軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

VSディート 4

「なんなんだ、これは……!

僕は一体、何を見せられている……!」

徹底したカスタマイズを施した愛機――ミラン・ドンナーの狭苦しいコックピット内でペーター・ジーゲルがつぶやいたのは、怒りによるところでも、焦りによるところでもない。

……困惑。

ただその感情のみが、天才M2乗りの名を欲しいままとしている第二皇子の胸中に宿っていたのである。

それほどまでに、敵方の機体たちは……。

「速すぎる……!

このミラン・ドンナーが、まったく相手にされていないだと!?

既存機を遥かに上回るスピードである、この機体が……!」

妹が乗るベレンジャーという試作機にせよ、弟が乗る 出自不明機(タイゴン) にせよ、ペーターの常識を遥かに超える機動力と加速力でもって、漆黒の宇宙を 跳(・) ね(・) 回(・) っ(・) て(・) い(・) た(・) の(・) だ(・) 。

ミラン・ドンナーという名の由来は、そのままずばり―― トンビ(ミラン) 。

背中へ装備された二基のヴァリアブル・ブースターポッドは前後左右、様々な方向に可動可能であり、しかも、小型のリアクターを内蔵していることから、プラズマ噴射の出力は抜群。

この追加装備だけで通常仕様のドンナー一機分に相当する高コストさであるが、それに見合った高機動力を機体に与えるのである。

にも関わらず、攻撃を当てるどころか、まともに相手をしてもらう段階にさえ達せていない。

ベレンジャーもタイゴンも、明らかに本機を上回る奔放な飛翔で、ひたすらに翻弄してくるのであった。

「ベレンジャーは分かる……!

この機体と同じ製造元のスマート・ヴィークル社が、昨年開発したばかりの最新鋭試作機ならば……!

だが、タイゴンは……あの機体はなんだ?

通常仕様のリアクターとスラスターで、どうしてあんな加速力が生み出せる……?」

とりわけペーターの理解を超えているのが、第四皇子にして皇族唯一の庶子――イラコ・ジーゲルが操るタイゴンの挙動。

広い関節可動域を存分に駆使し、様々な角度へ機体と四肢を捻ったモーションは、カンフーのそれを彷彿とさせる。

そして、そこから生み出される加速と機動は――マジック。

そう、魔法だ。

そうとしか、言いようがない。

明らかに機体スペック以上の瞬間移動じみた加速によって、ミラン・ドンナー以上の動きを見せているのであった。

「……くそっ!」

初めて操縦桿を握ったのは、父たる銀河皇帝に抱かれてM2へ乗り込んだ時……。

吸い付くようなその感触を伝えた時、父が「我が子よ。それは天稟だ」と告げてくれたことを、昨日のことのようによく覚えている。

で、あるならば、ディートとイラコはなんなのか……?

フットペダルを踏み込むと、背部のヴァリアブル・ブースターポッドがペーターの意を汲み、文字通り爆発としか思えぬプラズマ噴射で機体を飛翔させた。

力任せそのものの加速で、タイゴンの背部へと追いすがり――。

「――なっ!?」

そして、驚愕する。

こちらは、確実に背後を取ったはず。

だというのに、陸上選手じみたシルエットを持つ漆黒の機体は、わずかに身を捻った後、霞のごとくその姿を消失させたのであった。

ペーターが背中から感じたのは、威圧的な――攻撃の意思。

「――ぐああっ!?」

殺気と呼ぶほどのものではない。

ただ、目に入った羽虫を追い払うかのような雑な意思。

その証拠に、タイゴンが放ってきたのはごく単純な前蹴りであり、それは機体同士の電磁シールド干渉によって、こちらを弾き飛ばすに留まる。

つまり、ペーターはコバエのごとく追い散らされただけということ。

イラコが視界に入れているのは、同等の力量を持つ存在――ディートだけなのだ。

なんという……屈辱!

そして、屈辱を覚えているのは、自分だけではない。

『ペーター殿下! ど、どうすればいいのです!?

