軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

修学旅行?

「急過ぎる……」

「はは、アオイさんらしいといえばアオイさんらしいですけどね……」

片手で頭を抱えるストラスと、苦笑しながらこちらを見るエライザ。学院の中庭に集まってもらい、これまでの経緯を話したのだが、それを聞いた二人はそんな反応を返してきた。そして、驚きを隠せない様子で私たちを見ているシェンリーとコートの二人と、旅行と勘違いしてテンションを上げているアイル、リズ、ベルの三人。

中庭の端にあるテーブルを囲むように置かれた椅子に私とストラス、エライザが腰掛けており、ストラスとエライザの後ろにシェンリー達が並んでいるような構図だ。

「メイプルリーフに……」

複雑な表情で呟くシェンリー。その隣に立っているコートは腕を組んで眉根を寄せる。

「立場上、メイプルリーフに行けるのは有難いですが……」

なんとも言えない雰囲気を出す二人に対して、アイル達は既に旅行に向けて情報交換を開始している。

「メイプルリーフの名産って何だったかな!?」

「シルクや綿製品、高級な紅茶や香辛料も有名だった気がしますね」

「聖教会は建物も城に負けないほど豪華絢爛だと聞きますよ」

盛り上がっているアイルに合わせるように、リズとベルも楽しそうに話に加わっている。その三人を困ったように眺めて、コートが口を開いた。

「魔術学院の交流という側面もあるんだから、遊び気分じゃいけないよ」

そう指摘するとリズとベルはすぐに謝ったが、アイルは不服そうに眉根を寄せている。遊びたい盛りだから当然といえば当然だろう。

しかし、アイル達はコート・ハイランドの貴族である。なかなか普通の子供達のようにはいかないに違いない。

「私が魔術研究室と呼ばれる場所に行っている間は、ストラス先生とエライザ先生に同行してもらって観光しても良いですよ」

「本当!?」

私が了承の言葉を口にすると、アイルが勢いよく振り向いた。輝くような笑顔を眩しく思いながら頷いていると、エライザが苦笑したまま首を傾げる。

「私たちも一緒に行くことは決定してるみたいですね」

エライザがそう呟き、ストラスは無言で顎を引く。

何か文句がありそうだが、二人は優しいので付いてきてくれるだろう。なので、感謝の言葉を先に伝えておく。

「ありがとうございます」

「……やはり、決定しているということか」

何故か、ストラスの顔は更に神妙なものとなった。

「……アオイ先生。気になっていることがあるのですが」

と、そこへコートが難しい表情で声を掛けてくる。

「なんでしょう?」

「日程としては一ヶ月ほどとのことですが、行き帰りを含めると二ヶ月以上掛かるのではないでしょうか。そうすると、私達の講義が……」

困ったようにそんなことを言うコートに、私は安心させるように深く頷いた。

「大丈夫です。移動時間自体は一日だけです」

そう答えると、コートやアイル達だけでなく、ストラス達も揃って首を傾げたのだった。

城門前に集合して、見送りにきたグレン達を振り返る。

「では、一ヶ月だけですが、行って参ります」

そう告げると、グレンが鼻息荒く口を開いた。

「ぬ、ぬぅ……っ! や、やはりワシも同行した方が……!」

興奮した様子で同行を申し出てくるグレンだったが、隣に立つスペイサイドに止められる。

「気になるなら私が代わりに行きますので、学長はこちらに留まってもらって……」

と、スペイサイドも興奮気味にグレンを牽制した。

二人の様子がおかしいと思ったが、よく見たらその周りの者たちも似たようなものだった。

「……その魔術、帰ってきたらヒントだけでも教えていただきたい」

フォア・ペルノ・ローゼズがそう言うと、他の教員達も何度も頷いてみせる。

確かに、飛行の魔術を使用する魔術師は珍しかっただろうか。そう思いながら、私は魔術を行使した。

風を束ねるように意識して、密度を上げていく。最低限の強度を保持した馬車の箱の上部と下部に風を絡ませていき、見えない魔力の翼を生み出した。

五秒ほどかかったが、やがて馬車が重力を失ったようにフワリと浮かび上がる。

その瞬間、馬車内から声が響いた。

「あ、あ、あ、上がったぞ! 本当に上がったな! おぉ! 私は今まさに、歴史的瞬間に……!」

「ぬぅ、まさか、本当に……!?」

叫び、クラウンとアラバータが馬車の窓から顔を出して地面を見た。馬車の中ではストラス達が苦笑いでクラウンとアラバータの背を見ている。ストラスやエライザだけでなく、コートやシェンリーも似たような表情で笑っていた。

「……それでは」

騒がしい面々に軽く頭を下げてから、私は自らにも飛翔魔術を使い、馬車の御者席へと飛び乗った。

「……派手な出立だな」

御者席に座ると、馬車から顔を出したストラスが呆れたようにそう口にする。

「本当ならもっと小型の馬車でも良かったのですが、皆さんが思ったより荷物を持ってましたので……」

返事をすると、ストラスは目を瞬かせてから短く息を吐いた。

「……そういう意味ではなかったのだが、まぁ良い」

ストラスは溜め息混じりにそう呟き、また馬車の中へと戻っていく。

もしかして、アラバータの部下達を置いてきたことだろうか。それに関しては仕方がない。

大きめの船を飛ばすことも考えたが、船が空を飛んでは目立つだろうと判断しただけである。

アラバータから置いていく許可を得ているから問題はない筈だ。

「まぁ、後で聞いてみましょう」

気持ちを切り替えて、私は顔を上げる。空は青く、透き通っていた。もう雲の高さ近くまで上がっており、地平線が少し丸く見える。

「旅行日和ですね」

そう言って、私はそっと口の端を上げた。