軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第36話 運命の追撃

季節は秋、タンカランダンジョンでの生活は概ね順調である。

時期的にはたぶんカサールの町で盗賊討伐作戦が始まっている筈なので、そろそろ帰っても良い頃合いではあるが、マーチンの町ではグラーナを狙った大型魔物が襲来しているらしく、

『危ないですから街道へは湖を避けて山を迂回して下さい』

と、このダンジョンの村まで注意情報が出されている程だった。

まぁ、ダンジョンの方も順調と言ってはいるが、未だにこのダンジョンを攻略出来ずに朝に潜り、夕方には戻るといったダンジョン生活で六階層までは行けたが、そこからの敵が急に手強くなり数匹倒せば僕もベルもクタクタで撤退する毎日で、完全に頭打ち状態で止まっている。

『装備の見直しか、地道なレベルアップが必要かな…』

と僕としては考えている。

しかし、カサールの町に帰ってからの生活もあるだろうから、稼いだお金をパァっと使って装備を買う選択肢はなく、地道にダンジョンアタックを繰り返してレベル上げを試みている毎日である。

だけど、正直ここに来てから目覚ましい成長を見せたのは、ベルの料理の腕と、僕の錬金術師としての知識ぐらいだが、

『まぁ、成長は実感出来たし…』

と、それなりに充実はしていた。

僕がマーチンの町にて物々交換で手に入れた物は、バルザックなる錬金術師さんが研究していたゴーレムの資料であり、その研究資料によると僕が生まれたリント王国ではゴーレムの研究が進んでおり、このニルバ王国においては、少し遅れているのだそうだ。

背景には【ゴーレムマスター】のギフト持ちは珍しいながら同じぐらい両国に生まれるのであるが、問題は使い手の魔力量であり、基本的に魔力量の多い者を善しとするリント王国の文化が魔力を大量に必要とするゴーレムとマッチしたのが要因である。

それにダンジョンなどで手に入るゴーレムコアだが、ゴーレムの特性はスライムと同じくコアが弱点である事から、そこを狙って倒す為にコアを無傷で回収出来る事自体が希であるらしい。

つまりコアを傷つけないように、頑張ってゴーレムを上手に倒してもダンジョンではドロップアイテムが魔石プラスαとなるので、そのドロップ品がゴーレムコアとは限らず、ゴーレムのボディーの一部である鉱物の可能性が含まれてしまい、無傷なゴーレムコア自体がレアな物である事も影響している。

しかし、それよりもこの国でゴーレムが普及していないのには、無傷のゴーレムコアを覚醒状態になるまで魔力をすぐに満たせるほどの魔力量を持つゴーレムマスターがほとんど居ない事の方が大きいみたいである。

リント王国はヒト族が主流の国であるが、王家と昔から付き合いのあったエルフ族の様に魔力が多く有る者こそが優秀な人間だという風潮から特に貴族は魔力が高い傾向にあり、そんな中からゴーレムマスターが出れば有り余る金で我が子のギフトが世間で活きる様にゴーレムの研究が進むのは必然である。

そして、かたやニルバ王国は、獣人族の国とリント王国が遥か昔に戦争をしていた時代に両国から戦争に嫌気がさした人々が集まった国であり、魔力は極めて低いが身体能力が飛び抜けて高い獣人族とヒト族のハーフが主流な国家で、魔力を魔石から供給する魔道具の研究が盛んである。

しかし、今回の戦争においてリント王国側のゴーレムマスターが操る前進して壁となるだけの盾ゴーレムや石を投げるだけの投石ゴーレムの脅威に苦しめられ、マルダートの町を取り返す事すら叶わずに十年近く戦争を続けた事から、マーチンの町から魔道具技師として戦争に参加していた錬金術師のバルザックさんは亡くなられるまで魔道具によるゴーレム操作の研究を続けていたらしい事が手書きの日記がわりの資料から解った。

『十年足らずでここまで研究したのだから、バルザックさんとやらは優秀な錬金術師さんだったんだろうな…』

と感心する研究資料と共に物々交換により手に入れた器具の1つは、ゴーレムコアに魔石を使い魔力を満たし覚醒させる装置であり、これは魔道具全般に使われる魔石から魔力を取り出す回路を使い見事に完成しているみたいである。

もう一つの装置はゴーレムマスターがゴーレムに念話のような能力で指示を与える能力を再現する為に、戦場などの指揮にも使われる通信魔道具を応用して、ゴーレムコアに伝わる魔力振動周期を研究し、何パターンかの簡単な指示ならば与えられるらしく、その試作品である。

その他はゴーレムが周辺の石や鉱石を取り込み体を作るプロセスまで独学で解明したまだまとめられてはいない紙の束の資料も実に読みごたえがあった。

ゴーレムはコアに魔力を満たした状態から何かしらの指示を受けると、コア周辺の土属性の魔力が流れる物体を取り込み人の形に近い形態になるそうで、ゴーレムマスターがあらかじめサイズの指示を与えない場合はこの時に周辺にある鉱物の量がそのままゴーレムの大きさに反映され、その鉱物の強度がゴーレムの頑丈さに繋がるのであるらしい。

