作品タイトル不明
【別視点】騎士の驚き2 83
【フィアス】
どう対応するのか。罠を設置するのか。それとも、十人か二十人で盾を構えて攻撃を防ぐのか。いや、中型の魔獣というのがテオドーラ王国の基準と同じだった場合、攻撃をまともに受けたら怪我は必至だ。下手をすれば死ぬ可能性もある。
そんなことをぐるぐると考えていると、僕の班員になった先輩から声を掛けられる。
「フィアス! 盾を構えろ! 陣形はどうする!?」
そう言われ、慌てて周りを見た。周りはもう陣形を組もうと動き出している。そうだ。僕が班長になっているのだから、指示を出さなくてはいけないのだ。
「み、皆、盾を構えて……」
指示を出そうとした時、アーベルと呼ばれていた大柄の獣人から声を掛けられた。
「動くな。まずは、我らが戦う」
そう言われて、エルネストや先輩の目が細められる。気持ちは少し分かる。装備も統一されておらず、まともな陣形すら作っていない獣人達が、中型魔獣を相手にどう戦うというのか。まるで、自分たちの方が強いと誇示しているような態度に、苛立ちを感じたのだ。
とはいえ、ドラスを含め、騎士団長から言うことを聞けと命令されている。反論するわけにもいかない。
「……皆、いつでも動けるように準備しておけ」
エルネストが小さな声でそう告げると、新たに班長に任命された者たちが頷く。
その時、真正面にあった巨大な木が二本、冗談のようにへし折れた。その木の内の一本が、こちらに向かって迫ってくる。
「う、うわぁああっ!」
誰かの叫び声がした。倒木を避ける時間はない。盾を構えて、受け止めるしかないのだ。
「た、盾を構えろ!」
大きな声で指示を出す。しかし、それを皆が実行する前に、アーベルが動いた。
「……三段斬り」
一言呟き、巨大な大剣が振られる。まともに振れるとは思えない、分厚くて大きな剣だ。その剣が、目にも止まらぬ速度で直径一メートルはありそうな大木を切断する。斬った衝撃で大木は三つに分かれ、離れた場所へ飛んでいき、転がる。その衝撃が地面を通じて足裏に伝わってくる。
「ば、馬鹿な……」
「今のは、団長が使う三段斬り?」
驚く騎士達の声。それはそうだろう。三段斬りは、いわば戦士の、騎士の到達点だ。それを、こんな百人前後しかいないような小さな村の一人が使えるなど、誰が思うだろうか。
「来たぞ!」
アーベルの三段斬りに驚いている間に、魔獣たちは接近してきていた。ミケルという獣人の叫び声に振り向くと、巨木よりも分厚い胴体の鰐が三体、そこにいた。
黒山鰐(グランドリザード) だ。話を聞いたことがあるだけの存在だが、一目で分かった。巨大な黒い鰐。その皮は岩のように固く、分厚い。そして、人間を丸のみにできる大きな口は岩でも鉄の盾でも噛み砕くという。
そんな恐ろしい魔獣だと知り、背筋が寒くなるのを感じた。
しかし、そんな恐ろしい魔獣を相手に、ラーシュ達は笑みを浮かべている。
「仕留めて良いのか!?」
「良いともー」
気の抜けた会話だ。だが、そんなやり取りをしているのに、獣人達は驚くほど冷静に戦っていた。
「一体こっちで引き受けるよ」
「お願いねー」
「貫通矢!」
「三連撃ち!」
ミケルは鰐の頭部を狙い撃ち、ロルフは連続で鰐の前足と上顎を射って動きを止める。もう一人の獣人は短剣を投げて鰐の片目を潰し、時間を稼いでいた。
そこへ、アーベルが参戦する。
つい先ほどまで、すぐ目の前にいたはずだ。いつの間に十数メートルの距離を詰めたのか。
「ふっ!」
鰐に駆け寄ったと思った瞬間、大剣を下から切り上げる一撃。恐らく、何のスキルも使っていない一撃だ。しかし、その一撃で空中に鮮血が舞う。
「三段斬り」
直後、またも三段斬りを発動させた。大剣を振り上げていたはずなのに、まるで木の棒のように軽々と大剣が三度振られる。とてもではないが、人間の動きとは思えない。
恐るべきことに、合計四回の連続切りで、鰐は絶命した。
「おお、流石」
「こっちもやるぞ! 貫通矢!」
「三連撃ち!」
獣人達は勢いがつき、あっという間に鰐たちを追い詰め、ものの数分で討伐が完了する。信じられないことに、誰一人怪我もしていない。
「よし。討伐完了」
皆が唖然として動けずにいる中、ラーシュが笑顔でそう言った。
「……こ、これほどとは……」
エルネストが驚愕し、呟く。それは、皆の心の声を代弁したような一言だった。その声が聞こえたのか、ラーシュはこちらに顔を向けた。
「三段斬りの使い方が面白かったでしょ? 三段斬りは必ず斬り下ろしから始まるので、斬り上げの後にスキルを使えば、四段斬り風の使い方ができるんですよ」
そう言って、ラーシュは笑う。それには、もう笑うことしかできない。そもそも、三段斬りは使えば必ず相手が倒れる一撃必殺の技だ。それを更に強くする為に工夫しているなど、誰が考えつくだろう。
「……魔の森で生きていくとは、それほどの……」
想像を絶する過酷な環境。だからこその発想に違いない。その日一日の訓練で、王都騎士団の騎士であるという自尊心は粉々に砕けて消えた気がした。
なにせ、連れて行った獣人達の内、戦士と弓使い二人、盗賊一人がアタッカーというやつらしく、もう一人とラーシュの従者は聖職者だという。元から、どんな魔獣もそれだけの人数で戦うつもりだったのだ。それを聞いて、我々が絶句したのは言うまでもない。