軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31話 フェアリーの隠れ里2

フェアリー達の先導で森を歩く。

俺の少し前には、落ち込んだ様子のフラウが漂うように飛んでいた。

「少し怒りすぎたか」

「いいえ、むしろ優しくし過ぎです。そもそもあの子が離れなければ、あのようなことにもならなかったのですから」

カエデはご立腹だ。

眉間に皺が寄り怒りのオーラをにじませていた。

カエデはああ言うが、俺はフラウの気持ちも理解できる。

仲間の前で良いところを見せたい、早く信頼されるようになりたい、パーティーに加わったばかりの奴ならそう考えて当然だ。

俺だってセインに誘われた時はそうだったからな。

誰だってお荷物になんかなりたくないんだ。

「フラウも反省しているんだ、あまり責めないでやってくれ。誰だって最初は失敗するものだろ。それとも俺達はフォローできないくらい弱いのか?」

「おっしゃる通りです……申し訳ございません!」

「謝らなくていいさ。よしよし」

「ごしゅじんさま~」

頭を撫でてやるとカエデの目がうるうるする。

俺のことを思って怒ってくれていたのだろう。

その気持ちだけで充分だ。

可愛い奴隷にはいつも笑顔でいてもらいたいからな。

「今回は失敗したけど、次こそ役目を全うするわ!」

「きゅう」

パン太に乗ったフラウが拳を握って宣言する。

それからぐいっ、頭を突き出した。

「だからフラウにもなでなでして!」

「きゅう!」

「強引だな」

右手を軽く出すとフラウは頭を擦り付けてくる。

パン太も『自分も自分も』とばかりに体を右手に擦り付けてきた。

こう言ってはなんだが、子犬みたいで可愛いな。

すすっ、真上から老年の男性フェアリーが下りてくる。

「もう間もなく里に到着ですじゃ」

「案内してくれてありがとう」

「いえいえ、偉大なる御方を我が里へお招きできるなど光栄の極みですじゃ。ぜひフェアリーの楽園でごゆるりとお過ごしくだされ」

一団は急に停止する。

そこは巨石の並んだ場所だった。

石には見慣れない文字が刻まれている。

それ以外はどう見ても普通の森の中。

……違う、違和感がある。

俺の中のグランドシーフが不自然さを捉えていた。

なにがおかしいかは不明。

けど、この先は今まで通ってきた道とは明らかに違う。

すっ。

岩を越えたフェアリーが消える。

「え!? おい、消えたぞ!??」

「あれは結界を越えたからですじゃ」

老年の男性も岩の先へと消える。

恐る恐る俺も結界とやらを越えてみた。

「おおおっ」

一面の花畑に視界が埋め尽くされる。

風が吹き花びらが舞う。

振り返れば巨石を境に森が途切れていた。

結界とはこういうことか。

幻で土地を隠しているのだろう。

フェアリーが見つからない理由が理解できた。

彼らの住処はそれほど広いわけではなく、色とりどりの花畑の中央に村らしき建造物群が存在していた。

村へと続く道にはきちんと柵が設けられ、内側では牛が草を食んでいる。

至ってヒューマンと変らない暮らしがここにはあるようだった。

「ささ、粗茶ですが」

「ありがとう」

老年の男性にお茶を出され一口啜る。

強い花の香りがして冷たくて美味しい。

紅茶とは違う独特の風味があった。

「喜んでもらえたようですな」

聞けば彼はこの里の長らしい。

そして、フラウの祖父なのだとか。

視線を彼の隣に向ける。

そこには未だ白目を剥いたままのパパウがいた。

「いつまで寝とるんじゃ! パパウ!」

「あげっ」

長が容赦なく顔面を叩く。

一度では意識が戻らず何度も何度も叩いた。

「手荒に起こすのは良くないと思うのだが……」

「ご心配無用! こやつは頑丈だけがとりえですからな!」

ばしっ、ばしっ、ばしっ。

「はっ!?」

「起きたかパパウ」

「ここはっ!?」

「里じゃ」

俺を見るなりパパウは剣を抜く。

が、フラウが一瞬にしてハンマーで剣を砕き、長が斧を首筋に添えた。

硬直するパパウの額から汗がしたたり落ちる。

だんだん可哀想に思えてきた。

「親父、フラウ! なぜヒューマンを庇う!?」

「愚か者め。この御方は偉大なる種族のトール様であるぞ」

「お父さんには失望したわ。主様に二度も刃を向けようとするなんて」

「偉大なる……種族だと?」

パパウが目にも留まらぬ速さで平伏する。

その一瞬だけはレベル300の俺の目でも追えなかった。

「申し訳ございませんっ! なにとぞお許しを!」

「別に怒ってないさ。いいから頭を上げてくれ」

