそうデス。こんな顔を見るの久しぶりデース」
「それはそうよ、あたいはこんな場末の酒場で腕を振るってる『最強の素人』がいるから、この店に入ったんだから」
王都のギルドハウスには、全てに酒場が併設されている――しかし、内輪向けに営業するだけという店も少なくはない。冒険者たちが酒を酌み交わしながら反省会をしたり、パーティを組む相手を探したりというのが、ギルド直営酒場が存在する理由だ。
俺は『銀の水瓶亭』を冒険者しか出入りしない場所にしたくなかったので、酒場に一般客を迎えて通常営業をするため、初期はほとんど酒場の開店のために時間を費やした。ギルドとしての活動も始めてはいたが、メンバーが集まるまでは『一人ギルド』であり、密かに十二番通りの治安に貢献していた――自分が住む地区の治安を良くしたいというのは、誰しもが当然考えることだ。
「ディックが何でもできるから、色んな人が集まってくるんだよね。考えてみたら、あたしたちもそうだったのかな」
「そうね……魔法の話ができるのは、今でもディックくらいだもの。話していると眠くなるとは言うけど、ちゃんと理解しているのよね」
「い、いや……俺も追いつくのが精一杯だからな、ミラルカには」
思考速度強化(ブレインライズ) をしないと、ミラルカの頭脳にはついていけないこともある。彼女は間違いなく天才であり、その情熱を破壊魔法以外にも傾けたとしても、あらゆる分野で活躍する学者になれる――本人はそのつもりが全くないのだが、それはそれでミラルカが忙しくなりすぎなくて良いと思う。
「ああ、でもダンナ。皆でも言ってるけど、あたいたち全員、ダンナに頼りきりにならないようにって頑張ってるから。リーザもよく言ってるよ、いつもダンナに報告しなきゃって口癖みたいに言っちゃうけど、それは卒業しないとってね」
「僕もディックに相談したい、と思うことが多くあるよ。そのために、酒場に通っていたわけだけどね」
「お父さんがいると、みんな安心した顔をしてます。私もお父さんがいないと、きっと探しちゃうと思います」
「ディー君がいること自体が、みんなの心を落ち着けるお酒みたいなものだから……ちょっと変な例えかな?」
酒を愛する人間としては、その例え自体は悪い気分はしないが、如何せん照れるものがある。
「……ディックさん、これからどこかに行かれるのですか? 少し、お気持ちがさざめいているようですが」
食卓で俺の隣に座っているユマが、少し心配そうに言う。
彼女の目は誤魔化せない。俺の魂の色、そして震えまでが、ユマには伝わってしまう――だが、俺はステーキの一番旨い部分を切り分け、ユマとは逆側の隣に座っているスフィアに食べさせてから答えた。
「久しぶりに帰ってきて、やることが山積みだからな。まあ、自分のペースでこなしていくつもりだ。料理開発も気は抜けないしな」
「忙しいなら無理しなくていいよ。新メニューの味見して、意見してくれるだけでもいいからさ」
「んっ……あむ……んむんむ……」
「……スフィア、娘とはいえど、ご主人様の手づから食べさせてもらうというのは……」
「……あ、あまりこんなことを言うのも何なのだけど……私たちの娘ながら……」
ミラルカは小動物などの可愛いものが好きだが、スフィアに対しても同じような感情があるようだ。スフィアの口元を拭いてやると、さすがに恥ずかしいのか、されるがままになりつつも顔が赤くなっていた。
◆◇◆
昼食を終え、手土産となる菓子と飲み物を作ったあと、俺たちは一度解散した。ミラルカは自邸に戻ったあとは魔法大学に、コーディは騎士団詰め所に、ユマは教会と孤児院に顔を出しに行く。
それぞれが、一度日常に戻っていく――王都の風景もまた、俺が思う『日常』そのものだ。街は活気に溢れ、人々が行き交い、馬車が待合所で客を乗せ、通りを走っていく。
古書店を改装した情報部。看板にはかつての店名が書かれたままだが、かすれていて読み取れない。建物を買い取ったときの書類を見れば、こう書いてあるだろう――『デュヴァルと書の森』と。
扉を開けて中に入る。書架の立ち並ぶ向こう、カウンターの中で、サクヤさんは顔を上げた――『月兎族』の特徴である兎耳が目立つので、今は帽子を被っている。
「いらっしゃいませ、お客様……そして、マスター。お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。サクヤさん、留守の間はどうだった」
「王都は安定していて、大きな事件も起きておりません。冒険者ギルドは『白の山羊亭』にエトナ殿が復帰されて以降、問題なく連携し、運営できております。最近は、『赤の双子亭』の活躍が目覚ましく、依頼を受けた数と遂行率の両方でトップとなっています」