そしてバルザックさんはゴーレムコアをセットし、ゴーレムを起動させると魔道具の受信機をコアの近くに配置出来る【ゴーレムハート】の設計図と、

『如何なる物でも人の形に配置した土の魔力が影響する魔鉱鉄や、魔銀であるミスリルなどを芯につかえばリント王国より強靭なゴーレムになるのでは…』

という仮説を立てた所で研究は終わっており、最後になった日記のページには、

【まだまだやりたい研究があるが、神は猶予を与えてくれない様だ…ワシも友の様に多くとは言わぬが弟子を育てておれば…この研究が埋もれて消えて行く事だけが悔やまれる】

と震えた文字で書かれており本の背表紙には、

【神よ、願わくば我が友エルバートにこの資料を届けたまへ】

と、書かれていたのであった。

『なんか気楽な物々交換で重い願いを背負い込んでしまったな…』

とは思ったのであるが、

『まぁ、お探しのエルバートさんもニルバ王国の錬金術師さんらしいし、エルバ師匠にでも聞けば解るでしょ…』

と結論づけた僕は数秒後に、

「エルバートさんて、エルバ師匠か?!」

と閃き一人で驚いたのだが、マーチンに旅立つ前にエルバ師匠もマーチンの町を良く知っている風な口振りだった為に、

『あり得るな…』

と、見知らぬバルザックさんの願いは叶えられそうな事に安堵したのであった。

しかし、頭打ちではあるが、それなりに順調な日々が続くと、

『どうやら僕は前世で何かしらの罪を犯したのか?』

と疑いたくなる程に、必ず予想外の事が起こるのである。

なんとタンカランダンジョンの冒険者ギルドに、カサールの町が盗賊団に襲われて大変な被害が出たという情報が入ったのだ。

どうやら盗賊討伐に向かう前に相手に情報が漏れたらしく、盗賊討伐作戦の為に他の町からの応援の騎士団がカサールに到着したタイミングで奇跡的に町を落とされることだけは避けられたが、あと一日か二日到着が遅れていれば、町はどうなっていたか分からない状態まで追い込まれていたらしのである。

まだ盗む物もなく新たに王都あたりで雇用した兵士が守る国境のマルダートの町は無視して、討伐作戦を指揮するカサール男爵様をピンポイントで狙い、ついでに金品まで奪おうと近隣の盗賊団が手を組み雪崩れ込んだそうなのである。

タンカランまで流れてきた噂によると、町に盗賊団を引き入れたのはあの門兵達らしく、

『夜中に門が内側から開けられて…』

などと、冒険者ギルド職員さん達が話しているのを聞いて、ここでも何かしらの因果が僕にまで繋がっているのを感じてしまい、険しい顔になる僕は、この知らせを聞いて、

「お兄ちゃん…」

と、不安そうなベルに、

「大丈夫だよ、助っ人の騎士団が間に合ったって言ってたから…でも皆が心配だから帰ろうか」

と、自分も動揺している事を悟られないように落ち着きながら答え、大型魔物が襲来しているらしいマーチンの町を避け、乗り合い馬車を乗り継ぎ少し遠回りでカサールを目指したのであった。

カサールまでの旅路は、天候に恵まれた事もあり、僕とベルは遠回りであったが行きより早い10日あまりでなんとかカサールへ到着したのであるが、門をくぐる前のスラム周辺からカサールの町は出発時とは別物となってしまっていた。

盗賊達に抗う為にスラムの方々まで力を合わせたが、盗賊達は町に火を放ち、町のあちこちで暴れ、今はギルドの建物すら機能しない程である。

襲撃の時にギルド宿に居た冒険者達が盗賊をなんとか食い止め、カサール男爵の騎士団と協力しその盗賊達を押し返していたそうなのだが、力は拮抗しており、燃える町の消火にまで手が回らなかったらしく現在のカサールの町は悲惨な有り様だった。

しかし、建物に甚大な被害を出し、怪我人こそ大量に出てしまい町にあるポーションを使いきったが、死者だけは出さなかったという事にカサール男爵様の意地を感じるのだが、男爵様は今回の作戦の失敗が町を守る側の兵士の裏切りだった事が解り、悔しさと情けなさで、僕に冗談で殺気を放っていた同一人物とは思えないぐらいに老け込み、自らも焼け落ちた家の撤去に参加していたのであった。

僕もベルも男爵様にかける言葉が見つからないまま、とりあえず町の瓦礫の撤去に参加してはみたのであるが、ベルとしては親の仇との因縁が更に深まり、僕としてもあのクソ親父が戦争のキッカケや直接か間接的かは分からないが盗賊という者の資金源として十年以上も暗躍しなければ、ニルバ王国側の兵士の数も足りて、襲撃者である一部の盗賊達も力を付ける事がなかった可能性が高く、

『なんでだよ…』

と、申し訳ない気分に押し潰されそうになる…

『そろそろ良いじゃないか…いつまで追撃してくるんだよ!』

と加害者の息子という己の運命に文句を言いたいが、その運命とやらに直接文句を言う為の窓口を知らない僕は、唇を噛みしめながら炭となった家の瓦礫を片付ける事しか出来なかったのであった。