作品タイトル不明
第72話 ベーレダンジョン
昔はさぞや立派な町だったであろうベーレは、現在では廃墟の中にかろうじて残る建物を利用する形でダンジョンを管理する冒険者ギルドが宿屋などを細々と運営しているという主要産業がダンジョンしかない場所である。
まぁ、住民も多少は住んでいるみたいであるが、宿の職員やギルドの売店の職員などダンジョン関係の仕事をしている方々が主流で、あとはこの町が栄えていた頃から有ったであろう立派な教会が何故か残っており、そこに教会の関係者が普通の町の教会より沢山居るらしい、
馬車が走るガタガタに舗装も剥がれた大通りからそこそこ離れているが、
『あそこだけ時間停止の魔法とかかかってるのか?』
と思えるほどに遠くからでも解るほどにピカピカと手入れの行き届いているらしい綺麗な教会は、
『町に住んでいる全員があの教会で暮らした方が良いんじゃないかな?』
と思えるほど無駄に大きく、
『こんなに綺麗に教会を保っているなんて、維持費もかかるだろうに…まぁ、それ程教会の方々のレベルアップにこのダンジョンが最適で、この場所が大事なんだろうな…』
と、周りの廃墟から浮きに浮きまくっている壁にひび割れすら無い見事な教会を横目に今日もライト兄さんと二人でダンジョンへと潜る為に埃っぽいベーレの町を歩きダンジョンの入り口のある町外れへと向かう。
ダンジョンアタックを繰り返すこの数日だけで、
「ジョン…他のダンジョンってのを知らないけど、どこもこんなに陰気臭いのか…」
と、ライト兄さんがボヤきたくなる程に進んでも進んでもジメジメしたエリアが続くダンジョンへと冒険者ギルドのカウンターに名前を記入してから入る。
ライト兄さんのテンションを上げようと、入り口で僕が、
「先ずはライト兄さんのレベルアップが目標なんですからリスクが少なく倒せるスケルトンの沢山居るエリアに行く為に、今日こそ10階層まで行きますよ!」
と気合いを入れたのだが、実はこのセリフも本日で二回目となり、既にライト兄さんは少しこのダンジョンに苦手意識を感じているのだ。
数日前にこの町に到着し、初日は1~2階層でゾンビラットやゾンビドックという腐りかけている魔物の香りに軽く鼻をやられながらもオンブゴーレムの火力により問題なく魔石を手に入れた。
その日にギルドのカウンターで仕入れた情報では、このダンジョンの上層部は魔石以外のドロップ品は牙や爪などあまり高く無い上に全てが微妙に嫌なゾンビの一部という楽しくないエリアであり、10階層以降でスケルトン系の魔物がメインとなり、20階層以降には光属性の攻撃や魔法しか効かない厄介な魔物がチョコチョコ出るエリアとなる為に教会関係者が修行に使う程度で、冒険者ギルドの職員さんも、
「冒険者なら10階層から20階層の間がオススメだよ、この町と運命を共にしたベーレ騎士団の武器や防具をスケルトンナイトが結構ドロップするから…」
などと恐ろしげな事を言ってはいるが、スケルトンナイトの全てがダンジョンで死んだ騎士団の方々という訳でないと思う。
まぁ、ベーレが栄えていた時に騎士団がダンジョンで技を磨いていた為に中にはドジって殺られた騎士も居たかもしれないが、壊れて捨てられたり落としたりしたベーレ騎士団のマーク入りの装備をダンジョンが回収し、ドロップ品として複製したり、配置したスケルトンナイトに持たせたりしているだけだと思うし、個人的にはそうであって欲しい。
ただ、利用している冒険者までもギルド酒場で、
『昔、無念のまま散った騎士団の…』
という噂で盛り上がる程に何とも雰囲気のあるジメジメとしたダンジョンなのである。
しかも、そんなスケルトンに出会う手前の10階層までのゾンビエリアが思いの外高難易度で、出てくる魔物の持つ毒との戦いになり収入源の魔石すらオンブゴーレム君の運用に使い、解毒ポーションで赤字になる計算になっている。
『これではテイカーさん達が迎えに来てくれる前に資金難でアウトになるな…商業ギルドが無いから口座からお金は出せないし…』
という事もあり、
『初日が結構順調だったから…』
と、二日目に調子に乗って、
「早く経験値もドロップ品も稼げるスケルトンの居るエリアまで…」
と、10階層のボス部屋を目指して二人で6階層まで進んではみたが、結果として解毒ポーション切れで危うく倒れかけたのである。
そう、ライト兄さんだけ…
「おい、ジョンも噛まれただろ!? なんで毒を食らってないんだよっ」
と、なんとか地上に戻りギルドの売店にて解毒ポーションを飲んだライト兄さんがイライラして聞いていたが、
「だって、それなりに防具に課金したから…凄く丈夫なんだって、この鎧…」
としか答えられない程に防御力に差があり、有り合わせの革装備にオンブゴーレムというライト兄さんが、
「鉄の防具とか揃えてから来れば良かったよ…」
と拗ねるのを、
「ギャンさんの店の中でも壊れた鉄装備は僕が直す前に既に町の建物の釘やらになったし、カサールの町でかき集めた鉄素材はバラッドさんの手で加工されてライト兄さんの背中にオンブされてますからね…装備は帰ってから作りましょう」
