軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アマテラスオオカミ 2

地球文明時代から言われていることであるが、軍隊というものは、一定数のオタクを内包するものである。

ことに、戦艦クルーというものは、その比率が多くなりがち。

これは言うまでもなく、レーダー、通信、整備、管制などなど、技術系の仕事が多いためだ。

各種タスクへの適性者を選べば、自然と理系オタクの比率も高まるのであった。

だが、皇族最年少エステ・ジーゲル第四皇女の座乗艦クシナダにおけるオタク比率は、いささか常軌を逸していると言えるだろう。

何しろ、オタクでない者がいない。

乗船するクルーは、部署を問わず白衣とメガネが標準装備!

比率としてヨーロッパ系の人種が多いはずの銀河帝国であるというのに、どういうわけか驚異の黒髪率100%を誇る!

笑い方は、全員が全員……「デュフフ」。

一人称は「拙者」であり、語尾は「ぞ」!

一括りにオタクと言っても、明らかにアレな感じの人々が集まっているのだ!

ただし、その仕事ぶりは――確か。

「デュフフ……合体プロトコル起動ですぞ」

「本艦とアマテラス……相対位置同期しましたぞ」

「リアクター出力100%。フレーム稼動開始ですな」

「各部グラビコンシステムのモニタリングは、密に行っていきますぞ」

「デュフフ……いよいよきましたな、この時が」

本来の艦長であるエステ皇女に代わり艦を預かる副長――他のクルーと一切見分けはつかない――が言うと、皆が皆、一斉に眼鏡を持ち上げる。

「デュフフ……我々の夢……」

「すなわち、戦艦同士の合体によって生まれる超巨大スーパーロボットですな」

「そのために、超天才少女であるエステちゃまは、同じ兄弟たちが建造していた一部艦をフレーム構造から改造させていたわけですな」

「デュフフ……我々銀河帝国の技術者は、皆、エステちゃま単推し……。

その号令がかかれば、まして、このように男のロマンをくすぐるものであれば、発注者である他の皇子皇女に黙って基礎構造から改造するくらい、造作もありませぬぞ」

くい、くい、くい、くい、と……。

やたら眼鏡を持ち上げまくりながら、クシナダのブリッジクルーたちが説明的に語り合う。

余談だが、高度にモジュール化された結果、どの艦艇であっても同一なはずの銀河帝国艦船ブリッジであるが、このクシナダだけは様相が大きく異なる。

空いている壁にはペタペタとエステ皇女のタペストリーやポスターが貼られ、各員の席にはやはり皇室公認の各種エステ皇女グッズが飾られているのだ。

そして、 エステ皇女(本人) 不在のキャプテンシートは、そういったグッズで彩られた等身大アクスタ祭壇と化していた。

賢明な読者ならば、もうお気付きであろう。

エステ皇女が、自身の艦ではなくアマテラスに入り浸っている理由の一つ……。

それは、「あの人たち、なんかキモいからヤ」というものなのだ。

救えないのは、それを本人たちに告げると、むしろ身震いして喜ぶことである。

「デュフフフフフ……では、合体開始!」

副長の承認を受けて、クシナダの巨大な船体が鳴動を始めた。

--

「おいおいおい、こりゃあ……。

とんでもねえことになってきたな」

祖父メケーロが驚きのあまり、顔半分を覆っている長い茶髪をまくり上げる。

すると、その下にある稲妻のごとき古傷が露わとなったのだが……。

完全に左目を潰しているその傷が、失われた感覚器の代わりに見開かれているかのように錯覚した。

まさに、驚天動地と言っていい。

右舷側のサブモニターに映されたシールド艦クシナダが、見る見るそのシルエットを変えているのだ。

まずは、船体……。

これが、船底部の中心を軸に、内側へ折り畳まれ始める。

同時に、シールド艦最大の特徴である両舷部の巨大マシンアームがやや上方に持ち上がった。

これは、まさしく胴体であり……両腕。

マシンアームに装着されている巨大な電磁シールドと合わせて、ロボットの上半身が形成されたのだ。

