作品タイトル不明
124 一歩進む
この国の制度を封建的と疑い始めたのは、アーニデヒルトの記憶とシンクロしてからだ。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となり、未来の王妃の教育を受けたナーディアには、この国の制度は当然のものであった。
垣間(かいま) 見たアーニデヒルトの国。
女性にも要職が与えられていた。
竜族の国にとって、竜種の強さが最優先されていたからだ。
それは男女の差ではなく、個人の能力の差であった。
アーニデヒルトは竜体になっていなくとも、高い能力を誇っていた。だから、竜体になれなくとも出現が遅い高位竜と思われていた。
それは、すでに竜体になっている王の自尊心を刺激したのであろう。
河原で石を集めている時に触れた下町の人々の生活。
国を憂うアーニデヒルトの気持ちが流れ込んできた。
テトの事故で貴族の横暴を知り、ダルトン子爵に報復を思ったのは、国の体制に不信を持ち始めたからでもある。
「ナーディア?」
イレーヌが考え込んだナーディアを覗き込んだ。
「きっと私達は、彼らにとって想像外の存在なのでしょうね」
女性は家長に従順にしたがい、家の決めた結婚をし、家の繁栄に尽くす。それがこの国の男性にとって都合がよいのだろう。
「王妃陛下も中央政権には口を挟めなかったから、港町ガナッシュの代官の人事、補助金の横領の指示、地方政治に目を付けたのでしょね。
他国から嫁いできた王妃陛下にとって、この国は封建的であったのでしょう」
「子を産み育てる女性を守るためでもあったと思う」
イレーヌは、優しく微笑んだ。
「妻が着飾り社交をするのは、夫の虚栄心を満たしたのでしょうね」
「でも、今は人手が足りない。戦争中で、能力のある女性を使わないのはもったいない、と思うわ」
「ええ、そうよ。女性にも能力があるって証明するのよ」
「聞こえてますよ」
宰相が笑いながら声をかけてきた。
「たくましくって、何よりです。
勇気あるご令嬢の一歩は、ちゃんと皆に響いてますよ。
彼もそれを感じたから、腹立たしいのでしょう。
だが、彼の言動は恥ずべきことに間違いありません」
宰相が補佐官が出て行った扉を見ている。
「さぁ、草案をまとめて停戦交渉の準備です」
宰相とイースデン公爵、ヴィステン侯爵達は、ナーディアとイレーヌの会話に出ていた王妃の処遇に悩んでいた。
王妃は不貞をしていたが、補助金横領、偽造紙幣製造、王家の私財とのすり替え、全て証拠はないに等しい。犯人の証言だけでは、対戦国の王の妹である王妃を処罰できず、対戦国を刺激する可能性が強い。
アルチュールはナーディアに視線を向けたが、父親達がいる前では行動を控えたようだった。
男のちっぽけな自尊心など、君の勇気の前では吹き飛ぶよ。
その一歩を踏み出すのに、どれほどの勇気がいるか。
河原で石を拾う君に付きまとった噂、それを知っても君は河原に通った。
アーニデヒルト様の声は、君だから届いたのだろう。
新しい国は、君に相応しい国でありたい。