軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02:街歩き

花屋を出た二人は、少し街を歩くことにした。

セリーナとは何度も街に出かけたことがあるジョアンナだったが、ヴィンセントと一緒に街に来るのは初めてだ。

同じ速度で隣を歩くヴィンセントをそっと見上げ、ジョアンナは顔をほころばせる。

──ヴィンセント様と街に来ることができるなんて、夢みたい。

弾む心のせいか、見るもの全てが輝いて見える。

少し浮かれているジョアンナの顔には、笑顔が絶えない。

様々な店を見ながら歩いているうちに、露店などが多い通りに出た。

この辺りは人通りが多く、活気にあふれ、そこかしこで賑やかな声が飛び交っている。

その中に、ひときわ元気な声を上げている女性がいる。

彼女が売っているのは、野菜や果物だ。

「今朝、採れたばかりで新鮮だよ! 美味しいよ!」

そんな彼女の言葉どおり、店先には見るからに新鮮な商品が並んでいる。

声につられて商品に目を向けたヴィンセントは、ある物を見つけて立ち止まった。

「ジョアンナ! 見てみて。これがリコタタだよ」

ヴィンセントは店主に断ってから小さな赤い果実をひとつ手に取り、ジョアンナに手渡した。

リコタタは隣国で夏の時期に採れる果物だ。

リネハンに来たばかりの頃、ヴィンセントが隣国の食べ物の話を聞かせてくれたことがある。

その時に、このリコタタについても教えてくれた。

──確か、半分に切った時の形が可愛くて女性に人気があるって……。

ジョアンナは手のひらの上に置かれたリコタタを興味深そうに見つめている。

そんな彼女の様子を見て、ヴィンセントはくすりと笑うと店主に声をかけた。

「すみません。リコタタをひとつ、切ってもらえないかな?」

「もちろん、いいよ。お嬢さん、もしかしてリコタタを見るのは初めてかい? このままでも小さくて可愛いけどね、こうして半分にすると……」

「わっ! お花?」

切ってもらったリコタタの断面を見たジョアンナは、あまりの可愛さに瞳を輝かせて声を上げた。

「可愛いだろ? よかったら食べてみておくれ。これは色が濃いから当たりだね。リコタタは中の色が濃いやつほど、甘くて美味しいんだ」

店主は、ジョアンナとヴィンセントに半分に切ったリコタタを手渡した。

驚くことに切ってもらったリコタタの断面は、花のような模様になっている。

中心は濃い紫色。そこから花びらのような形で四方向に伸びる果肉は、皮の方に向かうにつれて紫色からピンク色に色が変わっていく。

まるで果肉の中に小さな花を閉じ込めたかのような、可愛らしさだ。

これは、女性に人気があるのも頷ける。

「可愛いですね!」

「前は乾燥したものしか手に入らなかったけど、生のリコタタは瑞々しくて美味しいんだよ。食べてみて!」

切断面の可愛らしさに見とれていたジョアンナは、ゆっくりとリコタタを口に運んだ。

「あっ! 甘くて、美味しい!」

ぱあっと表情を輝かせたジョアンナ。

その表情を見るだけで、彼女がリコタタを気に入ったことがわかる。

ヴィンセントは少し口の端を上げながら、リコタタを口に運んだ。

「うん。美味しい」

そんな風に仲良くリコタタを食べる二人の様子を嬉しそうに見ていた店主が、満足そうな笑みを浮かべながら頷いた。

「そうだろう。そうだろう。今年の夏は暑かったからね。リコタタの出来がいいんだ。買っていくかい?」

「ああ。もらおう」

「ありがとね。お嬢さんが可愛いから、おまけしておくよ」

そう言って右目をパチリとつぶった店主は多めにリコタタを袋に入れると、ヴィンセントに手渡した。

二人は笑顔で店主にお礼を言って、店を後にした。

いくつもの店を見ながら歩いているうちに、広場に出た。

多くの屋台が立ち並ぶ広場は、ちょうど昼時ということもあり沢山の人でにぎわっている。

