軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 金銭感覚

二日がかりのグラーナ用新型釣り竿が完成した翌朝、僕たちは開門と同時に手続きを済ませて、

「ケント君とベルは今日は僕の作った竿のテストを手伝ってね」

と鼻息も荒く一番乗りでグラーナ湖に到着し、

「おや、先に陸のを倒さないと勿体ない…焦らなくても湖のグラーナはこの季節は、まだどっかに行かないぜ」

などと、のんびり歩いてきたベテランさんがまだ陸にいるグラーナを先に倒している横で、マジックバックから自作の竿をニュルンと取り出し、

「まぁ、見ててください…」

と、リールから糸を手繰り出し、フン、フンと前後に竿を振り、フライフィッシングのようにその竿のしなりを糸に伝えて沖まで疑似餌を飛ばしてみる。

フライフィッシング自体は前世でもやった事はないが、釣りならば田舎生まれの前世の記憶というか、魂に竿さばきの技術が染み込んでいるので、イメージ通りに疑似餌を湖の沖まで飛ばす事に成功した。

『釣番組でフライフィッシングの回を見てて良かった…』

と、実は少しドキドキのキャストだったのではあるが、リールつきのグラーナ竿は予想以上の効果で、竿を使ったグラーナにアピールするための疑似餌のアクションが下手くそな僕でも、ただずるずるとリールを巻くだけで従来の竿ではアピール出来なかったエリアのグラーナが見知らぬ新鮮な刺激に興奮し、我先にと僕の投げた疑似餌を追いかけ始めている。

そして、僕の投げた疑似餌を追いかけて沖から押し寄せるグラーナの圧で手前のグラーナが陸に追いやられて尚、波立つ沖から次から次へとグラーナが押し寄せる事態となったのだった。

「ひゃっほぅ!」

と興奮しっぱなしの僕は岸まで疑似餌を回収した竿を一旦置いてベルとケント君と一緒に、キャッキャと陸に打ち上げられたグラーナを倒していたのであるが、何故か先日僕にご飯を奢ってくれたグラーナ狩りベテランチームのおじさんとその仲間達に、

「兄ちゃん、ちょっと来い」

と肩を抱かれたまま町まで連行されてしまい、

『あれ…なんかやらかしましたか?』

と、グラーナ狩りのルール違反で取り調べかと一瞬焦ったが、どうやら到着したのが兵士さんの詰所ではなく商業ギルドな為に、

『ん?』

と首を傾げる僕に彼らは頭を下げて、

「頼む…」

と、幾つかのお願いをしてきたのである。

彼らの要望としては、

【その竿を登録してウチの職人に作らせてくれ】

【可能ならばウチの商会で扱わせてくれ】

【それらが駄目でもとりあえず使わせてくれ…この通りだ…】

と中々身勝手そうな事を言っているが、もう見てられないぐらい彼らのお願いする姿は、

「良いですから、床にオデコをそれ以上こすりつけないで下さい」

と僕がお願いする程であった。

ベテラングラーナ狩りチームのおじさん達はこの町の様々な工房の親方だったり、大きな商会の会長だったりと、この時期は本業そっちのけで早朝から昼まではグラーナ専門のハンターとなる釣り師達であり、

『一日に十匹狩れて一流、二十匹狩れたら名人…三十匹なら伝説』

という目標を長年追いかけて、未だに名人と呼ばれる一歩手前で何年も伸び悩んでいる仲間らしく、今朝見た僕が作ったお手製の竿のひとキャストで、

『作れそう!』

『売れそう!』

『名人になれそう!』

と直感して僕を連行してきたらしいのである。

「わがままを言っているのは十分承知している…だが、この通りだ…」

と、僕が返答に困り一瞬でも隙を与えると彼らは床にオデコをコスコスしながら懇願する為に、新型のリール竿を商業ギルドに登録し、

「まだ実験はしていませんが、針をつけたら魚魔物も釣れると思いますし、もっと適した素材などドンドン改良してくれる約束ならこの町の工房に限り特許料は要りませんので、マーチンの冬の産業にでもして下さい」

と、町の工房の親方達に釣り竿のレシピを託したのであるが、翌日からは実際に釣り竿の使い方を彼らにレクチャーすると、僕が2日程で作り出した物など本業の職人の親方が集まれば一日で試作品は完成し、連日のように改良会議という名前の酒盛りをはさみ、来年からの販売が決まるほどのクオリティーにたどり着くまであっという間であった。

それから数日で親方達は二十匹狩りの名人どころか、新型の竿の扱いにも馴れ、伝説にも手が届きそうな狩りの成果に、

「これは今シーズンのうちに竿さばきを完全にマスターせねば、来年この竿を売り出せば三十匹狩りなど普通の事になりそうだ…四十…いや五十を目指さないとな!」

などと興奮するのは良いのだが、その親方達が僕の事を、

「竿師殿!」

と、若干アダルトな男優さんみたいな通り名で僕を呼ぶものだから町に居づらくなり、ベルも、

「う~ん…グラーナの足肉…ちょっと飽きちゃった…」

と、違う肉をご所望な事から、僕が作った釣り竿はケント君にプレゼントしてマーチンの町を出て、ここから丸一日の場所にあるタンカランという鉱山がダンジョンに変わった、この国の初級ダンジョンの中で最難関である10階層のダンジョンへと向かったのであった。