「まことに、まことに慈悲深き御心に感謝いたします!」

やっぱり居心地が悪いな。

そんなに大した人間じゃないんだが。

たまたまレベルアップして、たまたま種族が龍人になっただけの男なんだぞ。

「「反省しろ、ぺっ」」

「うううう」

長とフラウがパパウに唾を吐く。

うん……パパウとはできるだけ仲良くしよう。

「さて、仕切り直して本題を始めましょうかの」

パパウは長の横で暗いオーラを放ちながら無言。

非常にやりづらいのだが、長もフラウも気にした様子はない。

ひとまずその本題とやらを聞くとしよう。

「わが里は現在、危機的状況にありまする。里の者ではどうにもできず、やむを得ず外に助けを求めることにしましたのじゃ」

「でもヒューマンは嫌いなんだろ」

「その通りですじゃ。そこで我々は比較的交流のあるエルフに声をかけたのですが、彼らは『アレは古代種でなければ止められない』などという始末で」

長はフラウにアイコンタクトを送る。

頷いた彼女は話し始めた。

「で、フラウが偉大なる種族を探しに外へ出たの。一年以上探し回ったわ。もう見つからないかもって思い始めていたところで、運悪くヒューマンに捕まって売り飛ばされたの。それがまさか幸運だったなんてほんと驚いた」

そういった経緯があったのか。

俺があの日あの場所へ行かなかったら出会いはなかった。

結局、ロアーヌ伯爵がお勧めしていた出品物は分からなかったが、彼が背中を押してくれなければフラウはここにはいなかったのだ。

しかし、引っかかる点が一つある。

「なぜフラウなんだ。なにか理由が?」

「簡単な話、フラウは偉大なる種族に祈りを届けることができる巫女なのですじゃ。祈りの声が聞こえると言うことは、すなわちその者は龍人。孫であるフラウ以外に適任はおりませんでした」

フラウが平らな胸を張る。

その顔はやり遂げてやったぞと言いたそうなドヤ顔だ。

説明を聞いて腑に落ちた。

あの祈りの声は巫女とやらの特殊な能力だったのか。

てっきりフェアリー族の祈りはみんな聞こえるとばかり思い込んでいたよ。

「で、その危機的状況とは?」

「直接その目で見ていただければ話は早いかと」

長は俺達を連れて外へ出る。

ギギギ、ギギギ。

不快な金属のきしむ音が響く。

時折、ミシミシと複数の大木から不穏な音も聞こえた。

「あれがこの里を滅ぼそうとしているものですじゃ」

長が指し示す先には、くすんだ色の金属製の人形があった。

身の丈はおよそ五メートル、各部位はブロックを組み合わせたような感じで、印象としては威圧的で堅牢な金属人形である。

そして、俺はこいつを見たことがあった。

「ゴーレムじゃないか」

「ヒューマンが作るようなただのゴーレムではありませぬぞ。これは偉大なる種族が残された、オリジナルゴーレム、力も防御力も桁外れの怪物ですじゃ」

オリジナルゴーレムは、太いツタで手足を何重にも縛られ周囲の大木に繋がれている。

奴が藻掻く度に木々がミシミシと悲鳴をあげる。

通常、錬金術師が作り出したゴーレムは命令に忠実だ。

人に危害を加えないし、自己判断で命令を書き換えることもない。

このゴーレムはどのような命令を受けて動いているのだろう。

「どこから来たんだこいつは?」

「今までは近くの遺跡で眠っておったのです。それが突然目覚めて、里の者達を襲い始めたのですじゃ。なんとかここに縛り付けたはいいもの、頑丈過ぎて壊すこともできないのが現状でして」

ゴーレムに近づいてみる。

赤く染まった目は俺を見るなり青くなった。

だが、すぐに赤に変化する。

ゴーレムはギギギギ、と音を響かせ微細に震えた。

壊れているらしい。

なんとなくそんな感じがする。

「どうでしょうか偉大なるトール様」

「トールでいいよ」

「とんでもない! 我らが崇める偉大なる種族のトール様を呼び捨てなどと! むしろ我ら全員がフラウのように奴隷となり『主様』とお呼びしたいほど!」

「断じて遠慮する」

カエデがすっと傍に立つ。

「いかがいたしますか?」

「命令を聞かないのなら壊すしかないだろ」

聖剣を抜く。

いけるだろうか?

相手は聖剣と同じ神代の物。

もしかしたら斬れないかもしれない。

ええい、面倒だ。やる前からごちゃごちゃ考えるのは俺の性分じゃない。

後のことはやってみて考えればいい。

「はっ!」

大剣をゴーレムの真下から切り上げる。

刃はトマトを切るように抵抗もなく通り抜けた。

どすんっ。

オリジナルゴーレムは真っ二つとなって地面に倒れる。

うん……レベル300でしたね、俺。