そこかしこに食事を楽しむ人の姿があり、辺りには食欲をそそる香りが広がっている。

その香りにつられて、ジョアンナのお腹からグーッと小さな音が鳴った。

思わずお腹を押さえたジョアンナの顔は、真っ赤に染まっている。

そんな彼女をヴィンセントは愛しげに見つめて微笑んだ。

「そろそろお昼だし、ここで食べていこうか。実は俺もお腹が空いてたんだ」

「はい」

少し気まずげな表情のジョアンナの声は小さい。

「ジョアンナは何か食べたいものはある?」

「えっと……、この広場に来るのは初めてなので……」

そう言って、ジョアンナは辺りをキョロキョロ見回した。

どの店も美味しそうなものが並んでいて、迷ってしまう。

「じゃあ、串焼きはどうかな? 昔から通っているお気に入りの店があるんだ」

「あっ! いいですね。食べたいです」

ヴィンセントは嬉しそうに笑い、ジョアンナを店に案内した。

「わっ! すごい人」

男性が一人で切り盛りする串焼き屋の前には。何人もの人が並んでいる。

辺りにはなんとも食欲をそそる香りが漂っていて、ジョアンナは思わず唾を飲み込んだ。

最後尾に並んだ二人が自分たちの番が来るのを待っていると……列が進むたびに、串焼きを買ったばかりの人がジョアンナたちの横を通り過ぎる。

彼らが美味しそうに串焼きを頬張る姿を見ながら列に並んでいると、ようやく自分たちの番になった。

「お待たせしました! あれ? ヴィ、お兄さん、久しぶりだね」

そう元気よく言った店主に、ヴィンセントは微笑んだ。

「親父さん、久しぶり! ここの串焼きが食べたくなってね」

「そうかい、ありがとよ。隣の綺麗なお嬢さんは恋人かい?」

そんな店主の言葉に、顔を真っ赤に染めたジョアンナ。

少しだけ顔の赤いヴィンセントは彼女を柔らかい瞳で見つめた後、笑顔で口を開いた。

「ああ。今度、結婚するんだ」

「それはめでたいね! 今日は何にするかい?」

「甘いタレの串焼きを五本頼むよ!」

「おう! ちょっと、待ってな!」

店主はそう言うと、串焼きを焼き始めた。

タレのたっぷりついた肉を網に載せると、煙と共になんとも香ばしい匂いが立ち上る。

こんな風に目の前で肉を焼く様子を初めて見たジョアンナは、瞳を輝かせて肉が焼ける様子を見つめていた。

そんな彼女を見て、ヴィンセントが嬉しそうに微笑む。

「結婚のお祝いに新作もサービスしたから、食べてみてくれ。少し辛いけど、美味しいよ。お二人さん、幸せにね!」

そう言ってニカッと笑った店主は、串焼きの入った袋をヴィンセントに手渡した。

彼の笑顔につられて、二人の顔にも笑みが浮かぶ。

「ありがとうございます!」

「親父さん、ありがとう。また来るよ」

「おう! 待ってるよ」

広場に移動した二人は、空いている椅子に腰を下ろした。

「ジョアンナ、熱いから気をつけて!」

ヴィンセントから手渡された串焼きは、湯気が上がっていて見るからに熱そうだ。

ジョアンナは何度か息を吹きかけてから、串焼きを頬張った。

──熱っ!

まだ熱かった肉を口の中で冷ましながら、ジョアンナは美味しそうに口を動かす。

口の中の肉を飲み込むと、ぱあっと顔を輝かせてヴィンセントを見上げた。

「甘いタレが香ばしくて、美味しいです」

ジョアンナの満足げな表情を見て嬉しそうに笑ったヴィンセントも、串焼きをひと口食べる。

「うん。美味しい。あの店は街に来るたびに行っていたお気に入りの店なんだ。いつかジョアンナを連れていきたいと思っていたから、気に入ってくれて嬉しいよ」

二人は顔を見合わせて微笑む。

──あっ! こっちの串焼きも美味しい。

店主がサービスしてくれた串焼きは、少し辛いけど癖になる味だ。

すっかりあの串焼き屋が気に入ったジョアンナは、次にこの広場に来た時にも、またこの串焼きを二人で食べたいと思うのだった。