軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎のメイドさん()登場

――パチリ。

――パチリ。

……と、炭火が爆ぜる音というのは、どうしてこう人間の心を昂らせるのだろうか?

おそらくは、地球において人類が初めて火を手にした時代……焚火を皆で囲み、獲物の肉が焼き上がるのを待っていた原始的な記憶と興奮が、俺たちの塩基配列へと巧妙に刻み込まれているに違いない。

「デュフフ……それでは、バターを載せますぞ」

あ、「デュフフ」って笑い方してるからシールド艦クシナダの副長だ。

やたらと気を利かせて、浜焼きの準備やジジババが得てきた獲物の下準備を済ませるクローン人間じみた黒髪眼鏡ズのうち、俺たちブリッジメンバー+シレーネさん&ディートが集ったグリルの鍋奉行ならぬ網奉行を務める彼が、そう言いながらアマテラス製のバターを開封する。

ナイフで四角く切り取ったそれが載せられるのは、網の上で焼かれている――ホタテ。

――じゅううううう……。

おお、ホタテの身から発せられる熱を受けてバターが溶ける音の、なんと蠱惑的な響きだろうか。

同時に、微生物が焼けているのだろう磯臭い香りに混ざって、乳脂の溶けていくかぐわしい匂いも漂っていく。

「デュフフ……『バター』と『醤油』ッ!

この世にこれほど相性のいいものがあるでしょうかッ!?」

あるわけがないっ!

ただでさえ赤色の肝が色鮮やかなホタテが、バターと醤油を受けて黄金色にコーティングされ、至上の美味が炭火の上へ顕現する。

「「「「いっただきまーす!」」」」

トングを握ったクシナダ副長から、それぞれの紙皿へホタテを載せられた俺たちは、さっそくこれを実食した。

「むう……このバターの鮮度!

これはもしや! 今朝作りたての代物ではないか!?」

亜麻色の髪を一つ結びにしたいつも通りのヘアスタイルで、スカートタイプのスーツ姿となったシレーネさんが、一流テーラーの腕をもってしても……いや、だからこそだろうか。

極めて立体的な胸部を3Dで躍動させながら、目を輝かせる。

あっちの方で親指を立てているのが、ウェットスーツの頭部分を外して二房の白い三つ編みを露わにしたラドと、他のジジイたち同様にふんどしスタイルで、実はマッチョな肉体を披露しているU字禿げのお手本みたいな赤鼻の爺さん――フェラーリン。

おそらく、ラドの命でアマテラスの牛さんを世話している『プロテイン・ダイナミクス社』の総帥レオンが、バターに加工。

それを、フェラーリンが俺のスポーツカーですっ飛ばして運んだに違いない。

なんか、海岸の入り口に俺保有の車が二台停車してたし。

たかがバター一つに恐るべき執念だが、実際、新鮮なバターはモノが違う。

一切酸化していないそれは、乳脂が秘めた哺乳類を魅了してやまない旨さの全てが――俺の紙皿からホタテが取られたあっ!?

「――へへ、油断だなイラコ。

……うおお! なんだこのバター! めっちゃうめえ!」

大ぶりなホタテの身を割り箸で掴み上げた黒髪ワンレングスの軽薄男――アルファードが、黒ワイシャツの上で金色のネックレスをカシャリと揺らしながら、目を輝かせた。

「気配消して人のもんパクんじゃねーよ。

焦らなくても、婆ちゃんたちと爺ちゃんたちがたらふく獲物を捕まえてくれたんだからさ」

「ああ、ドン引きする勢いだったな……。

てか、イラコっちの仲間だから見逃すけど、刃物とかは使わんでください。

そういう体験プログラムじゃないんで」

ゆったりとしたシャツにハーフパンツ姿のイノシシじみた男……カワハラが、長く伸ばした後頭部の髪をかきながら微妙な顔で告げる。

停車していた車の内、二台目はこいつらが乗ってきたか。

まあ、普段から面倒な手入れと管理をお願いしてるし、カーシェアみたいなもんだな。

「おお、悪い悪い。

魚のやつらが思ったより素早く逃げるもんで、ついムキになっちまってな」

自らが仕留めたイワシを網の上で丸焼きにしながら、メケーロ爺ちゃんが顔半分覆う茶髪をかく。

彼の外見的特徴といえば、なんといってもこの髪に隠された稲妻のごとき古傷であるが、こうしてふんどし一丁になると、柳へ針金を巻き付けたかのごとく鍛え抜かれた肉体の至る所に、銃創や切り傷が刻まれているのを確認できた。

伝説の傭兵――サンダーアイ。

その勇名は、生き残ったからこそ轟いたという証左であろう。

「それで、お爺ちゃんたちは、どうしてこちらに?」

カレッジスタイルのマミヤちゃんが、不思議そうな顔で翡翠の瞳を瞬かせる。

「いや、何……このイセタウンには、おれたち元兵隊組の知り合いも暮らしてるんでな。

皆で、一足先にバカンスさせてもらってたってわけさ」

焼いていたイワシと手にしたトングをメイド服の女性に委ねながら、メケーロ爺ちゃんがカッカと笑ってみせた。

「知り合いといえば……あなたたちも、イラコの知り合いなのよね?

