軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

給糧物資ドラフト会議 前編

時は、給糧艦アマテラスが銀河帝国領内を出発し、随伴のシールド艦クシナダと共にポイント203を目指していたところまで遡る。

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古来より、餡というのは煉り上げるものと言われている。

練り上げる、ではない。

煉り上げる、だ。

普段は銀河の公用語である英語や、あるいは独語や仏語などを使うこの俺であるが、練りと煉りの違いに関しては、和菓子とM2の師――イゾーロ先生から漢字で教わっていた。

漫然とかき混ぜ、練ればいいというものではない。

煉りという漢字に火へんが存在することからも分かる通り、これは、小豆と砂糖と水と火による総合芸術なのだ。

「むうううううん……!」

大きさは、風呂釜ほどもあるか……。

特注の銅釜で火にかけている小豆に、細心の注意でもって、一メートル以上もある大しゃもじを突き入れる。

そして――かき混ぜ。

大しゃもじの大きさもあって、一見すると、ボートのオールを漕ぐがごとき豪快な行為。

だが、俺の目は銅釜全体の温度と煮られる小豆の状態を、的確に見極めていた。

なぜ、このように大がかりな装置を使って、餡煉りに挑むのか?

それは、作業の効率化を図っていることだけが理由ではない。

多くの煮込み料理がそうであるように、餡もまた、多量に煮込むことでその味を大幅に増すのだ。

もちろん、ただでさえ焦げやすい小豆を大量に煮込むわけだから、その製作難易度はぐんと跳ね上がる。

その無理を可能とするのが――職人芸!

俺が師から受け継ぎし技だ! なお、M2の操縦はついでに教えてくれた。

「ふううううう……!」

それにしても――熱い。

銅釜を熱している火は決して強くないのだが、中で煮ている小豆に籠もった熱で、この身が焼かれそうだ。

あるいは、小豆から餡へと昇華されつつある窯の中身へ、俺が注ぎ込んでいる心の炎に焼かれているのか。

生まれろ、照りよ……。

滑らかになれ、滑らかになれ……。

我が極上の餡でもって、銀河一の羊羹を作り上げてみせようぞ!

ククク……ポイント203の兵たち、さぞ喜ぶことであろうな。

絶対に死にたくないし最前線など間違っても行きたくないこの俺だが、それはそれとして、配るための菓子作りには全力を尽くすのだ。

あるいは、ポイント203で俺の羊羹があまりにも人気となり、その話題は銀河を席巻。

敵も味方もイラコ印の羊羹を求めるようになり、愚かな戦争はたちまち終結。

宇宙はラブ&ピースで満ち溢れ、俺は伝説の和菓子職人として歴史に名を残し、後年、ソシャゲで美少女化されるかもしれない。

フ……その時が、楽しみだぜ!

待っていろ! ポイント203!

羊羹王に! 俺はなる!

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「いやあ、ビックリするくらい売れなかったな。

俺の羊羹……」

時は戻り現在。

惑星レクへと向かい航海中のアマテラス会議室において、俺は居並んだ面子に向かってそうこぼした。

それ自体が端末やモニターの役割を果たす多機能円卓に集ったのは、マミヤちゃん、エステ、メケーロ爺ちゃん、モリー婆ちゃん、フェラーリン爺ちゃん、シレーネさんという面子である。

シレーネさんに関しては、暇そうでかわいそうなのと、今回は外部の意見も聞きたい案件なので加わってもらった。

「考えるまでもないこと。

銀河帝国は、ヨーロッパ系の民族が多数を占める国家。

その兵士たちに対して、和菓子がウケるはずがない」

――パリリ。

……と、爽快な音と共に俺の膝でアイス最中を食べるエステが、ツインテールにした銀髪を揺らしながら答えた。

なお、漆黒の軍帽付き改造軍服にフリルミニスカートをまとい、白のニーソックスと編み上げブーツで足元を固めているのはいつも通りだが、おやつ中なのでテディベアは抱いていない。

では、ベアさんがどこにテディしているのかというと、隣の席――本来エステが座る場所に鎮座している。

「おめーが食ってる最中も、和菓子の一種ではあるんだけどな。

原料餅米だぞ? それ」

「その話をすると、抹茶ラテは和としてアリかナシかという議論に発展しかねない。極めて危険。

だから、あまり気にせずスルーするべき」

「……まあ、アイス要素の占める部分かなり大きいしな。

いや、待てよ。

最高のパリパリ感を出すため、都度新しいものを焼いている最中が果たす役割も――いや、よそう。

そもそも、今回の議題は給糧物資の売れ行きに関してだ」

銀河の和菓子を背負う者として抵抗を試みたが、すぐにかぶりを振った。脱線はよくない。

「ところで、売り上げって表現でいいのかね?