……話が違う!』

通信を入れてきたのは、チームメイトであるテセス・ガスパーニ伯爵であった。

友人である彼に与えたのは、試製されたものの実戦投入には至らず、倉庫で眠らされていた大火力パックを装着したドンナー……。

両脚に装備されていたミサイルポッドは、すでになんらの成果も生み出さないまま使い切り、パージされている。

今の彼は、両腕部の粒子ガトリング砲を連射しながら、時折、両肩のレールガンも発射している状態だ。

通常では考えられぬほどの面制圧力……。

これで敵の片割れ……ないし両方の動きを制限するか、場合によっては撃墜まで持ち込むというのが、こちらチームの戦略であった。

撃墜は高望みだとしても、機動兵器の命である機動力を発揮する範囲さえ制限してしまえば、あとはこのミラン・ドンナーが、クローザーとして仕留めてしまえるのである。

まったく、あてが外れていた。

ペーターが相手にされていないのと同様、テセスもまた、一瞥すらされていない。

放たれた無数の粒子弾を、タイゴンとベレンジャーはノールックで巧みに回避し続け、その上で、本来の僚機に牽制射を加えているのだ。

「どうすればいいか……?

どうすればいいのか、だと……?

そんなの、僕に分かるものか!」

ペーターがこうまで顔を歪めたのは、生まれ落ちて以来、初のことである。

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「なんつーか、うっとうしいな。

そんなに張り切らなくたって、ディートを仕留めたらちゃんとやられてあげますよー」

また爆発的な――ただし直線的過ぎる――加速でもって迫ると同時に放たれた粒子散弾銃のビームを、縮地の応用による瞬間加速で避けながらつぶやく。

四つのカメラアイが特徴の頭部スレスレを、ビーム散弾が流れていき……。

ドアップとなるのは、ブラウン管テレビじみたデザインの頭部ユニット。

コックピット部分へしたたかに蹴りを打ち込んでやると、ペーター兄さんのミラン・ドンナーは、電磁シールドの干渉光を放ちながら吹っ飛んでいった。

と、すぐさま機体の身を捻させる。

上体逸らしの体勢となった結果、一瞬前までコックピットが位置していた箇所を、ビカビカ輝く荷電粒子ビームが過ぎ去っていく。

あくまで見た目が派手なだけで、出力は模擬戦用のはず。

だというのに、撃ってきたディートの殺気がそうであると感じさせない……!

恐ろしさと、この小生意気な妹を倒す喜びが混ざり合い、意図せず口の端を吊り上げさせた。

見れば、ディートの方もフルアームズ・ドンナーが放ってきたガトリング砲の銃撃を、出力にモノを言わせた高速機動で回避せしめている。

同じマシンスペックに頼った動きでもペーター兄さんと異なるのは、その動きが曲線的なやわらかさを備えていること……。

加えて、そうしながらも俺を狙い撃てるだけの余裕と、視野の広さが同居していることだ。

「お邪魔キャラたちの存在を気にせず、いつもの展開には持ち込めてるんだよなー。

いつもの展開だと、決着がつかずに時間切れなんだけども」

こちらもタイゴンに粒子小銃を撃たせるが、単調な射撃が当たる相手ではなく、さくっと回避された。

このまま、撃って撃たれて、近付こうとしては引き離されてを繰り返すのが、いつもの展開。

とりわけ、昨年にこいつがベレンジャーを受領してから――それまではミラン・ドンナーと同仕様の機体だった――は、変にその千日手状態が安定してしまっている。

「どうしようかな……。

どう工夫すればいいだろう……?」

つぶやく俺が、サブモニター越しにチラリと見たのは、ペーター兄さんのミラン・ドンナー……。

そう、実のところ、結論はもうとっくに出ているのだ。

これまで、俺とディートがこっそり行ってきたM2同士の模擬戦においては、存在しなかったファクター。

状況を変えうるものがあるとするならば、まさしくそれを置いて他にないのであった。