軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01.善人、不殺の殺戮魔法を放つ

謁見の間。

王宮に急遽呼び出された私は、皇帝エリザベートに貴族式の作法にのっとった礼を一つして、頭を上げた。

皇帝――いやエリザはまた美しくなっていた。

9歳から一つ年取って10歳になった私はほとんど変わらずまだまだ肉体的には子供なのだが、エリザはこの一年で更に大人びて、美しくなった。

「召還に応じ、参上いたしました、陛下」

「気楽で良い。そなたと余の間柄だ、必要以上にへり下る必要はない」

皇帝と副帝の間柄は普通どうなのかは分からないけど、もっと砕けた口調でいいのはわかった。

「分かりました、陛下」

「うむ」

エリザは満足げに頷いた。

「よく来てくれたアレク卿」

「僕を急いで呼びだすなんて、なにか起きたんですか?」

「その通り、至急そなたにやって欲しい事がある」

皇帝エリザベートが目配せをすると、官職をもたないただの使用人達が何かを運んできた。

ボードに貼り付けられたそれは、帝国の版図が描かれた巨大な地図だった。

「これは……まさか反乱?」

「理解が早い、さすがアレク卿だ」

エリザは満足そうに頷いた。

使用人が運んできた地図の上、北方の辺境あたりで一部分黒く塗りつぶされている場所がある。

統治地域を示す枠組の中で、はっきりと塗りつぶされた部分。

一目で「反乱」だとはっきり分かる書き方だ。

「反乱だと分かれば、余が言いたい事も分かるはずだ」

「それは分かるけど、どうして僕なんですか?」

一呼吸間を開けて、謁見の間をぐるっと見渡す。

官吏達や使用人、警護の兵士達がいるが、私が探そうとしている人物の姿はない。

視線を戻して、エリザに聞く。

「ここは帝国最強の武人、ホーセン・チョーヒを派遣した方が適任だと思うんだ」

「卿の言うことは半分正しくて、半分間違っている」

「どういう事?」

「此度の反乱は規模が大きい」

「大きいの?」

「余が即位してからの最大規模だ」

そうなのか……。

「故に帝国の断固たる意志を示すためにも、最強の札を投入して一気にケリをつけなければならん。もたもたするとその分民心が揺らぐ」

「うん」

それはまったくもって同感だ。

「しかしその最強の札とはチョーヒ卿の事ではない。そなただ、アレク卿」

「……僕?」

「うむ。帝国最強にして余を除く最高位の人間、副帝アレクサンダー・カーライル。そなたが帝国最強の札であり、本気度をもっとも示せる札だ」

「なるほど」

そう言われるとたしかにそうだ。

「やってくれるか、アレク卿」

「うん、任せて。陛下の為に頑張るよ」

話を理解した私は快諾する。

するとエリザベートは満足そうに微笑み――なぜかちょっと顔が赤くなったのだった。

私は討伐軍を引き連れて、出陣した。

鎮圧の為に編成された討伐軍、その数一万。

一万の軍勢は、ただ移動してるだけでかなり壮観だった。

中心では超巨大神輿が軍に守られて進行していた。

その五メートル四方の神輿に乗っているだけで、気が大きくなって、自分がなんでも出来る人間って気分になる。

「そろそろ見えてきた、あれが反乱軍の本拠地、第七の砦、アルカイドだよ」

「そっか。……それはいいんだけど」

私は真横を向いた。

同じ神輿に乗って、私に「報告」をしてきたのはエリザ。

将軍付の小間使いの格好をしたエリザである。

私は声を押し殺し――いや。

消音の魔法を使い、エリザに問いかけた。

「なんでエリザが一緒に来てるの?」

「色々この目で見たかったから」

「だったらエリザが出陣すればよかったじゃないか。皇帝の親征なら副帝のよりも本気度が出せるでしょ」

「それじゃだめなのよ。皇帝のあたしが出ると、事が大きくなりすぎる。そこまで行くと逆に向こうに箔がついちゃう」

「……政治的な判断ってこと?」

「そゆこと」

エリザはウインクしながら答えた。

皇帝エリザの時とは違う魅力があって可愛いけど……けど。

「それに、皇帝が出て万が一の事があったら大変だよ。向こうも死に物狂いで狙ってくるし」

「うん、そっちは分かる」

皇帝は帝国にとって絶対的な存在。

戦場に出て戦死する様な事があれば、帝国そのものが崩壊一直線になる恐れがある。

よほどの事が無い限り「皇帝」は戦場に出ちゃいけない。

副帝であっても、いや。

皇帝とその他、究極的にはそう分類されるほど、「格」に開きがある。

「それなら来なきゃいいのに……安全に自分の目で様子を見たいって事ね」

「わかってるじゃん」

エリザは更に嬉しそうに私の背中をパンパン叩いた。

まあ、そういうことならしょうがない。

「それに……格好いいアレクも見たいもん……」

「うん? 今なんか言った?」

