軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】バルブレアの驚愕

【バルブレア】

今日一日で世界が変わってしまったかのような衝撃を何度も受けた。

そのどれもがアオイという魔術師に起因するのだが、当の本人は全く気にした様子も無い。

ただ淡々と魔法陣についての知識を語り、無詠唱で魔法陣を描き直してしまった。

それも、見たことの無い魔術によって、だ。

さらに、魔法陣より発現した炎の柱だ。我が学院にも火の上級教員がいたことはあったが、それでもあんな火柱は見たことがない。

そして、それをあっさりと消し去ってしまったアオイの魔術。

このどれもが、どの国からしても最重要機密に値するような恐ろしく高度な魔術である。

どれか一つでも公開してもらえるなら、私はメイプルリーフの研究成果の一部など渡してしまって良いと思っている。

「それで、メイプルリーフの魔術や人体の知識は教えてもらえますか?」

色々と考えている私に、アオイが首を傾げながらそんなことを聞いてきた。その態度は至って冷静であり、今の大魔術がアオイにとって大きなことでは無いと暗に伝えている。

そのギャップに、私は思わず声を出して笑ってしまった。

「くっ、はっはっは……! これだけのものを披露されて、こちらは何も出さないなどとは言えんな。必要なものを言ってくれたら私が一つずつ開示しようじゃないか」

「ありがとうございます」

私が譲歩するとアオイは素直に謝辞を述べた。それに笑みを返し、体ごとアオイに向き直る。

「ただし、そちらも魔法陣の知識をこちらに提供してもらいたい。あぁ、後は今見た無詠唱の魔術も教えてもらいたいが、どうかな?」

まるで当然のようにそう告げてみた。普通ならば、交渉にもならない交渉だ。

先にあちらは魔法陣で差を見せつけてきたのだ。ならば、既に何の情報を交換するのか。それを決める主導権はアオイが握っている。

だから、アオイからすれば、先にメイプルリーフ側の機密を公開しろ、とでも言えば良い。悲しいが、メイプルリーフの魔法陣の知識はフィディック学院に完全に負けているのだから、こちらは交渉を主張出来る立場ではないのだ。

せめて癒しの魔術や人体の知識に関してはこちらの方が上であるという自信を見せて、少しでもアオイから知識を引き出したいというのが正直な心情だ。

そんな私の目論見をどう受け取ったのか。アオイは無表情に頷く。

「構いません。では、今回は時間が限られている為、詠唱省略と魔法陣について解説します」

と、アオイはあっさりと交渉に応じると言ってきた。

それに、私は毒気を抜かれて目を瞬かせる。

「……それは有難いが、良いのか?」

思わず、そんな言葉が出てしまった。すると、今度はアオイの方が目を瞬かせ、ようやく意味が分かったように口の端を少し上げる。

「大丈夫です。私の目的は、世界の魔術水準を引き上げることですから」

「魔術水準……」

そう言われて、言葉の意味を反芻するように口の中で繰り返した。

個人の魔術研究の為、という理由かと思っていたが、どうやら違うらしい。ならば、魔術狂いと言われているクラウン・ウィンザーとも完全に別種の思想だ。

「……では、他にも各国を巡り、魔術の知識や技術を学び、教えるつもりか?」

そう口にしてから、私は愚問かと思い直し、それよりも更に重要な事項を思い出して質問し直す。

「いや、待て……アオイ殿。このメイプルリーフで何ヵ国目だ? その魔法陣や無詠唱の魔術は、まさか他の国の機密ではないのか?」

その質問をしながら、私は自身の想像にゾッとした。

もしも、これが他の大国をメイプルリーフ同様に回った後だったとしたら、既に他の国々から後れをとっていることになる。それも、尋常じゃないほどの技術差だ。

不安になりながらアオイの回答を待つ。

だが、アオイからの返事はあっさりしたものだった。

「いえ、この国が最初です」

「……そうか」

戸惑いながらも返事をする。これまでの会話や雰囲気から推察すると、今のアオイの言葉に嘘は無いだろう。

だが、そうなると次の懸念はフィディック学院だ。

各国からの人的にも、経済的にも支援を受けて運営されている唯一の魔術学院だが、立地としては明確にヴァーテッド王国の領土である。

一つの学院がそんな異常な魔術を保持しているのも問題だが、もしその魔術をヴァーテッド王国が独占していたら大変なことだ。

世界の軍事的な均衡が大きく崩れることとなるのは間違いない。

そこまで考えて、私はアオイの目的を思い出す。

「……アオイ殿。先ほど言っていた目的だが、世界の魔術水準を引き上げると言っていたな。では、こちらがフィディック学院に出向けば、新たな魔術についても教えてもらえるのか?」

確認すると、アオイは首肯を返してきた。

もしそれが本当ならば、フィディック学院に才能のある魔術師を派遣させるべきだろう。

いや、むしろ私が行くべきか。

この歳で留学かとも思うが、それはそれで面白い。学院長をキャメロンに譲る手続きをするとしよう。

私は今後を考えて、無意識に笑みを浮かべていたのだった。