軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32話 勇者の計算外その5

聖剣を抜けなかった僕は、祖国バルセイユへと戻った。

静まりかえる謁見の間。

僕は頭を垂れたまま悔しさに歯噛みする。

「もう一度聞く。其方は聖武具を抜けなかったと申すのか」

「はい。残念ながら」

「それもアルマンの聖武具を何者かに先に取られ、何一つ成果も出さずおめおめとこの国へ舞い戻ってきたと?」

「…………はい」

大きな溜め息が聞こえた。

失望が多分に含まれているのは明白。

期待が大きかっただけに国王の落胆は大きい。

怒りで体が震える。

こうなったのは手柄を横取りし続けた漫遊旅団が原因だ。

本来なら飽きるほど賞賛を浴びているはずだった。

だが、現実はこうだ。

僕は下げたくもない頭を弱くて愚かなクソ共に下げている。

できるなら今すぐ目の前にいる奴らを殺したい。

「陛下、もう一度だけチャンスをいただけませんか。もしかするとグリジットの聖武具とは相性が悪かっただけかもしれません」

「ふむ、それはあり得るだろうな。過去にも聖剣を抜けなかった者が別の場所の聖剣を抜いたことがある。よかろう、貴公には別の聖剣を手に入れてもらう。最も近いのは……宰相」

「は、ノーザスタルでございます」

それを聞いて顔が引きつる。

ノーザスタルと言えば、ここよりも気温と湿度が高いど田舎の小国じゃないか。

おまけにバルセイユと反目する大国の傘下にある。

今は魔王が出現して協力的ではあるが、恐らくいい顔はしないだろう。

しかし、この話を蹴るわけにはいかない。

王室からの信頼が揺らいでいる現在、まずやるべきなのは挽回することだ。

なにがなんでも聖剣を手に入れ勇者として箔を付ける。

「加えて其方にはしっかり活躍してもらわねばならん。聞くところによるとそこでは魔族が潜伏して手を焼いているそうだ。貴公にはその討伐も命じる」

「かしこまりました」

僕は大人しく了承するしかなかった。

バルセイユを南下。

ようやくノーザスタルへと到着した。

本当はトールの無様な姿を拝んでから旅に出たかったのだが、そうも言っていられない状況だったのだ。

ここで挽回しなければ史上最も役に立たない勇者となってしまう。

そうなれば魔王を倒しても、手に入るものはごく僅かとなるだろう。

僕の魔眼も万能ではない。

対象は異性のみで、僕よりもレベルが低いことが条件だ。

さらに解呪薬を使われれば効果は失われ、その対象者には二度とかけられなくなる。

おまけに時間が経てばたつほど効果も薄れて行くのだ。

素晴らしい力ではあるが面倒も多い。

そして、この誘惑の魔眼は禁忌のスキルに指定されている。

言うなれば所持しているだけで討伐対象になる危うい能力だ。

もし僕に隠蔽スキルがなければ、今頃処刑台に送られていたかもしれない。

「あづい、セインあづいよ」

「五月蠅いな。そんなこと分かりきってるだろ」

「バルセイユと比べて薄着の方が多いですね」

「あそこでセインが聖剣を抜けてればよかったのよ。はぁ」

リサの溜め息交じりの発言にこめかみがピクピクした。

我が儘ばかりの女共にストレスが膨らむばかり。

最近はイライラしすぎてまともに抱くこともできていない。

やっぱりトールを追い出したのは早まったか。

あいつはお荷物だったが、率先して世話を焼いてくれていた。時には相談にも乗るなどパーティーのバランスを上手く保ってくれていたんだ。それに何より、僕が優越感を抱ける最高の相棒だった。