シェリーとロッテがギルドの運営に力を入れ、活躍している――『蛇』の力を手に入れたシェリーは、現状王都では並ぶ冒険者のいない存在になっているので、解決できない事件はそうそうないだろう。そして、元々『赤の双子亭』は団結力があり、マスター二人はギルド員からの支持も厚い。
師匠が俺と和解してから、エトナは俺の指示に従ってくれるようになっている。『白の山羊亭』は一時活動停止を命じられていたが、活動再開後は従来以上にギルドのまとめ役としての機能を果たすようになり、『銀の水瓶亭』にも定期報告をしてくれるようになった。その際に窓口となっているのが、他ならぬサクヤさんだ。
「色々と任せてすまない。休みはちゃんと取れるようにしないとな」
「いえ。マスターこそ、常に休みなく動いていらっしゃいますので。マスターがお休みにならないのに、私たちが休むことはできません」
「……ひとまず、体調管理については定期的にやった方がいいな。サクヤさんは顔色がいいから大丈夫だと思うが、過労になるギルドとは呼ばれたくない」
「ふふっ……お戻りになって、そのようなことを初めに心配されるなんて。私たちは果報者です、アルベインの英雄にこれほど気遣っていただいているのですから」
サクヤさんの機嫌が、普段よりも良い――それは分かるのだが、普段俺を持ち上げるようなことを言う人ではないので、何かあっただろうかと心配になる。
「……こほん。申し訳ありません、今申し上げたことはお忘れください。少し、その……気分が高揚してしまったようです」
一度帽子を外し、兎耳を押さえて火照りを冷ましたあと、再び被り直す。兎耳はサクヤさんの感情に合わせて熱を持ちやすいと聞いたことがあった――彼女には丸い尻尾も生えているのだが、それはリーザから聞いたことがあるだけで、直接見たことはない。見る機会があってはいけないというのが正しいが。
「では、奥にいらしていただいて……」
「お待たせしましたー! ゼクトさん、また迷宮に行こうとしてたのでひっ捕まえてきました!」
サクヤさんが案内してくれるところで、扉が開いてドアベルが鳴った――変わらず無骨な革鎧を身に着けたゼクトが入ってきて、俺を見るとかすかに目を見開く。
「おお……マスター、戻っていたのか」
「ああ、今日の昼前にな」
「……一つの国の有事を解決しようというのに、たった一日ギルドを開けただけで戻ってくるとは。これがSSSランクの冒険者……恐れ入る、の一言だ」
SSランクのゼクトも、俺たちを除けば多くのギルドで筆頭冒険者になれる存在だ。そんな彼が俺のギルドに所属し、迷宮探索の指揮を取ってくれているというのは有り難い限りだと思う。
「ゼクトさんって普段はほとんどしゃべらないんですよ、必要なことしか」
「それが、マスターには饒舌になるのですから。自分が認めた相手のみとしか、お話したがらないようですね」
「……そんなつもりはない。リゲルやマッキンリー、ライアとも話はしている。新人たちについては、彼らに任せているが」
ゼクトはうちのギルドの中でも、リゲルたちとは早くに知り合ったため、今でもパーティを組んで行動することが多い。
『蛇』を討伐したあと、うちのギルドも何人か新人を雇用することになったのだが、その審査については各部門のリーダーに任せていた。情報部、そしてゼクトに統括してもらっている探索部、遂行部についても人員を増やしている。
王都にある冒険者ギルドのうち、紫の蠍亭、緑の巨蟹亭、青の射手亭は今も活動停止している。三つのギルドは運営に行き詰まって『裏の仕事』に手を染めてしまったが、表の仕事を全くしていなかったわけではないので、それらの受け皿が必要になった――他のギルドで役割を分担するわけだが、俺のギルドだけ現状維持というわけにもいかなかったわけだ。
「それじゃ……まず、俺たちがやってきた仕事について話すか。長くなるから、かいつまんで話すことにする」
「はいはーい、記録係をやらせていただきます。マスターの話って楽しいんですよね、ありえないようなことを平然と話しちゃいますし」
「マスターのお話は興味深いですが、これは業務の一環なのですよ、リーザ」
「……マスター、何か持ってきているのか?」
ゼクトの嗅覚なら、持ってきているココノビラムの香気に気づくと思っていたがその通りだった。俺がヴェルレーヌに借りてきたバスケットを掲げて見せると、サクヤさんとリーザは顔を見合わせる。リーザは昼食を摂っていないはずで、サクヤさんとゼクトも恐らくそうだ――ギルド員に食事抜きで仕事をさせるのは、俺の主義に反している。
◆◇◆