別に、金は取っちゃいないが」

「まあ、厳密にはそうなんだけどさ。

国語のお勉強中じゃあるまいし、売り上げでいいんじゃね?

何より通りがいい」

U字剥げの手本みたいに側面へ白髪を残したつなぎ姿の赤鼻爺さん――フェラーリン爺ちゃんに答えた。

何事も、通りのよさは大事だ。

「では、各給糧物資の売れ行きについて、円卓へ表示します」

腰まで伸ばした艷やかな黒髪をなびかせながら、マミヤちゃんが手にしたタブレット端末をいじる。

すると、印象的な翡翠の瞳に映し出されているのと同じデータが、円卓そのものをモニターとして各員の前に表示された。

「一番人気は、アイス最中を始めとする各種のアイスだな。

フレーバーに関しては統一してんのか」

「他には、長く保存できるチョコレートや、焼き立てのクッキーも人気がありますねえ。

長く楽しめるし、クリスマスを思い出せて縁起の良いシュトーレンも喜ばれたようで、焼いた甲斐があるわぁ。

それに、パンも」

頼れる操舵手――メケーロ爺ちゃんが顔の左半分を隠す茶髪を揺らしながらつぶやくと、白髪をお団子結びにしたかわいらしいお婆ちゃん通信士のモリー婆ちゃんもうなずく。

「パン……なるほど、パンか。

あれだけ美味い羊羹がウケないというのは、あたしには理解しがたいが、パンに関しては分かる。

冷凍レーションを基本としているのは、帝国軍も同じであろう?

我が方の事情に照らし合わせれば、なるほど、焼いたばかりの新鮮なパンというものは、何よりのご馳走に思えるな」

一つ結びにした亜麻色の髪と、俺が貸してる黒ジャージのお胸を――特にお胸をダイナミックに揺らしたモデル系の美人パイロットことシレーネさんが、納得を示す。

その瞬間、メケーロ爺ちゃんがまだ残ってる方の目を、かつての異名がごとくサンダーアイさせていたのを俺は見逃さなかったが、しかし、あえて言及せぬ情けが存在した。

「チョコレートやシュトーレン……できれば焼き立てを食べてほしいクッキーも航海中に作り置きできるけど、賞味期限の短いパン類はどうしても抽選になっちまうな。

どう頑張っても、到着三日前くらいからの製造になるし」

「ただ、やらねえ理由はねえだろうな。

効率化を図るなら、ロールパンに一極化しちまうのも手だぜ?

タバコ吸いながら聞いたが、兵たちの中には冷凍レーションのおかずを挟んでロールサンドにする奴もいたらしい」

俺の言葉に、メケーロ爺ちゃんがその時の光景を思い出しながら意見する。

健康を考えるなら百害あって一利もないタバコであるが、喫煙中にコミュニケーションが弾むのは、唯一プラスに受け取ってよいところだろう。

「このアイス最中と同じ。

パンやお米でサンドすると、薄いハム一枚でも味が格段に増すもの。

そして、各自で勝手に味変をしてくれるなら、こちら側でフレーバーを充実させる手間が減る。

メケーロの案は、採用していいと思う」

「うん……やっぱり微妙な顔されたあんパンを始め、チョコサンド、コロッケサンド、焼きそばパンにパニーニ、蒸しパン、デニッシュと、初回ということもあって、少々の迷走を感じる勢いで色々作ったからな。

兵たちの中には惜しむ者もいるだろうが、そこは初回特典ということで。

より多くに行き渡らせるのは、給糧艦の至上命題だ」

エステの言葉を決定打として、決断した。

こういった時、俺は迷うことを楽しんだりせず、さっさと決めてしまう。

何も決定されない会議ほど無駄なものも、この世に存在しないからな。

「品目を絞れば、その分材料のスペースが空きますしね。

アンケート人気の高い品目――人参などをそれだけ追加できそうです」

各自の前に表示されているデータに、アンケート結果を追加しながらマミヤちゃんもうなずく。

そう……。

今回の給糧物資に存在しないことを惜しまれた品、栄光ある第一位はなんと――人参だったのだ。