軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】 それぞれの視点 43

【リネア】

「馬車で進めるのは助かりますな!」

「やはり違いますね」

「森から出られただけでも嬉しいよな」

ドラスが上機嫌で馬車を操り、皆も同意する。確かに、多くの荷物を持って森の中を移動するのは想像以上に大変だった。馬車に荷物を載せ、身軽な格好で歩けるのはとても助かる。ちなみに私だけは馬車の荷台に乗っているので驚くほど楽をしている。

「それにしても、面白い人達だったわね。獣人とあんなに話したのは初めてだったわ」

ラーシュ達との会話を思い出しながら、一言呟いた。それにドラスが大きく頷く。

「おお、そうですな! 王宮には獣人の使用人はおりません。ただ、騎士団には何人もおりますぞ」

「そうなの? 近衛騎士にはいなかったように思うけど」

「ふむ。近衛騎士や兵士長以上の階級には人間しかなれませんからな」

その回答に、ふと疑問を持った。これまで、獣人を見ることが少なかったから違和感を持つことも無かったが、今回の森での出会いで意識は変わった気がする。

獣人達は優しく、賢い。森の中での姿を見る限り、斥候としても兵士としても優れている。そのことに気が付いてから、先ほどの村でも無意識に獣人の姿を探していた。村には何人も獣人がいたが、そのどれもが下働きのようなことしかしていなかった。自警団にも獣人の姿はない。

「……ハーベイ王国では獣人の立場は低いの?」

「そうですな。確か、ハーベイ王国では獣人は明確に低い地位だったかと……」

おぼろげな記憶を手繰り寄せるようにしてドラスが答える。曖昧ながら、獣人たちの立場が弱いという点は間違いなさそうだ。

「へぇ……そうなのね」

今回のことで、アーベル達は私の恩人となった。テオドーラ王国の第三王女であるリネア・クララ・テオドーラの恩人達だ。それが不当な扱いをされるかもしれないと思うと、正直他国のことでも不愉快である。

「……後は、やっぱりラーシュね。戻ったら早急に騎士団と諜報員に出立の準備をさせて」

「むむ? 戻ってすぐですかな? しかし、恐れながら、戻ったらリネア様は暫く自室から出るなと仰せつかるのではないかと……」

「別にすぐに出ることくらいできるわよ。安心して」

「む、むしろ更に不安になりましたぞ」

ドラスが顔を引き攣らせてそんなことを言う。失礼な。まだ王宮から逃げ出したのは五回だけだ。まぁ、いつもドラス達に同行させているから可哀想とは思うけど。

そういえば、私が王宮から逃げ出して戻る度にドラスが物凄く怒られている気がする。たまに半泣きになっているドラスが、王宮の中を背中を丸めて歩いていたような……気のせいだろうか。

いや、それよりもやはりラーシュのことだ。

どう考えても、普通ではない。その辺の村や町に生まれたのなら、王族などと対面したら委縮してしまう者ばかりだと思う。子供であっても王侯貴族の恐ろしさは教えられて育っている為、無礼な物言いなど決してできないものだ。

もちろん、私は罰するつもりはない。しかし、通常であれば王族や貴族に失礼があれば厳罰を受けるものだ。そういった状況から、王族に関しては貴族の方がより気をつけるだろう。貴族の子らが私と一対一で会話をし、冗談めかして雑談するなんてことは皆無だった。

では、あのラーシュという少年は何者なのか。最初は森の中で赤ん坊の頃から過ごしているのかと思ったが、衣服の質が明らかに違う。それに、本人が森に来て一、二週間程度だと言っていたと思う。ならば、どんな環境で過ごしていたのか。なぜ、他の職業適性のスキルに異常に詳しいのか。

興味が尽きない少年だ。

そんなことを思いながら、私は久しぶりの快適な馬車の旅を楽しんだのだった。

【宿屋の男】

急な指令を受け、村に潜入して二日。村は平和そのもので面白味もない。一ヶ月様子を見るように言われているが、何もない村で一ヶ月も何をして過ごせというのか。

そんな状況もあり、昼間から宿にある食堂で酒を呑んでいた。

「……兄さん、本当に暇そうだねぇ。働かなくて良いのかい?」

「放っておけ」

宿を経営する夫婦からは時折声を掛けられる。今日も酒と木のコップを運んできた中年の女が呆れたような顔と声でそう言った。こんな辺境に来ることはもうないだろう。そう思いながら、片手を振って返答する。

女は肩を竦めて去っていき、テーブルに置かれた酒を自分でコップに注いで口に運ぶ。

ぼんやりと食堂から外を眺めていたその時、見慣れない茶色のローブの一団が歩いていった。村には外から来る者が極端に少ない為、見たことの無い者はとても目立つ。

その一団は三人がフードを被っており、顔を隠していた。一人はかなり背が低いが、子供だろうか。

「……まさかな」

そう呟きつつ、慌てて宿から出てローブの一団の跡をつけた。一団は見た目に反して金を持っていたのか、馬車や食料、武器などを購入していた。

そして、村から出ようと歩いて行く時、一番小さな人物を正面から確認し、顔を見る。

隣を歩くローブを着た女と楽しそうに話しながら歩いて行く時、横顔を確認することができた。

「……ら、ラーシュ様?」

本当に、目的の人物を発見してしまった。確実に死んでいると思っていた分、その衝撃は大きい。

「……これは、急いで報告しなきゃならないな」

村から出ていく一団を見送りながら、小さくそう呟いた。