黒麦にセサの実を振って焼いたパンを使い、魚や肉、野菜などを挟み込んだサンドウィッチ。そしてゼクトにはココノビラム、サクヤさんには人参を材料にしたリキュールをベースに『黄金の林檎酒』を足し、炭酸水で割ったブレンドを出す。リーザには『潤しの杏』の炭酸水割りだ――彼女は酒があまり強くないので、昼から飲むとおそらく寝てしまう。
「やっぱりマスターといると女の子は駄目になりますよ、食事が美味しすぎて……」
「リーザもハレ姐さんに教えてもらえばいい。いつでも手伝いは募集してるから」
「わ、私は情報部のお仕事が性に合ってますので……店主さんの仕事は楽しかったですけど。若い店主さんだね、なんて言われちゃいましたよ」
「それで……マスター、俺たちに指示があるのではないのか」
ゼクトは酔ってもあまり顔に出ない。しかしココノビラムは喜んでくれたようで、ラム酒に浸かったココノビの実まで食べていた――ミヅハの好物なのだが、まだ妹には食べさせられないということだろう。
「これは、以前から考えていたことなんだが……『銀の水瓶亭』の副マスターを決めたいと思って、二人を呼んだんだ」
「副マスター……その必要は無いかと思いますが。現状でもマスターより指示を頂き、各部門は問題なく機能しています」
「現状でも、アルベイン王国の各ギルド支部には支部長がいる。彼らは副マスターという役職じゃないが、王都の『銀の水瓶亭』は本部でもあるわけだから、組織構造としては、俺が不在でも組織としての決定権を持つ幹部がいたほうがいい」
サクヤさんとゼクトは、すぐに承服してくれるわけではなかった。しかし考えたあと、サクヤさんがまず頷きを返す。
「……かしこまりました。では、副マスターにどの方を指名なさいますか?」
「もちろん、情報部門のトップとしてサクヤさん、そして探索部・依頼遂行部についてはゼクトに頼みたい。探索部と依頼遂行部のいずれかは、もう一人適役が現れたら、その人に任せたいと思う」
今も現場に出ているサクヤさんとゼクトに、さらに義務が増えることになる――負担を考えると、断られることも想定には入れていた。
しかし、できるなら二人に頼みたい。
俺がなぜ副マスターを決めるのか、その意図の全てを今は伝えることができない。それで受けてくれというのは筋が通らないと分かってはいる。
「マスターの指名を受けてお断りするなど、決してありません……そう分かっていてご指名なさるなんて」
「……少し、考えさせてくれ。俺はやはり、副マスターという役職にはふさわしくないように思う。マスターの代わりは誰にも務まらない」
「そんなことはないさ。あんたはランクの差がある冒険者を指導することもできるし、全員の無事を考えて仕事をしてる。ゼクトが自分で思うより、ギルドの中では信頼を得られていると思うよ」
「ゼクトさんは何ていうか、朴訥な方ですけど……妹さんのミヅハさんが人懐っこいので、人柄は伝わってるんです。本当は優しい兄上なんです、っていつも言っているので」
ゼクトは自分の知らないところで何を言っているのか、という顔をするが――憮然とするわけでもなく、目を閉じて息を吐いた。
「まあ……こんなこと言っちゃうのなんですけど、マスターも同じですよ?」
「ん……何がだ?」
「マスターはどれだけみんなに慕われてるか、もうちょっと分かった方がいいと思います。マスターがいない間も、みんな気にしてるんですから。そ、その……私だって、多少はですね、仲間と話したりしますし。サクヤさんもそうですよ」
「っ……こ、こほん。私はマスターのお留守の間も、任務に集中しています。決して、心配で心を乱したりなど……」
「ああ、分かってる。皆がしっかりやってくれているっていうことは……だからこそ、俺たちのギルドはもう一歩先に進むべきだ」
そのために、副マスターを決める。俺の意志が固いと伝わると、サクヤさんは頷き、ゼクトは黙って俺を見つめた。
「……マスターの指名とあれば、俺も全霊を尽くそう」
「恩に着る。それと、もう一つ話したいことがある。ラトクリス魔王国から帰ってばかりで、こんな話を持ち帰ってくるのかと言われそうだが……」
「マスター、何もご遠慮なさることはありません。私達がマスターのお話を聞いて驚くのは、常々のことでございますから」
「そ、それって、私も聞いちゃっていいんですか……? 幹部のお二人と一緒に……」
「情報部全体に関わる話になる。危険な任務にならないようにはするが、一つだけ話す前に約束してもらいたい。この話は、他のギルドに漏洩しないように頼む。指定したメンバー以外に話すことも避けてほしい」