こんなことになるなら聖剣を手に入れ、大きな手柄をあげてから追い出すんだったな。

ごとごと馬車が揺れる。

「おい御者、神殿まではどのくらいだ」

「あと少しってところでしょうか」

長い。これなら歩いた方が早いじゃないか。

誰だ馬車で行こうと言い出した奴は。

くそっ、僕だった。

「お客さん、街に入りますが買う物はありますかい?」

「ちょうどいいじゃん! 飯にしようぜ!」

大食らいのネイが復活して騒ぎ出す。

ぎゃーぎゃー五月蠅い女だ。

近くにいるだけで気が滅入る。

馬車は街に入り適当な場所で停車した。

「あそことか美味そうじゃん!」

「どうするセイン?」

「別にいいんじゃないかな。腹に入ればどれでも同じだろうし」

「あら、変った匂いの店ですね」

食事処に入り注文する。

テーブルに並んだのは見たこともない料理ばかりだった。

油で揚げられた虫。

鋭い牙を生やした川魚。

三本指の何かの腕の丸焼き。

赤いスープに浮いた目玉。

こ、これが、ノーザスタルの料理なのか?

「意外にいけるじゃん。この虫さくさくしてる」

「うえぇ」

ネイは何でも食う奴だったな。

虫をむしゃむしゃする姿を見ると、もう抱ける気がしない。

こいつは近いうちに捨てよう。決めた。

ソアラとリサはパンとサラダを食っている。

僕も無難にそっちにすれば良かった。

「なんだよセイン、自分で頼んでおいて食わないのかよ」

「うぐっ」

し、しかたがない、ここは我慢をして食ってやろう。

僕は歴史に名を刻む勇者だ。

この程度で物怖じなどするはずがない。

「あれがノーザスタルの神殿ね」

「まだ聖剣はあるでしょうか」

「ふぅうう、ふぅううう」

「どうしたんだセイン?」

「……今は話しかけるな」

先ほどから腹がぎゅぎゅるしている。

気を抜けば全てが一気に飛び出してしまいそうだ。

だが、ここで用を足しに行くわけには行かない。

ようやくここまで来たんだ。すぐに確認したい。

僕が聖剣を抜けるかどうか。

いや、抜けるはずだ。

今回はそんな気がするのだ。

扉を開けるために手を突く。

…………。

「どうしたのセイン?」

「早く開けましょう」

「なんかぷるぷるしてね」

静かにしろ。

僕は今、精神を集中しているんだ。

力の配分を誤れば大惨事となる。

よし、これだ。

お尻に七割、両手で三割でいこう。

ゴゴゴゴゴゴ。

無事に扉は開く。

力の配分も正解だった。

「ふぅううううううっ」

いける、このままいけるぞ。

とにかく聖剣を抜いたら即離脱だ。

通路を進み部屋へと出る。

そこには台座に刺さった聖剣があった。

「さ、行きましょうセイン」

「今度こそ抜けよ」

「貴方ならできるわ。勇者だもの」

三人からの声援を受けて僕は、ゆっくりと静かに歩みを進める。

だ、台座までが遠い……。

油断すると出てしまいそうだ。

耐えろ。勇者である僕が漏らすわけにはいかない。

あと少しだけだ。

あと少しだけ耐えればこの苦しみから解放される。

なんとか台座に到着し、柄を掴んだ。

「っつ!?」

やばい、柄を握ったことで力みやすくなった。

これでは九割の力がお尻に持って行かれる。

果たして一割で剣を抜けるのだろうか。

いや、抜くしかない。一割で抜くんだ。

「ふぬぬぬ」

「なにしてんだよ。早くずばって抜けって」

なんでお前は同じものを食べて平然としているんだ。

僕は腹を壊しているというのに、これはあまりにも不公平じゃないか。

それともあれか、こいつは内臓までバカなのか。

「なにかおかしくないですか? セインの額に大量の汗が……」

「そうね。心なしか顔も青ざめてるようだし」

「調子が悪いなら早く言えよ。じゃあアタシが手伝ってやる」

「ば、ばか、やめ――!!」

ネイが僕の腕を掴む。

そして、強引に剣を引き抜かせた。

「あ……」

聖剣が抜けると同時に大量の何かも抜け出ていった。

この瞬間だけは最高に気持ちが良い。

頭が真っ白になる。

ああああああああああああ。