直前まで高いテンションだったせいで、いきなりトーンダウンしたエリザの言葉を聞き逃した。

「なんでもなーい。いざって時はあたしだけでも逃がしてねって言ったの」

「分かってる。エリザは僕が命がけで守るよ」

皇帝に万が一の事があったら全国で戦乱が起きて多くの人が不幸になる。

それは絶対に食い止めなければならない。

「……うふふ」

満足したのか、うつむいて微笑むエリザ。

そんなエリザから、視線を元の方角、アルカイドに向ける。

「じゃあ、あれを落とす方法を考えないとね」

「ううん、あれ最後」

「最後? いやでも」

私は手元にある地図に視線を落とした。

この地域を拡大した地図、反乱軍の最前線に当るところに、しっかりと「アルカイド砦」と記されている。

「ここを落とさないと後ろにいけなくない?」

「普通はそうなんだけどねえ、でも向こう、プラムの結界を持ち出したのよ」

「プラムの結界?」

「大魔法の一つ。100年に一度七つの星が重なるタイミングで、その魔力を利用した超広域結界魔法陣」

「どういう効果なの?」

「砦に番号が振られてるのに気づいた?」

「うん」

エリザが言うとおり、地図上にある反乱軍の砦にそれぞれ番号が振られている。

ドゥーベという砦には1。

メラクは2、フェクダが3、メグレズが4、アリオトが5、ミザールが6。

そして、目の前にあるこのアルカイドが7となっている。

「この数字はどういう意味なの?」

「この順番で攻略しないといけないの」

「ええ?」

「正確にはそこより若い番号の砦が残ってる限り、そこにいる兵士は何をやっても傷付かないんだ。無敵になる。だから1を落として、その次に2を落として、更に3を――って順番やらないとだめ、それがプラウの結界」

「やっかいな魔法だね」

「ほんとうそう! 百年に一回しか使えないから気のつけようもないし」

憤慨するエリザ、気持ちはわかる。

それにしてもやっかいだ。

地図を改めて見た。

数字が若い砦ほど、順に反乱軍の奥地に守られてる配置になってる。

まあ、今の効果を聞くと私でもこう配置するけど。

「だからまずは奥の、一番目のドゥーベから落とさないとダメなんだ」

「そっか……」

念の為に、肌身離さず持っている賢者の石に聞いた。

賢者の石から得られる情報はエリザとまったく同じだった。

私のSSSランクの魔力を持ってしても、7番目のアルカイド砦の兵士に傷一つつけられない。

そういうものだ。

「って事で、大回りさせるね」

「あっ、ちょっと待って」

「え?」

驚くエリザ、私は立ち上がって、神輿から飛び降りた。

「全軍停止、別命あるまでここで待機」

私の命令を聞いた近くの号令兵が命令を伝えた。

命令の波が広がっていき、一万の軍勢がピタッと停止した。

「アレク!?」

「そこで待ってて」

振り向き、肩越しにエリザに言ってから、前に進みでた。

一万の軍からはっきりと突出した場所に立って、アルカイドと真っ向から向き合うようにして立つ。

魔力を練り上げる、七色の魔力球を作る。

その七色の魔力球をぶつけ合わせて、一つにしていく。

衝突した魔力球は次々と色を変えていく。

七つの色、全ての色が混ざり合った後に出来たのは、無の色。

透明ではあるが、完全な透明ともなにかが違う「無」の色。

それを放った。

魔力球がいびつに形を変えて、一本の筋になって砦めがけて飛んでいく。

「無」の色のビーム、私が使えるものの中で、一番破壊力の高い攻撃魔法。

賢者の石の知識では、戦略級に分類される広範囲魔法だ。

次の瞬間、砦がえぐられた。

氷の塊に熱い鉄の棒を置いたのと同じように、砦がビームの形に綺麗にえぐられた。

がれきはない、砦だったものは綺麗に消滅した。

背後がざわざわした、いきなりの出来事に兵達が味方なのにもかかわらず動揺した。

「アレク!」

エリザが遅れて神輿から飛び降りて、私の横に立った。

「い、今のは?」

「無色ビーム――まあ、ものすごい破壊魔法だよ」

「おかしいよそれ、だってプラウの魔法陣で守られて――」

「それは人間の事だよ。砦は守られてない」

「え?」

「ほら」

私はエリザに望遠の魔法を掛けた。

「何これ! あっ、遠くが見える……ってみんなすっぽんぽん!?」

「人間は傷つかないけど、それ以外のものに加護はないらしいよ。だから砦ごと吹っ飛ばせれば、無傷の人間をのこして、武器も防具も全部なくなったすっぽんぽんの人間のできあがりってわけ」

「……」

絶句するエリザ。

「うん? どうしたの? まだ納得出来ない?」

「……そうじゃなくて、そもそもおかしくて」

「え?」

「砦ごと吹っ飛ばす魔法って、そんな簡単に使えるものじゃないでしょ」

「……そっちか」

「もう、アレクがすごいって分かってたつもりだけど、まだまだ認識が甘かったってことね」

エリザは半分呆れ、半分嬉しそうに言ったのだった。