このタンカランダンジョンは鉱山から変化したダンジョンの為に鉄鉱石は勿論、魔力を帯びた魔鉱石という鉄と混ぜれば魔鉱鉄という腐食に強い耐性のある合金となる鉱物や、錬金術でポーション瓶などに加工される水晶や、金や銀も極少量と、いくつかの宝石まで採掘される初級にしては恩恵の高いダンジョンである。

そして、その入り口には鉱山だった頃の集落があり、鉱山から出た鉱石を加工する工房が今でも残る鍛冶の村でもあるらしい。

「グラーナでかなり儲けたし、マジックバックも有るからな…この鞄に大樽1個分の物は入るし、重さ軽減の効果もあるから鉱石も掘り放題だし、益々お金が貯まるよ…」

などとマーチンの町からタンカランまでの定期馬車の中でベルにいうのだが、彼女は、

「お金?…ボクはそんなに無いよ…」

などと不思議そうにいうのである。

「いや、毎朝ケント君とグラーナ狩ってたじゃないか? あの分はベルのお小遣いで、結構な額になってたよね?」

と、冒険者ギルドの買い取りは僕が保証人だった為にベルの収入は把握していたはずであるが、ベルは

「お昼からお兄ちゃんが寝てたりしてる間、ボクすっごく暇だったから食べ歩きしてた」

と言っていたので一月ほどで小金貨2枚ほど買い食いしたらしい…

『そりゃグラーナの足肉に飽きるわな…この時期のマーチンの町は足肉料理しかないから…』

と、呆れる事を聞いてしまい、

『う~ん…自分で稼いだとはいえ、買い食いで20万は…』

と思うが、

『食いしん坊のベルには必要な金額だったのかな?』

などとも思え、

『でも、この先も買い食い癖が続くと大人になって胃袋も成長したら破産しないか?』

と不安になった僕は、

『よし、文字と計算に続いて、ベルに自炊も教えていこう!』

と、彼女の教育方針を決めたのであった。

さて、夏も盛りを過ぎて少し朝夕が涼しく感じる季節となり、

「もう少ししたらマーチンの町には強い魔物が来るらしいから…」

と、グラーナで稼いだ駆け出し冒険者や、登録前の子供までが購入した武器を握りしめ腕試しに来るダンジョンの村でもあるタンカランであるので、前に行ったダンジョンのウエス同様に冒険者登録が無くても利用出来る冒険者ギルドと商業ギルドが共同経営している宿がある。

そこは一番安い部屋ならひとり大銀貨三枚で1ヶ月泊まれ、しかも共同キッチンや自分でお湯を沸かしてタライで体を洗える井戸場も完備している。

『これが町の安宿と同じお値段とは…』

と思うありがたい設備に加えて、隣にはギルド酒場があり食事も提供しているのである。

『まぁ、ベルに自炊を教える為にあまり使わないとは思うが…』

などと思いつつ、宿のカウンターにて、

「どのタイプのお部屋にいたしますか?」

と聞かれたベルが、

「う~ん…」

と難しい顔をしているので、僕は、

「どうした?」

と、彼女に困り顔の理由を聞いたのであるが、ベルは暫く目を瞑り考え込んだ後に、カッと目を見開き、

「お兄ちゃん、こっちのベッドが2つの部屋の方が1ヶ月大銀貨五枚だよ! ベッド1つの部屋2つより安いよ!!」

と、言い出すのである。

いや、今まで二部屋にしていたのは一応、

『女の子であるベルが気にするかな?』

という気遣いからであるが、どうやらベルは気にしないタイプの様で、

「お兄ちゃん、勿体ないから!」

と、買い食いでダブルの部屋代の4ヶ月分を溶かした人物からとは思えないお小言をいただき、僕らはダブルの部屋を1ヶ月借りる事になった。

『まぁ、ベルが良いのなら…』

と思うが、良く考えると野宿の時は火の番をしている僕にくっついて寝ているし、特に気にする事でもなかったのかも知れない。

しかし、安くなったとはいえ、1ヶ月で大銀貨五枚と言えばグラーナ十匹の買い取り金額…

『季節的なボーナスタイムとはいえ、あの町に居たら金銭感覚がおかしくなりそうだ…』

と買い食いで散財したベルと同じく僕も、

『夜狩りしたら一晩でお釣りが…』

などと一瞬頭を過ってしまった為に、ここでは金銭感覚を戻すリハビリをしてからカサールに戻る事を目標とする事にしたのであった。