そして、変形しているのはクシナダのみではない。

「あらあら……。

皆さん、何かあった時は、手近な対ショック設備へ掴まってくださいね。

このアマテラスは今、変形している大きなロボットの下半身になっています」

こんな時でも冷静なモリーさんが、全艦放送で伝えた通り……。

この給糧艦アマテラスもまた、変形シークエンスを開始していたのである。

「す、スラスターにこんな機構が……」

左舷側サブモニターでモニタリングされているアマテラスの様子を見たマミヤは、それを見て呆然とつぶやく。

巨大な箱型の船体に、二基備わったメインスラスター……。

それがなんと、船体両舷を構成するパーツ共々、艦首部分を起点に180度回転したのだ。

そうすると、本来スラスターへのエネルギーバイパスでしかないはずのパーツが、実は人型の太ももを模していたことが分かる。

そしてもちろん、スラスターは両脚部。

通常の航行姿勢から前後逆の形となった本体部は、股間部となった。

「ほ、本当に下半身となった……。

怖いのは、これだけ大幅な変形をしているというのに、モニタリングしてないと、内部では全く実感できないことですね……」

「当然。

グラビコンシステムの維持には、細心の注意を払って設計した。

このアマテラスには、鶏さんも牛さんも乗っている。

ひっくり返って怪我でもしたら、かわいそう」

むふー……と鼻息を吐き出しながら、エステ皇女が銀髪のツインテールを揺らす。

お人形のように綺麗なお姫様は、普段、お人形そのものであるかのように、感情を顔へ出さない。

だが、これはマミヤであっても、少し得意げにしているのだと分かった。

そんな姿が、なんとも言えずかわいらしく――アガる!

「では、いよいよドッキング。

モリーお婆ちゃん。

合体完了したら、この名前を皆で叫ぶようにしてほしい。

様式美は……大事」

「はいはい、承りましたよ。

全艦の皆さん、あたしからお願いがあります。

合図をしたら今から言う名前を――」

エステ皇女が、テディベア型端末を通してメインモニターの片隅へ表示させた名前……。

それをモリーさんが通達している間、ついに合体が行われた。

上半身に変形した――シールド艦クシナダ。

下半身に変形した――給糧艦アマテラス。

両者が、ガイドレーザーに従い接触しようとしているのだ。

「へっへ……こいつぁ、面白え!

見ていな!

電磁シールドの火花一つ出さずに、ドッキングさせてやるぜ!」

言いながら、コントロールを得たらしい祖父が巧みなステアリング捌きを見せた。

こういう時、祖父メケーロは……かつて伝説的な働きをした傭兵は、有言実行の男だ。

クシナダ側の方は、それがお約束と言わんばかりにお構いなしの加速で突っ込んでくる。

それに対し、祖父は完璧な操舵技術で相対速度を合わせ、宣言通りシールドの干渉一つない完璧なドッキングを果たしたのであった。

これだけ巨大な艦船同士がイレギュラーな合体をしているというのに、通常の宇宙港ドッキングであるかのような鮮やかさ……!

「最後に頭部を飛び出させて完成。

いるかいらないかの問題じゃない。

頭部のないロボットなんて、格好よくない」

言いながらエステ皇女がテディベア型端末をいじると、モニタリングされている上半身側の頂点から、それが突き出す。

ツインアイを始め、各種センサーが備わったロボットの――頭部。

マスクを着用した人間を思わせるデザインには、確かなヒロイックさがあった。

「クシナダとアマテラスのリアクター同期よし。

じゃあ、お決まりのやつをやる。

セーの……」

人生を充実させるコツは、こういった時、ノリよく振る舞うこと。

だから、マミヤもまた、アガッたテンションのままにその名を叫んだのである。

「「「「完成! アマテラスオオカミ――サンダー!」」」」

合体完了した超巨大ロボットが、右の電磁シールド付きアームを突き出した。

すると、機体各所から、余剰エネルギーがスパークとなって排出されたのである。