と宥めたが、ライト兄さんは、
「今、必要なんだよっ!」
とヘソを曲げてしまい、毒で危うく死にかけた事を忘れる為なのか暴飲暴食をしたライト兄さんは翌日より腹痛の為にお休みとなり、本日復帰第一日目なのだ。
ライト兄さんだけであるが命からがら帰ってきた後で気がついたのだが、流石ダンジョンを管理している冒険者ギルドだけあり、このダンジョンに必要なアイテムはたっぷり売店にて販売しており、僕も知っていれば初日に何本か追加で購入したはずである。
しかし、その事実を知ったのはライト兄さんがベーレダンジョンとゾンビの毒攻撃にトラウマを刻み込まれた後で、僕が、
「ほら、少し割高な値段な気がするけど、今回は僕のマジックバックに沢山毒消しポーションも購入してありますから…」
と毒消しポーションの在庫を見せてなんとかゾンビ嫌いのライト兄さんを安心させつつ、
「今日こそは10階層のボスを倒して次回から転移陣で10階からスタート出来る様にしますからね…」
と念を押す僕に、ライト兄さんは渋々であるが、
「わかってるよ…」
と、昨日は自分の暴飲暴食でダンジョン攻略の予定を狂わせた自覚があるらしく、やる気を出してくれたのであった。
ライト兄さんと潜っているベーレダンジョンには、やはり他のダンジョンと同じくこのダンジョンにも難所となるエリアがある。
それは今回目指す10階層まででいうと、前回僕たちが逃げ帰る事になった6階層のゾンビの物量エリアが鬼門で、フロア自体は単純な一本道なのだが魔石ライトの光属性の光に怯んだゾンビの背後から新顔のゾンビが出てきて光に怯むと、先に怯んでいたゾンビが前に出たゾンビの影に入り復帰して再び前に出てくるという繰り返しで、挑戦者は知らないうちにジワジワ間合いに入られてカプっと毒をプレゼントされる。
いや…「カプ」とかならまだ良いが、中には素行の悪いゾンビなんかが居て、
「ぺっ!」
と毒ゾンビ汁を飛ばしてくるという最悪なエリアである。
悪趣味な敵しか居ないし、どういう理由か知らないがベーレダンジョンは宝箱のドロップ率も上層部は極端に低いそうで、下の階層に行かなければ旨味すらなく、その中でも苦行でしかないゾンビエリアを渋々二人で進むしか解決策がないのだ。
ちなみにこのダンジョンにも毎日の様に潜っている方々は居るらしいが、常連さんばかりらしく教会関係者が20階層から下で光属性の魔法や装備で無双しており、宝箱狙いの冒険者も転移陣で10階層からのスタートなので、
『多分ゾンビエリアで右往左往しているのは僕たちだけだな…』
と推測出来るし、現にゾンビには会うが生きている冒険者には一人も会わない。
鬼門である6階層までの階層のゾンビ達も地味に面倒臭い事から僕は、
『カサール子爵家の秘密兵器だからな…』
と言われ、人前で使うのを控えているバーストランチャーをマジックバックから取り出して、
「ライト兄さん、他の冒険者が居ない低層階を僕たち二人でまともに相手してたら日が暮れます。 だからダッシュで突っ切りますよ!」
と言って前方に通常弾をブッ放して、下り階段へと走り出したのであった。
今回、魔道具の杖はベルとリーグさんに預けて新人冒険者チームの戦力として使っており、まさかこんな早くにバーストランチャーの出番が来るとは思ってはいなかったが、今はライト兄さんのレベルアップよりもゾンビエリアを抜ける事を一番に考えて、
「6階層までは敵も可能な限り無視して、倒したあとの魔石も完全に無視して行きますよ!」
と、冒険者ギルドへのドロップ品の報告業務も中級ダンジョンからは冒険者の命が優先され、なんでもかんでも持ち帰らなくて良い為に【無視】という選択肢が出来るので、僕とライト兄さんは効率重視で突き進み、なんとか低層で一番の鬼門である6階層へと到着する。
ライト兄さんは刻まれたてホヤホヤのトラウマから、すでに腰が引けており、恐る恐る一本道の先をライトで照らしながら、
「うぅ~」
「あぁ~」
などと不快な鳴き声をあげるゾンビの声に、
「ひっ!」
と切ない悲鳴をあげてしまっている。
しかし、ここをクリアしないと話にならない為に、僕は心を鬼にして、集団に向バーストランチャーに秘密兵器を装填して構え、
「ライト兄さん、思いの外高かったからチャンスは一回ですからねっ、噛まれても汁をブッかけられても下り階段まで走りますからね!」
と念を押すと、ライト兄さんもオンブゴーレムの足ぴんボタンを押して右足のバーストランチャーを構え、
「解ってるよ!」
と覚悟を決めた様子で、ジワジワと交代制で詰め寄るゾンビ達目掛けて、少し上ずってはいたが男らしく、
「ブッかけられる前にブッかけてやる!」
と、ライト兄さんは、
「うりゃあぁぁ!」
と走りだし、例の立派な教会で作られて冒険者ギルドの売店にて売られていた聖水のボトルをバーストランチャーで撃ち込んで、自分のトラウマと共に目の前のゾンビ達を消し去りながら前へ、前へと僕とライト兄さんの二人体制で聖水を撒き散らしながら進んだのである。