軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75話 勇者の計算外その11

目が覚めると、僕は逆さまで枝に引っかかっていた。

動けば顔面から地面へと落ちる。

「ぺっ、ぺっ、トールめ」

起き上がれば、腹部に激しい痛みがあった。

グレイフィールドの街を襲ったのはいいが、偶然にもトールがいたことで、手痛い反撃をもらってしまった。

おかしい。あいつはレベル20台のお荷物だったはずなのに。

どうやってあそこまで強くなれたんだ。

もしかして僕の知らないレベルアップ法でもあるのだろうか。

ちくしょう、トールごときにやられるなんて。

腹立たしさこの上ない。憤死してしまいそうだ。

「そうだ、バーズウェル!」

リサにもらった黒いワイバーン。

急いで森を出れば、バーズウェルが横たわっていた。

大丈夫だ。息はある。

こいつがいないと城に戻れないからな。

「起きろ!」

「……グルゥ?」

「城に戻るぞ」

のそりと起き上がり、体をかがめる。

遠くでは未だ夜の闇の中で炎をあげる街があった。

宣戦布告は一応だが成功といえる。

僕を虚仮にした奴らはさぞ動揺することだろう。

ばさっ。

バーズウェルが飛び立つ。

謁見の間にてリサが深々と僕に頭を垂れた。

「宣戦布告の件、見事だったわ。ヒューマン共はさぞ恐怖に震えたことでしょう」

「そんなことはもういいんだよ。それよりもっと強くなる方法はないのか。このままじゃ、トールに勝てないだろ」

「じゃあ、さらなる魔装武具を用意するわね」

将軍の一人、デネブが漆黒の鎧を部屋へ運び込む。

それを見てゾッとした。

剣の比じゃないヤバさを感じ取ったのだ。

そこにあるだけで空気がよどむ。

邪気、とでも言えばいいのだろうか。

ドロドロとした怨念をそのまま鎧にしたような異様な物体。

「これは過去、三名しか身につけることができなかった。呪われた武具よ。強力すぎて封印されていたのだけれど、剣に認められた貴方なら必ず手に入れられるわ」

「それを身につければどれだけ強化されるんだ?」

「記録では五割までレベルを上げることができるそうよ。ただ、これに関しては力を解放する度に、激痛が走るらしいけど」

リサは笑顔のまま「どう?」と返答を待つ。

完全に失敗作じゃないか。

そんな物を僕に着けろだと、冗談じゃない。

でも、五割……魔剣と合わせると九割も底上げされる。

あれから僕は魔物を殺しまくってレベルを100にまで上げることができた。

今なら190まで上昇させることができる。

トールのレベルが200前後だと仮定すれば、この数字はかなり大きい。

無視できないほどだ。

「気が変わったよ。着ける」

「いい返事ね。心配しないで、これに関してはそこそこの激痛に耐えるだけで、所有できるそうだから」

「どこへ連れて行くんだ!?」

「ここだと暴れちゃうでしょ」

リサは寝室に連れて行き、僕をベッドに縛り付けた。

「それじゃあ始めるわね」

「ひぃ!?」

リサの持つガントレットの口から触手が出ていた。

チラリと見えたその中は、うぞうぞとなにかがうごめいている。

がぽり。ガントレットが腕にはめられた。

「ひぎゃぁぁあああああっ!!」

気持ち悪い!

なんだこれなんだこれ!!

