作品タイトル不明
第139話 オトシマエ
魔力供給魔道具を使い手持ちの魔石がほとんど空になるまで修復した魔鉱鉄の装備の数々が詰まったマジックバッグを手分けして持ち、僕たちは今回の主犯であるモリブ騎士団長に、
「これ、自腹で買ってくれます?」
と無理難題を押し付けながら、ネチネチと文句を言ってやった。
まぁ、クーデターで婚約破棄になった姫様の噂を薄める為に、良かれと思って吟遊詩人に作らせ方々に流したというあの盛りに盛った唄のせいで僕が被害を受けてはいるが、
『姫は勿論、この騎士団長も悪気は無かったんだろうな』
とは人生2周目という経験や知識で理解はしている。
しかし、
『それとこれとは話が別である!』
という怒りの表情で僕はモリブ騎士団長に、
「おう、騎士団長さんよぉ! いつ姫様が好きだと僕が言った?」
と詰め寄ると、奴は、
「そうだったら盛りあがるかなぁ~って思いまして」
などというので僕は、
「もしも、あの噂で僕に来ていた縁談が消えたとしたら?」
と、短絡的な思考の騎士団長さんにも分かるように、こちらサイドに出るであろう、または、実際に出ている被害をキッチリ伝えた後に、
「でもね、『はい、嘘の話でした』などと今さら言えば、今度は姫の名前に傷がつくよねぇ? あぁ、僕が我慢すれば良いのかもしれないが、せめてモリブ騎士団長に魔鉱鉄の装備を正規の価格で買って欲しいなぁ~」
とトドメを刺すと、ようやくモリブ騎士団長は自分のした事がいかに失礼な事だったかを理解してくれ、
「国王陛下に罪を告白する。 しかしどうか姫様には…なんて虫が良すぎるか…」
と反省しながらも、
「しかし、この通りだ! 姫様の笑顔を守りたいのだ」
と、最後まで現在幸せの真っ最中の姫の為に今回の件は秘密にして欲しいと僕に頭を下げる騎士団長さんに、
「まぁ、こっちもロイド君に要らぬ心配はかけたく無いからね」
と伝えて内密に今回の手打ちをするべく僕は同行してくれているメンバーに、
「バルディオさん達はそこら辺の端から残りの装備を取り出して並べて下さい」
と指示を出し、アル君には、
「ではモリブ騎士団長殿に今回の賠償についての金額発表をかまして上げて!」
とお願いすると、アル君は資料の束を片手に、
「片手剣30、槍19…」
などとコーチャーの武器屋でも数が多くて一部しか買い取ってくれなかった残りの品々を読み上げはじめ、変な汗を滴しながらそれを聞く騎士団長はアル君が次々と読み上げ続ける品々に徐々に顔色が悪くなる。
そして、僕が
「では、総額の発表を!」
と盛り上げると、アル君が、
「総額は大金貨…」
と言った時点で騎士団長は泡を吹いて倒れてしまった。
「えっ?」
と僕たちは思わず声を出し、全員、
『まだ金額の発表前だろうに…』
と呆れてしまうが、騎士団長の隣で申し訳なさそうに話を聞いていた副騎士団長さんが、
「大金貨なんて言われたら、気を失うのも無理は無いかと…」
とモリブ騎士団長の反応を説明してくれたのだ。
どうやらコーチャー王国はカサール子爵領ほどの国土しかない小国であり、メイン産業は魔物素材と作物という細やかな収入な上に、昨年のクーデターで無駄な貴族を削れて財政に若干余裕が出たにしても、それまでからずっと貧乏気味な国の為に騎士団長といえど賠償金に【大金貨】というフレーズを聞いただけで気を失う額らしい。
『まぁ、僕も貧乏貴族の苦しさは少しは知っているし、その貧乏な貴族家の騎士団長なんて更に貧乏か…これは金も取れないな』
と納得した僕は、仕方ないので気を失っているモリブ騎士団長を無視して同席してくれている副騎士団長さんに、
「話は聞いてくれていたと思うけど、本人がコレなので、ゴメンだけど誰か今後の話しが出来る方を呼んでくれます?」
とお願いした。
こっちとしては管理職の方が来ると思っていたのに、何故かイノシシ顔を真っ青に染めた国王陛下がダッシュで騎士団の建物に走り込みながら、
「この度は、国の危機を救っていただいた恩人であるジョン殿に大変な失礼を…」
と頭を下げてくれたのである。