リーザはこくりと息を飲んで、そして頷く。サクヤさんは席を立つと、部屋の戸締まりを確認する――彼女がこの部屋に張った防音結界は、今日も十全に機能を果たしていた。
◆◇◆
ラトクリス魔王国の遺跡、浮上した飛行戦艦。そして『クヴァリス』のことを話す。
リーザは思っていたよりも落ち着いている。いや、現実の話として考えられていないのかもしれない。
彼女にとっては『蛇』のことも、とても強い魔物としか捉えられていない――ギルドの全員が脅威を理解する必要はないので、それでいい。
「もう一つの浮遊島……それが、どこかの空を移動している……」
「……マスター、それについて、俺たちに調べろと。そういうことか」
「いや、現状は情報を集めるだけでいい。アルベイン王国にもし浮遊島が接近するようなら、それをできる限り早くに察知しなくてはいけない」
このアルベイン王国から、どちらの方角の空にいるのか。それが分からない以上は、全方位について情報を収集するしかない。
「これは情報部が行うべき任務ですね。アルベイン王国全土の支部について、空の観測を行う……それだけではありません。他の国からも情報を収集する必要があるでしょう」
「ああ……そうだな。今までは、国内の情報収集だけをしてきたが……」
「アルベイン国内の各方面国境に、情報部の支部が設けられている。マスターは、いずれ必要となると考えて、そのような準備を……」
「いや、そうじゃない。俺も未来のことは何も見えちゃいないし、見えていると思い込めば驕りになる。俺は必要だと思って、国内に各支部を設けた。それは、アルベインの中をよく見通したいという思いがあったからだ」
自分がこのギルドを、どのように考えて大きくしていったのか。どのように組織を構築したのか、それを改めて皆に説明したことはなかった。
――話せばどんな反応をされるか、予想していたわけじゃない。しかしサクヤさんとゼクト、そしてリーザが俺を見る目は、驚きと感嘆の一色で塗られていた。
「魔王討伐を終えてなお、国全体を見通したいなど……クラウス陛下でもなお、そのような思想を持たれたことはないでしょう」
「……本来なら、不可能なことだ。人が見ることのできる範囲には限度がある。国の隅々まで目を配る方法はない……それをマスターは、可能としている。たゆまない冒険の結果として、得たものを使うことで」
国内の各支部、その全てに転移陣が繋がっているわけではない。しかし遺跡に潜って転移結晶を幾つか手に入れることで、形だけの『支部』ではなく、王都の『本部』との連携を成立させることができた。
そして支部のない町や村などにも、『念話』を仲介する魔道具を設置し、『情報網』を作って、連絡を可能とした――もちろん、隙間なく『情報網』を張り巡らせられてはいない。可能な範囲を網羅しているだけだ。
しかし俺が作った『情報網』を本気で稼働させればどうなるか――魔道具が情報を収集できる範囲でなら、遠く離れた村で起きた出来事すら感知することができてしまう。
だが、今は使うべきだ。サクヤさんや情報部員の協力を得て、あらゆる方面の『空の情報』を得なくてはならない。
「……マスター、もし『クヴァリス』の所在がつかめたとして、どうするのですか?」
「『クヴァリス』がアルベインに接近していないなら、干渉するかは分からない。無害な位置に移動していればいいんだがな」
「はー……そ、そうなんですか。この国と全然関係ないところで、ぐるぐる回ってるかもしれないですよね。マスターったら、真剣な顔で話すので怖かったですよ」
「すまない、怖がらせたか。だが、情報収集はかなり骨が折れるぞ。アルベイン全土から入ってくる情報を選別しなきゃならないからな」
「わー、それは聞いただけで大変そうな……でもがんばりますよ、『銀の水瓶亭』情報部は、体力のある人が揃ってるので」
『情報網』につながる念話の魔道具を使いこなすには慣れが必要になる。サクヤさんなら扱えると思うが、彼女だけに負担はかけられない。
「サクヤさんが副マスターになってからの、初めての大仕事ですね」
「……まだ、実感はないのですが。そのような、責任感のないことを言ってはいられませんね」
「マスター、俺は……いや。探索部と依頼遂行部、二つを統括すると。その役目を担えばいいのだな」
ゼクトはどうすればと聞きかけて、自分で答えを出してくれた。もちろんすぐに慣れるわけではないが、彼ほどのベテランなら心配は要らないだろう。
「ああ、頼む。何かあったら、今まで通り俺に報告してくれ」
二人が頷く。彼らなら、本当に何も案じることはないと思った――冒険者としての経験に裏打ちされた正確な判断力を持ち、個人の実力としても王都で最上位に入る彼らならば。