軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138 番外編 アーニデヒルトの帰郷

北の地に着く頃には、女性事務官の登用ということで話がまとまった。

ナーディアとイレーヌが、その事務官に応募しようと考えているのは秘密である。

王都にいたアーニデヒルトが感じれるほど、その欠片は強い力をもっていたらしい。

北の地に鳥が運んだのかは分からないが、赤黒い小さな石はすぐに見つかった。

『力が 漲(みなぎ) ってくるの』

アーニデヒルトが白銀の竜に姿を変えた。

『今なら次元を超えられると思う。行ってくるわ』

白銀竜が翼を広げて空に飛び立った。

ナーディア達が見守るうちに、その姿が空に吸い込まれるように消えていく。

「アーニデヒルト様?」

イレーヌが名を呼んでも返事は返ってこない。

「アーニデヒルト様はご自分の世界に戻られたわ」

ナーディアがアーニデヒルトが消えた空を見上げながら答える。

「この世界に帰って来られるかは、わからない」

次元を超えたアーニデヒルトは、白銀竜の姿で空を飛んでいた。

アーニデヒルトの記憶の世界と、どれほどの時間が経っているのかは知らないし、正しく戻ってこれたかもわからない。

ただ、白銀竜の姿は目立ち、人々が空を指さして騒乱になっているのが見れる。

どれほど飛んでいたのか、遠くから近づいて来る一群に気がついた。

それは竜の群で、アーニデヒルトの前に来ると飛びながら礼をするように頭を下げる。

その中から大きな漆黒竜が前に出てきた。

「白銀竜様、竜の長をしているドゥブレッド・ストレイグスと申します」

『アーニデヒルトです』

アーニデヒルトが名乗ると、竜たちが動揺しているのが見て取れ、ドゥブレッドが彼らを制している。

「アーニデヒルト様、もしよろしければ我らの屋敷で休憩をしていただけませんでしょうか?」

情報の欲しいアーニデヒルトに異存はない。そして何より、ストレイグスはアーニデヒルトの実家の家名である。

「ええ、寄らしてもらうわ」

竜の群について着いたのは、緑に囲まれた居城であった。

アーニデヒルトの記憶の実家に似ているが、どことなく違う。

竜たちが地上に降り立つのと同時に人型に変わるので、アーニデヒルトも人の姿に変える。

その姿を見た竜たちから歓声のような声があがり、ドゥブレッドが涙ぐんでいる。

アーニデヒルトは意味が分からなかったが、屋敷に入って玄関で理由がすぐにわかった。

そこには、在りし日のアーニデヒルトの大きな姿絵があったからだ。

ドゥブレッドは、アーニデヒルトの前に 跪(ひざまず) いて 頭(こうべ) を 垂(た) れた。

「お帰りをお待ちしてました。2000年の時を 経(へ) て、アーニデヒルト様に 拝謁(はいえつ) でき 僥倖(ぎょうこう) でございます」

「そう、2000年 経(た) っているのね」

実家に似ていると思ったのは間違いないらしい。時と共に少しずつ変わったのだろう。

「アーニデヒルト様のお部屋は、代々引き継いでおります。どうぞこちらへ」

ドゥブレッドが案内するように階段を上がって行く。

アーニデヒルトの部屋は、2階の南の庭に面した部屋だ。王家に嫁いでからも残されていた。

長く閉められていた部屋の扉の鍵穴に、ドゥブレッドが鍵を差し込み、カチャリと回す。

開かれた扉から、少し湿った空気が流れ出し、部屋の中の色あせたカーテンが目に入る。

「陽のあたるカーテンの劣化は防げませんでしたが、家具や調度類は当時のままに残されています」

どうぞ、とドゥブレッドがアーニデヒルトに道を開ける。

長く眠っていたアーニデヒルトの記憶は鮮明である。

ついこの間のことのように自分の部屋を覚えている。ベッドに置かれたクッションも、ドレッサーに掛けられたケープもあのままだ。

「このケープは、お母様が刺繍をいれてくださったの」

ケープを持つアーニデヒルトの手は震えている。

アーニデヒルトが竜の子でなく不貞の子であると嫌疑をかけられ、処刑された母親。涙が止まらない。

「私の曽祖父であるシュビレーヒ・ストレイグスは、母親の処刑の報を受け妹を助けるべく領地から王都に向かいましたが、間に合いませんでした」

ドゥブレッドが 拳(こぶし) を握り締めて言うのは、アーニデヒルトの兄の名だ。