僕としてはイキナリのこの国のトップの登場にビックリした以上に、必死の形相の国王陛下の劇画風イノシシフェイスが部屋に飛び込んで来たので、
『背後のドアを突き破りアタックボアが突進してきた!?』
と、思わず武器に手をかけそうになってしまった。
なので、獣人の中でも迫力の有るタイプの顔面の方々にはもっと落ち着いて行動して頂きたいものである。
とまぁ、そんなこんなで、そこから白目で泡を吹いているモリブ騎士団長には部屋から退場して頂き、国王陛下と副騎士団長さんと我々とで話し合いを行った結果、
『魔鉱鉄の装備はコーチャー騎士団の戦力アップになるので是非購入したいが、しかし、支払いが…』
という問題にぶち当たり、荷物を軽くしたい僕たちと、装備を強化したいコーチャー騎士団サイドの利害が一致したのもあり、
「では、これ等を直すのに魔石を沢山使いましたので、現金化には手数料とかも掛かるだろうから僕としては、お金ではなく魔石でも構いません」
と提案すると、国王陛下は、
「それは有難い。 しかし、城に有る魔石はこの前、魔物素材と共に冬越しの為に売ってしまったところで、一括は無理だが、分割ならば」
と少し困り顔なので、僕は、
「正直な話、騎士団長のモリブさんに僕が少しイライラしているのが伝われば良かっただけですし、ロイド君と姫がこのまま愛を育めば結納とか色々あるでしょうからね。 だから別にお金にはこだわりませんよ」
と言ってあげたのだった。
まぁ、安い物で大銀貨数枚で買える魔鉱鉄の装備を100や200ほど放出しても代金は大金貨10枚前後だし、ダンジョン産のマジックバッグを1個ばかり販売すれば十分稼げる金額である。
来る途中に3つほど勢いと成り行きでカサール建設に渡したマジックバッグの事を考えれば、
『張本人に気を失う程のダメージを食らわせたから満足』
という気分なのであるが、それではコーチャー騎士団として騎士団長がやらかした件の落とし前がつかないという事で、国王陛下からの提案で、
「では、この装備を使い冬の食料の蓄えやスタンピードを起こさない為の魔物の間引きに騎士団が向かった際は、手に入れた一部の魔石をジョン殿に納めるという契約でこれらの装備をお譲り頂けませんか? 無論、我がコーチャー騎士団長が犯した罪の賠償も含めてです」
と申し出てくれたので、僕は、
「では、どうせなら向こう十年程騎士団長さんが職務で倒した魔物の魔石を全てウチの商会に支払うって契約で、副騎士団長さんが借金返済の監視役という事にして今回のような騎士団長の暴走が無いように見張るのはどうですか?」
と、気絶した本人が部屋から運び出されているのを良いことに、欠席裁判でモリブ騎士団長には向こう10年は副騎士団長さんの保護観察付きかつ、僕に対しての賠償金アリという実刑判決を国王陛下からも認めてもらったのであった。
それから僕は国王陛下に、
「まぁ、姫様に憧れていたのにフラれた可哀想な男という風評被害については色々と思うところはありますが、基本的にはロイド君とエカテリーヌ様の恋には大賛成ですので、今回の件はお二人にはご内密に…」
とお願いすると、陛下は、
「それはコチラが頭を下げて秘密にしてもらうべき事です」
と申し訳なさそうに僕を見ながらも、
「あんなに楽しそうな娘は久しぶりに見れて本当に安心しました」
と優しい親の顔になる。
そして、
「親バカだと笑われる覚悟で、国として恩のある勇者ジョン殿に娘の為に無理なお願いをしまっている事は十分承知しておる…」
と、僕の顔を立てようとして騎士団長に正式な罰を与えると娘である姫の幸せな気分を壊しかねない為に、国王としてと、親としての間で苦しむべきところ、僕が全てを秘密裏に済ませる提案をした事を大変感謝しており、副騎士団長さんも、
「ジョン殿、モリブ騎士団長にはキッチリと魔物討伐をさせますのでお任せ下さい」
と、モリブ騎士団長を魔物狩り業務でコキ使ってくれる約束をしてくれたので僕も気分良くロイド君達の為に、
『フラれて可哀想な青年のフリ』
が出来るというものである。