軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エステの日常 後編

「デュフフ……w

エステちゃま、お待ちしておりましたぞ!」

「ヒュヒヒ……w

アマテラスとクシナダの艦外チェックを行って得たデータは、全てまとめてあります」

「フッヒヒ……w

いやはや、こういったものの問題点は動かしてみないと分からないのが常とはいえ、細やかな問題が驚くほど出てきましたな」

「ブッフフ……w

一番ダメージが大きいのは、このクシナダの水回りでしたな。

まさか、シャワーも風呂も使えなくなるとは。

トイレが無事だったのは幸いですが、修理に数日を要しましたぞ」

「ん……だから、しばらくこっちにはこなかった。

みんな、ちゃんとお風呂には入った?」

「「「「もちろんですぞ」」」」

両舷部のアームユニットと巨大な電磁シールドが特徴のシールド艦クシナダであり、連絡艇ならばともかく、18メートル級の人型機動兵器であるM2の運用能力は、本来持ち合わせていない。

そのため、イラコがタイゴンを着艦させたのは資材などを保管するための格納庫であり、そこには先客――鹵獲したオッパイおばけの搭乗M2が、首なしの状態で横たわっていた。

そこでタイゴンを膝立ちとさせ、しばらく待つと二重ハッチが閉ざされ、空気と人工重力が内部を満たす。

それを待って出迎えに現れたのがクシナダのクルーたちで、彼らと交わしたのが先の会話だ。

ところで……だ。

「いやあ……。

こうやって直で顔を突き合わせても、誰が誰だかまったく分からねえな!」

エステと共にタイゴンを降り立ったイラコが、彼らを見回しながら正直に述べる。

仮にも第四皇子という身分の人間が、面と向かった相手たちの見分けがつかないというのは大問題であるが、しかし、こればかりは致し方ない。

何しろ、エステを慕いシールド艦クシナダに集ったクルーたち……銀河帝国における技術面のエキスパートたちは、どういうわけだか、揃いも揃って瓜二つの容姿をしているのだから。

全員、白衣とメガネが標準装備!

比率としてヨーロッパ系の人種が多いはずの銀河帝国であるというのに、どうしたことか驚異の黒髪率100%を誇り、四角い顔立ちをしている!

まるで判を押したように、ジャパニーズオタクスタイルのステレオタイプを体現しているのだ!

「おうふ。

拙者たちもそのことは気にし始めていたので、こうして差異を用意したのですが、気付いてもらえませんでしたか……」

クルーの一人――当然エステにも見分けはつかない――が、メガネをカチャカチャしながらオーバーリアクションでガッカリしてみせる。そういうところだぞ。

「差異を用意したって、何が違うんだ?

俺には、髪型もファッションもメガネの縁も、全部同じに見えるんだけど……?」

「デュフフ……ズバリ、笑い方ですな。

それぞれ、『デュフフ』『ヒュヒヒ』『フッヒヒ』『ブッフフ』と、笑い方を変えて個性を生み出しておりますぞ!

ちなみに、栄光あるデュフフ笑いを獲得したのが拙者、クシナダの副長でございますな」

「いや、分かるわけねえだろ!」

キレのよい漫才が繰り広げられている中、手渡されたタブレット端末を……手早く確認する前に、なんか脂っぽいので皇室御用達のハンカチで軽く拭いておく。

「「「おうふ」」」

それを見て、何が嬉しいのか周囲のオタクたち――じゃなかった、クシナダのクルーたちは身悶えしていたが、ともかく中身を確認した。

「ん……貴重なデータが取れた。

やはり、机上の設計だけでは見えない問題も多い。

他には、アマテラス側だと、グラビコンシステムで慣性を感じないはずの牛たちが、第六感で異変を察知してお乳の出を悪くしたりしている」

「なんと、それは一大事ですな!

