軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第73話 ゾンビ階層

交代で僕たちから撒き散らされる聖水を浴びて、悶えながら消えるゾンビの森を走り抜けたのであるが、案の定、僕もライト兄さんも、

「うわぁぁ~」

などと、聖水のダメージで騒くゾンビ達から、最後の足掻きのように撒き散らされるゾンビ汁にて毒状態となり、安全地帯である階段にて、

「もう、いやだ!」

「二度と来ない!」

などと二人して悪態をつきながら、ズキズキというかビリビリというか、心音の様に繰り返し痛みが駆け巡るのを我慢しつつ、解毒ポーションを飲み干すと、階段の中程に腰を下ろして状態の回復を待ちながら、律儀に階段の前に並び、

「あぁ~」

だの

「うぅ~」

だのと言いながら、それ以上前には入れないルールらしく下の階層に向かう僕たちを見送るゾンビの群れを見たライト兄さんがポツリと、

「あの端から二番目のゾンビ…生きてる時に出会いたかったな…」

などと比較的腐り具合もマイルドな町娘風ゾンビの女性を安全圏から眺めており、僕は、

「まぁ、それだけの余裕があればこの先の階層も大丈夫でしょうが…ゾンビといえど、はだけた服の女性の胸元に見とれているような浮気者に我が家の大事なイデアさんは任せられないですね…」

と、呆れながら階段を下ると、ライト兄さんは、

「なんだよ、浮気者って…」

などと最初は文句を言っていたが、すぐに、

「頼む、イデアさんにだけはさっきの事は内緒にして…」

と懇願していたのであった。

まぁ、まだ何も始まっていない二人の関係に『浮気』もクソも無いのであるが、いくら女性との接点が無い可哀想なライト兄さんとはいえ、ゾンビに目移りする様では、この先、生きている女性に飛び付く心配がつきまとってしまう。