ぬめぬめしてて、ぐじゅぐじゅしてて、絡みついてくる。

「あらあら、ずいぶんと気に入られたみたいね。もしかして相性がいいのかしら。五割といわず六、七割はいけそうね。ふふっ」

「ひぎゃぁぁあああああっ!!」

腕から激痛が走る。

まるで腕を切られたような痛み。

「次は足」

「やめ、やめてくれ!」

「頑張ってセイン。勇者でしょ」

「ぎゃぁぁああああああっ!!」

足をあの気持ち悪い感触と激痛が襲う。

許して、もう無理。

耐えられない。

「あらあらあら、漏らしちゃったの? さすがはウンコ勇者ね、ぶふっ」

「魔王様、次の防具を」

「そうね。頑張って続行しましょうか」

リサが何かを言っているようだったが、はっきり理解できなかった。

早く終わって欲しい。

それだけしか考えられない。

「はい、終わり。四人目の誕生ね」

「はぁ……はぁ……」

朦朧とする中で右手を見る。

そこには漆黒のガントレットがあった。

僕は鎧を手に入れたのだ。

幸いなことにこの鎧には兜がなかったので、あの気持ち悪いものを顔で受け止めることはなかった。

ベッドからゆっくりと立ち上がり、腕や足を動かしてみる。

まるで自分の肉体の一部のような感覚だ。

それでいて恐ろしく軽い。

「さ、セイン。鎧を発動させてみて」

「今からか?」

「痛みに鈍感な内になれておかないと」

「……それもそうだな」

鎧の力を解放する。

思ったよりも痛みはなかった。

最初はびりびりする程度。

魔剣の力も解放し、レベルは……210。

七割も上昇している。

素晴らしい。これこそ僕が望んでいた力だ。

「くっ!?」

一分が経過したところで痛みが増す。

一分ごとに痛みは強化され、五分ほどで歯を食いしばらなければ耐えられないほどになっていた。

鎧の力を閉じる。

苦しさから解放され、床に両手を突いてしまった。

リミットは五分。

それ以上はまともに戦えない。

だが、いいさ。トールを殺せるならこの程度のこと受け入れてやる。

「頑張ったわねセイン。少し休んだら、行ってもらいたいところがあるの。いいかしら」

「それは僕にメリットがあるのか」

「もちろんよ。トールに関係するって言えば分かりやすいかしら」

「トール!」

その名を聞いて怒りが燃えさかる。

あいつは僕が殺す。

その為にここまでしたんだ。

震える足でなんとか立ち上がる。

リサは笑顔で拍手した。

「すごいすごい、あの状態からよく立てたわね! もう、はいはいしかできないかと思ったわ!」

「この僕を馬鹿にしているのか」

「冗談よ。冗談」

なんとかベッドへと座る。

そのやってもらいたいことの説明を求めた。

「そこまで難しい話じゃないの。恐らくすでにトール達はこちらへ向かっているわ。そうなると、ヒューマン側は守りが薄くなる。そこでセインにはバルセイユを奇襲してもらい、国王を始末してもらいたいのよ」

「どうしてバルセイユなんだ」

「一番守りが緩いからよ。あの国、今は人手不足でワイバーン部隊がいないでしょ」

僕は思わずニヤリとした。

そう言えばそうだった。

現在のバルセイユはワイバーン部隊がいなかったのだったな。

理由は簡単で、ワイバーン部隊を維持する金がなかったからだ。

ワイバーンもそれに付随する道具も維持費が高額だ。

しかもあの愚王は、そこにつぎ込むべき金を密かに奴隷の購入にあてている。

それに、たとえワイバーン部隊がいようとも、そこで生まれ育った僕には、いくらでも突ける穴が見えていた。

いいねぇ、あの王様にはずいぶんと馬鹿にされたんだ。

泣きわめく姿が今から楽しみだよ。

燃えさかるバルセイユの王都。

もうもうと煙が昇る宮殿へ、僕とバーズウェルは突っ込んだ。

「ひぃいい!?」

「しばらくぶりだね国王」

謁見の間で僕はワイバーンから下りる。

バルセイユ王は玉座で怯えた表情をしていた。

その傍らにはあのハイエルフの姿がある。

「そ、そなたはセイン!?」

「覚えていてくれて嬉しいよ」

「よくおめおめと顔を出せたな! 其方のおかげで、余は厳しい立場に立たされたのだぞ! 今すぐ地べたに這いつくばって謝罪をしろ!」

「はぁ? 地べたに這いつくばるのは、お前だろ!」

「へぎっ!?」

頭を掴んで床にたたきつける。

ははっ、あぶないあぶない。

力加減を間違えて殺すところだった。

「陛下!」

「くせ者め!」

「邪魔しないでくれるかな」

駆けつけた騎士を斬り捨てる。

今はお楽しみの時間なんだ。

「そうだ、王様。今からいいものを見せてあげるよ」

「やめろ! それは余の!」

ハイエルフを抱き寄せキスをする。

いいよ、他人の物を手に入れるこの瞬間。

ゾクゾクしてたまらない。

でも、このくらいで音をあげないでもらいたいな。

もっと楽しい光景を見せてやるからさ。