うちの愚弟が、いつもお世話になっているわ!」

シャツのラインストーンロゴが稜線で歪んでいるのを見ると、こいつもシレーネさんには当然及ばないものの、形よく育っていることが分かる。

Tシャツタイトミニスカスタイルのディートが、長く伸ばした金髪のツーサイドアップ部分を軽く手で払いながら、アルファード&カワハラの地元民ズへ言い放った。

「おお、こっちこそイラコには世話になっているぜ!」

「……あれ? てか、第三皇女は妹だって、前にイラコっちが言ってなかったか?」

マイルドヤンキーにとって、皇族だろうが 友達(ダチ) の妹は 友達(ダチ) 。

一切臆さないアルファードと、頬をかきながら視線をさまよわせるカワハラだ。

「……んなっ!

ちょっと、イラコ!

自分の友人に、適当なこと吹き込んでるんじゃないわよ!」

「適当なことじゃないですー! 純然たる事実ですー!」

ツーサイドアップ部分をロケットのように一時射出させるほど激怒する 愚妹(ディート) に、唇を尖らせながら反論する。

「まあまあ、第三皇女様。

そんなに怒っては、かわいいお顔が台無しですよー?」

そんなディートにオレンジジュース入りのプラカップをさっと差し出したのが、縮地による半瞬間移動でグリルから離れたメイドさん。

「あら、ありがとう。

気が利くわね」

「いえいえ、どういたしましてー」

黒髪をおかっぱじみたボブショートに揃え、クラシカルな正統派メイド服を着こなした小柄な女性が、軽くスカート裾をつまんだお辞儀で答える。

かと思うと、次の瞬間にその姿がかき消えた。

どこに消えたか?

グリルの傍らだ。

いつの間にか主導権をクシナダ副長から奪ったらしいメイドさんが、グリル調理へと戻っていたのだ。

が……。

「わたしもジュースほしい」

「――はい、エステ様。

お待たせしました」

残像をグリルの傍らへ残した状態で、オレンジジュース入りのプラカップがエステへと供される。

……速い。

この俺の動体視力をもってしても、見切れないほどに。

「それにしても、エステ様はまた少し大きくなりましたねー。

あともう少しすると、立派なレディでしょうかー?」

ハリとツヤに満ちたもっちもちの頬へ片手を当てながら、メイドさんがほほ笑む。

「うい。

もういくつ寝ると結婚適齢期。

期待して待っててほしい」

「まあ、まあー。

何を期待すればいいのでしょうー?」

小柄な見た目と、日系人の身体的特徴からは信じられないほど豊かな胸をゆさりと揺らしながら、メイドさんが笑う。

鈴を転がしたような声を聞くと、喉の奥をくすぐられたかのような感覚が走る。

同時に、いい年こいて恥ずかしくなるほどの圧倒的母性を感じ……。

この身を構成する細胞一つ一つにまで刻まれた根源的な死の恐怖が、俺を震わせた。

「ところで、こちらのメイドさんは何者なのだ?」

今度はヒオウギ貝を味わっていたシレーネさんが、能天気にそう尋ねる。

「そういえば、いつの間にか混ざっておられましたね。

……冷静に考えて、お貴族様に仕えていそうなメイドの女の子が急に混ざっていたら、違和感を覚えそうなものですが」

「そうね……なんの疑問も抱かずお世話されていたわ。

それで、この可愛いメイドさんは誰なの?」

マミヤちゃんとディートも、小首を傾げながら俺の方を向いた。

「まあー、可愛いメイドさんだなんて、照れてしまいますー」

一方、照れっ照れな様子で両の頬を押さえる謎のメイドさん()。

だが、俺は気付いている。

さっきから逃走を企てている俺を逃さないよう、目の端で常にこちらの動きを捉えていることを……。

そんな彼女が何者かを説明してくれたのが、焼き立てのイワシを瞬間移動のような速さで紙皿に載せてもらったエステ。

オックスフォードシャツにスカートと野球帽を合わせた妹は、無表情に海産物を味わいながら、こう言ったのだ。

「こちらは、イラコのママ。

その名もイラコママ」

「はいー。

ママこそ、イラコ様のママですー」

あまりに雑な説明をされつつも豊かな胸を揺らし、両手でスカートつまんだカーテシーをキメる我が母ことイラコママである。

「「「……は?」」」

一方、女性陣三人は、目を丸くして、十代半ばの少女にしか見えない熟女メイドさんを見つめるのだった。