だったら僕としては、

「ゾンビの女性でも良いのなら僕はイデアさんとライト兄さんの恋を応援するのやめちゃいますね…」

などと、少し意地悪を言ってみると、ライト兄さんは焦りながら、

「ジョン、俺の本気を見せてやる!」

と宣言したかと思うと、階段を駆け降り、

「イデアさん! 大好きだぁぁぁ」

と叫びながらこのゾンビエリアの終盤をオンブゴーレムの火力を使い、ほぼ一人で攻略したのであった。

そして到着した10階層のボス部屋前にて、見知らぬ常連の冒険者さん達に、

「次も10階層に転移陣で来る為に、ここでボスの順番待ちしてたけど…兄ちゃん…どんだけイデアっていう娘さんが好きなんだよ…」

と、ここまで聞こえていたらしい愛の告白を茶化されたライト兄さんは、すっかり静かになってしまい、僕は思わず、

「ウチの兄さんが恥ずかしさのあまりヤル気が失くなったじゃないですか!」

と彼らに抗議すると、常連さん達はボスの復活待ちでこの場から動けない事もあり、ライト兄さんに、

「悪かったよ兄ちゃん…」

などと謝りながらも、

「で…兄ちゃんの愛しのイデアって嬢ちゃんの事を聞かせてくれや…」

と、ライト兄さんを囲んで、

「サンドイッチ食べるか?」

とか言ってライト兄さんの話し相手…というか、ライト兄さんで時間潰しを始めていたのであった。

それからもう吹っ切れたらしいライト兄さんが、イデアさんの素晴らしさを小一時間語った辺りでボス部屋の開け放たれた扉が自動で閉まり、

『やれやれ…』

と顔に書いてある常連冒険者チームが、

「おっ、ボスが復活したな…じゃあ先にサクッと倒して地上に帰るから…」

とライト兄さんに声をかけて、ソソクサとボス部屋に入って行ったのであった。

僕はそれを見て、

『時間潰しで絡んだは良いがライト兄さんの熱量にかなり引いていたな…』

と感じる。

そんな少し気の毒な常連さん達がボス部屋に入るのを見送ると、扉が閉まり、ガチャリと施錠されて、

『始まったかな?』

とボス部屋の中を扉の外から想像するしか出来ない時間はいつも長く感じるが、流石は常連冒険者と言ったところか、案外早く鍵が開き扉が解放されると、彼らは、

「じゃあ、お先ぃ!」

「がんばれよぉ」

などと、口々に別れのセリフを残して奥の転移陣の部屋へと消えて行ったのである。

そして、残された僕とライト兄さんは、ここからボスが復活するまでの数時間を静かに待ちながら、

「この10階層のボスってどうしますか、一人で倒したら二回の初回討伐宝箱が貰えますが…」

と聞く僕に、ライト兄さんは、

「バカな事を…二人で行くに決まっているだろ!」

と何故か半ギレで答え、

「宝箱なんかには興味が無いから…俺は安全に強くなりたいだけだ!」

と、なんだか格好いいのか、悪いのか分からないセリフを言った後に、今ごろになりライト兄さんは、

「知らない人達にまでイデアさんへの気持ちを…」

と、自分で語っておいて今更恥ずかしくなったらしく、後悔を始めていた。

そして、いじけるライト兄さんに僕は、

「良いじゃないですか…イデアさんまで伝わる訳でもないし、ライト兄さんがイデアさんに気持ちを伝える練習が出来たと思えば…」

などと、もうこの場にはフォローする人間が僕しか居ないという、凄く長く感じる気まずい時間を二人で過ごした後に、やっとボス部屋の扉が閉まり、

『遅いんだよ…ボケぇ!』

と、内心少し怒っている僕の腹いせに、ゾンビオークという豚と人間とゾンビのハイブリットである属性盛り過ぎボスに嫌という程にバーストランチャーにて拳ほどの弾丸を嫌という程に撃ち込んで倒してやったのであった。

「快…感…」

と昔の映画の様なセリフの後に僕は、ふとライト兄さんの方を見ると、入り口付近で彼はこちらを見て固まっていたので、どうやらライト兄さんとの気まずい数時間を耐え抜いた弊害で僕から殺意のオーラが漏れていたと推測され、ライト兄さんは何故か僕に、

「ありがとう…あと…ごめんね…」

と感謝と謝罪を述べていたのだった。

そして僕は、ライト兄さんに、

「何を急に…それより宝箱チェックしたら今日は帰りますよ」

と優しく声をかけると、まだ入り口近くで固まったままのライト兄さんは、

「すまん…ジョン…ボスにビビって動けなかった…」

とポツリと呟くのであった。

『あぁ…イライラして殺気立った僕に引いた訳ではなかったのなら良かったが…まぁ、はじめて見るボスが中級ダンジョンのボスならビックリするわな…初級ダンジョンで練習せずにいきなり本番みたいなもんだから…』

とは思うが、よくよく考えると、

「いや、ビビるって…9階層あたりのゾンビ状態の猪魔物とか狼魔物に乗ったゾンビだって一人で倒していたでしょうに…」

と呆れる、僕に彼は、

「あの時は…その…興奮状態だったというか…何も怖くはなかったというか…」

と、モジモジしながら答えるので、僕は、

「イデアさんへの愛を叫びながら戦って強くなるなら、ずっと愛を叫びながら戦ってくださいね」

と少し意地悪を言いながらも、ボスのドロップ品である魔石と転移メダルを鞄にしまっていると、ようやくトボトボとこちらに歩いて来たライト兄さんが、

「俺に付き合ってダンジョンに来てくれてるのに…格好悪い兄弟子でごめん…」

と言いながら残されたオークゾンビの腐った肉を拾おうとしているので、

「そんな、腐りかけの肉なんて放置に決まってますから…」

という僕に、ライト兄さんは、

「えっ、ジョンのリペアで直せないの?」

などと驚いていたのであるが、直ったとてゾンビだったお肉を食べる勇気はないので、

「汁をかけられただけで毒状態になる連中の肉ですよ…」

と僕が呆れていると、ライト兄さんは、

「あっ、ヤバい…触っちゃった」

と腐肉を触った手に魔石式水筒の水を出して洗ってはみたものの結局、

「あっ、ズキズキしてきた…」

と、しっかり毒をくらって解毒ポーションを飲んでいたのだった。

『なんだろう…錬金術師としては天才の部類なのにな…』

などと思いつつも、残念なライト兄さんを一旦放置した僕が宝箱を開けるとそこには二個の指輪が並んで入っており、毒症状から回復したライト兄さんが、

「ダンジョンなのに装飾品か…勝手に剣や鎧が出ると思ってたが…」

と言いながらも入り口のカウンターで見た資料の記憶を思い返しているらしく、

「おっ、あった!」

と脳内で読み返した資料を元に、

「一番のレアドロップではないが、かなり上位の【絆の指輪】っていうミスリル製の指輪で、範囲は数メートル程度だが着けた者同士の気持ちを伝えるマジックアイテムらしいな…」

と効果を教えてくれながらも、どうやらイデアさんと自分がこの指輪をお揃いで身につけてイチャイチャしている未来を思い描いているのか、ニヤケた笑みを浮かべているライト兄さんに、

「ライト兄さん…これ要りますか?」

と僕が気を遣って聞くと彼は、

「えっ…いいの!?」

と驚いていたが、すぐに、

「いや、ジョンが一人で倒したボスからの宝箱だから…」

と一応、マナー程度の遠慮するので、僕は、

「明日以降もダンジョンに潜って強くなるんだから、次の宝箱は僕のにしてくれたら良いですよ…」

と、ライト兄さんに指輪を渡して、

「服がゾンビ臭くて我慢出来ないから、早く帰りますよ」

と、本日の高い聖水に毒消しポーションを使っただけの大赤字のダンジョンアタックを終了したのであった。