例えば合体時にはリラックスできる環境音を流して注意を逸らすなど、さらなる工夫が求められましょうぞ」

「そういった既存設備の応用などでどうにかできる工夫は、そちらの裁量で実現していって構わない。

わたしは、変形合体時のプロセスでダメージが及ばないよう、ピンポイントなグラビコン設定のプログラミングを作成すると共に、ダメージが及んだ箇所の素材見直しや再設計を行う」

クシナダの艦内でどんな役割を受け持っている誰さんなのかは分からないが、ともかく有能な技術者に間違いはないだろうクルーに答えながら、颯爽と自分のラボへ向かおうとする。

このクシナダ艦内には、最新鋭のマテリアルプリンターを始めとする各種設備の備わったエステ専用ラボが存在しており、そこは、アマテラス艦内の私室とはまた違った意味でエステの 聖域(サンクチュアリ) となっているのであった。

「しっかし、勿体ねえよな。

このジンバニアのM2」

「デュフフ……。

そう仰ると思いまして、すでに修復案は作成してありますぞ。

とはいえ、資材やパーツがないため、惑星レクにて 帝国軍主力M2(ドンナー) のものを流用する形になるでしょうが」

エステがその足を止めたのは、イラコと……笑い方から判断して、おそらくクシナダの副長がそんな会話を交わしたから。

彼らが眺めているのは、頭部を失い横向けにこの倉庫へ寝かされているジンバニアの主力M2――ピノキオであった。

兵站の限界を迎えつつあり、精神力を支えにせねばならないジンバニア王立連合の台所事情もあるのだろう。

製造効率を最大限に追求したドンナーが、五指すら備わっていない万力状のマニピュレーターと、大昔のブラウン管テレビじみた頭部を特徴としているのに対し、こちらは実にヒロイックな姿だ。

隣に立つタイゴンほどではないものの、アスリートじみた均整の取れたシルエットをしており、マニピュレーターも当然ながら五本指。

白を基調に青いラインが入ったカラーリングは、いかにもヒーロー然としている。

これに加えて、タイゴンが引っこ抜いて投げ捨てた頭部はデュアルアイ型の格好良い代物だったのだから、搭乗するパイロットはさぞかし誇らしかったことだろう。

そういえば、ジンバニアのM2パイロットはこの銀河時代に騎士身分として振る舞っているのだから、それもデザインへ大いに関係しているに違いない。

さておき、中破したピノキオを指差しながらの会話は、なかなかの盛り上がりを見せており……。

その内容はといえば、こんなものであった。

「修復案って、やっぱりドンナーの頭部をくっ付けてキメラ化する感じ?

せっかくカッコイイ感じなのに、なんだかダサくなっちまうなあ」

「デュフフ、そのアンバランスさが、むしろ急場しのぎの修理感を増していてよいのですぞ。実際、急場しのぎですからな。

ただ、拙者が用意している案は、ドンナー用の追加兵装として開発されたものの、コストや取り回しの問題から倉庫で眠らされているフルアーマーパッケージを装着するというものです。頭部は新造ですな。

集中砲火すれば一般的な戦艦のシールドすら貫通可能な瞬間火力が売りでして、格闘戦を得意とするイラコ殿のタイゴンに対して、バックスを任せられる機体になるかと」

「まあ、パイロットのシレーネ殿下は捕虜だから、実際は出撃しないんだけどな。

でも、このまま寝かせとくよりは断然いいんじゃね?

それに、装甲の上へさらに鎧を被せるのって、なんつーかこう浪漫あるよね?」

「デュフフ……w

さすがはイラコ殿。分かっておられますな」

カチャカチャカチャカチャとメガネをいじりまくる副長と、そんな彼と楽しそうに語り合うイラコ。

そんな二人の間に――割って入った。

「――凡百の発想」

「え? そう?」

「エステちゃま、そんなにつまらないプランだったでしょうか?」

首を捻るイラコと副長に対し、チッチと指を振りながら宣言する。

「まったくダメ。

この件に関しては、わたしが預かる。

貴重な鹵獲品なのだから、もっと面白おかしく味のあるカスタマイズにしなければならない」

その宣言を受け……。

「まあ……」

「エステちゃまほどのお方が、そう仰られるなら……」

お互いに顔を見合わせながらも、納得してうなずく二人だ。

「せいぜい、楽しみにしておくといい」

それだけ言い残し……。

むふーと鼻息荒くラボへと歩き出すエステであった。

かくして、アマテラスオオカミ・サンダーの変形合体プロセスにおける不具合解消と火力艦ヴェルダンディの給糧艦改装計画に加え、鹵獲したピノキオのカスタマイズ案作成というタスクがエステに加わったのである。

何も問題はない。

バカなイラコのために、諸々の技術面を請け負うのが、エステの日常なのだから。