作品タイトル不明
02.善人、敵将が偽物だと見破る
三発の無色ビームで、アルカイド砦を完全に消し飛ばした。
何かの比喩じゃない、文字通り砦だった物を物理的に地上から消し去った。
「なんか変な出し物を見せられてる感じ」
「どうして?」
三発目を打ち終えた後、エリザが私の隣で呆れ混じりに言った。
「砦の中って兵舎とか武器庫とか糧秣庫とかいろいろあったはずじゃん?」
「あるだろうね。じゃなかったらただの囲いだね」
「そういうのもまとめて吹き飛ばしたくせに、人間だけが全員無事で、しかも素っ裸って」
「その苦情はプラウの結界にいってよ」
そう、私のせいじゃない。
私はただ、プラウの結界で砦の中にいる人間は絶対無敵だから、魔法の出力をあげてそれ以外の全てを吹き飛ばしただけに過ぎない。
人間は無敵、それ以外の全部を吹っ飛ばす、人間は無事に全員全裸。
それだけの話だ。
「まいっか。はい副帝様、次の命令を」
エリザは若干おどけるように言って、私を促した。
そういえばそうだった。
砦を吹っ飛ばしたのはいいけど、これで終わりじゃない。
私は気を取り直して、大声で命令を出す。
「全軍突撃! 武器を持たない者は捕獲して」
命令が伝達され、砦消失であっけにとられていた一万の兵士が我に返って、突撃を開始した。
武装された一万の帝国正規兵、それに対して相手は数は不明だが全員素っ裸で武器は一切合切消し飛ばされた反乱軍。
勝負は始まる前からもう既についてて、兵が迫って包囲しただけで向こうは完全降伏した。
余談だが、白旗になるものも吹っ飛ばしたから、相手が降参の意志をしめすまでにちょっとだけ時間がかかった。
☆
「困ったわね」
「困ったね」
元・アルカイド砦跡地、3000の敵兵の前。
捕獲した敵兵は、あえて素っ裸にして地面に座らせた。
拘束はしてない、なぜなら必要がないから。
怪我がまったく無くて、追い詰められてない敵兵。
砦を消し飛ばされたことで狐につままれた顔をしているが、全員がまだまだ正気の域だ。
正気の人間は、全裸状態ではまず 隠したり(、、、、) する。
素っ裸で放置してるだけで、動きを大幅に制限して実質拘束している様なものだ。
三千人の素っ裸の前で、私とエリザがむしろ困っていた。
予想外の出来事だ――いや全員全裸からして、この討伐では予想外だが。
「もう一度いうよ、ここの責任者、総大将出てきて」
「カンペリ・フロンタルって名前の人」
横でエリザが補足する。
カンペリ・フロンタル。
第七の砦の守将、反乱軍の総大将ともされている男。
プラウの結界で砦内の人間は無敵だから、その男もこの素っ裸の群れの中にいるはずだ。
シーン。
私とエリザの呼びかけに反応した者はいなかった。
捕獲した者達は手で局部を隠しながら、怒って私たちを睨んだり、目をそらしたり、そわそわしたり……。
反応はそれぞれだが、指揮官らしき者は見当たらない。
「困ったね」
「地位と権威って大半は服装に依るところが大きいからね。正直全員素っ裸じゃ全然見分けつかないわ」
「エリザだったらわかりやすいんだけどね。女の人の中で裸になっても一番目を引くし」
「な――何を言ってるのよ!」
え? あっまずい。
思った通りの事を口にしたけど、これセクハラだ。
「ごめんなさい、無神経だった」
「べ、別にいいけど」
……。
「ね、ねえ」
「え?」
「本当に目立つ? あたしが同じ裸の女の中にいても」
「えっと……」
迷う、どう答えたらいいんだ?
ええい、既にやらかしたんだ。
だったら自分の発言に責任持つしかない。
私は率直な感想を答えた。
「うん、目立つ。きっと一目で分かる。エリザはまぶしいくらい綺麗だから」
「そ、そう……ふん、当たり前ね」
エリザは鼻をならして顔を背けてしまった。
大丈夫なのかな……大丈夫か。
みた感じ、すくなくとももう怒ってはないと思う。
だったらこの話はここまでにしよう。
私は改めて素っ裸の捕虜達を見た。
エリザも気を取り直して、って感じで同じように視線をもどした。
「この中から目当ての相手を探すの骨が折れるわね。一人一人拷問に掛けちゃう?」
「……ううん、大丈夫。僕が魔法でなんとかしてみる」
「じゃあアレクに任せる」
エリザは気軽な様子でいって、完全に私に任せるって感じで、見物モードに入った。
魔力を練り、 だいぶ前(、、、、) に覚えた魔法を使う。
賢者の石には問いかけない、既に覚えてある魔法だ。
利き手を上げる、人差し指の先から一筋の光が糸のように伸びる。
その糸がゆらゆらと、ある方角を指した。
「それは?」
「これについていくんだ」
光の糸を道しるべに、捕虜をかき分けてその中を進む。
私たちがかき分けて、少し遅れて帝国兵が作り出した道の中を、エリザと進んでいくと。
光の糸が、ある男に辿り着き、その男をさした。
中年の男で、私たちが目の前にやってくるとビクッとした。
慌てて顔を背けるが、エリザが踏み込んで顔を掴んで向けさせる。
「聞いてた人相の特徴と一緒。あんたがカンペリ・フロンタルね」
「ふん! ばれちゃ仕方がない」
「手間かけさせるわね、何かいうことは?」
「こんな辱めは受けん、殺せ!」
「カンペリ様!」「フロンタル様!」
周りの兵士が悲鳴じみた声を上げる。
それを聞いて、エリザはますます目の前の男が目当てのカンペリだと確信する。
「そこまでいうなら望み通り――」
「ねえ、おじさんだれ?」
「「え?」」
男とエリザの声が綺麗に重なった。
カンペリとされる人物は何かものすごく恐ろしいものを見たかのような表情した。
「な、なにを」
「おじさんはカンペリって人じゃないよね」
「どういう事なのアレク!?」
「偽物――影武者だよこの人は」
「どうして分かるの?」
「これ」
私は指を動かした。
目の前の男をさしてる光の紐がゆらゆら動いた。
「色が最初のままでしょ? これ、本物に辿り着いたら赤く変わるんだ」
「そうなの?」
「うん。いざって時にエリザの影武者から本人に辿り着くために覚えておいた魔法なんだ。もちろん本物が近くにいたらそっち行くけどね。 いざ(、、) って時はアザゼルのところに飛んでるだろうけど、何か例外があるかも知れないしね」
「あたしのため……」
エリザはぽっ、と頬を染めた。
しかしすぐに気を取り直して、とばかりに咳払いした。
「砦の総大将を見つけるどころか、その場で偽物だと判明させてしまうなんてね。……」
「どうしたのエリザ、いきなり考え込んで」
「アレクの事だから、この男が何も答えなくても本物を探し出せるんでしょ」
「うん、そうだね」
そう、探す事が出来る。
エリザを見つけるための魔法だ、影武者がどんな状態だろうとそうする事ができる。
いったん念じてから、光の糸を手放す。
それが男の体の中に吸い込まれてから、何事もなかったかのように出てきて、明後日の方角に向かってゆらゆらと飛んでいった。
そういう魔法、光の糸を追っていけば本物にたどり着ける。
「さすがじゃない」
エリザは、まるで自分の事の様に嬉しそうに笑ったのだった。