作品タイトル不明
立体魔法陣
フェルターの話を聞いてからというもの、オーウェンと一緒にブッシュミルズ皇国の魔術具の歴史を調査していた。
講義は今がちょうど生徒が増えてきたところなので、まだまだ休むわけにはいかない。自分一人の考え方だが、自ら初級魔術の魔法陣を作ることが出来るようになると、魔法陣の基礎という面では十分だと思っている。
なので、最短二か月で初級魔術の魔法陣を三つ描けるようになることが目標だ。難しいとは思うが、しっかり学んでくれればどうにかなるだろう。
そう思って講義の受講者には積極的に魔法陣を教えた。気が付けば、シェンリーとアイル、エライザの三人は一番に初級魔術の魔法陣を三つ覚えることに成功した。三人の覚える速度はかなり早かったが、それぞれコツを掴む過程で共通点を見つけることが出来た。
たとえば、シェンリーは水の魔術が得意なのだが、得意な分多くの魔術を習得しており、魔法陣を学ぶ際にその詠唱で使われる小節を当てはめて覚えていた。
つまり、こういった詠唱が必要な時は、魔法陣ではこの図形と紋様を用いれば良いという風に覚えることができたのだ。詠唱部分を魔法陣に落とし込むという流れを理解すると、苦手な魔術でもそれは応用できるようになる。
その結果、シェンリーは最速で魔法陣三つを習得したのだ。単純に形と使い方を覚えただけでなく、詠唱魔術を当てはめることができるようになった為、次の魔法陣を習得するのも楽になったはずだ。
シェンリーに続き、アイルも同様の流れで得意な風の魔術から魔法陣を覚え、すぐに他の属性にも着手することができた。エライザは土の魔術からだ。シェンリーをモデルケースにして講義を工夫したお陰で、アイルとエライザも同じように魔法陣の習得を早めることができたのだ。
詠唱の言葉をどんな風に分解して考えているか。それはシェンリーのような生徒達の方が柔軟だった。エライザは元から魔法陣の研究をしていたことが生きた形だ。
「む、なるほど」
「おお、出来た!」
フェルターとロックスも魔法陣の理解を深め、二つの魔法陣を習得した。そして、少し遅れてコートやリズ、ベル、ハイラムも魔法陣を習得することが出来た。初級魔術ということもあり、生徒たちの方が馴染みが深いのかもしれない。
「すごい! すぐに魔術が使える!」
「面白いねー」
喜ぶリズとベルは微笑ましかったが、嬉しい誤算が生じる。なんと、コートが魔法陣を二つ習得すると一気にコツを掴んだのだ。
「この円を回る間に魔力が変質しているということですね。各属性のこの紋様を覚えたら、それぞれの属性魔術を覚えることができそうです」
コートがそう言って他の受講者たちの質問に的確に答えることができるようになり、一気に他の受講者たちも魔法陣への理解を深めていった。私とオーウェンにとっては簡単に説明すれば分かるだろうと思っていたところで、多くの受講者が行き詰っていたのだ。これには目から鱗が落ちるような気持ちになった。
改めて簡単な初級魔術の魔法陣を作ってオーウェンと緊急会議をしたが、二人揃って成程と何度も頷く結果になる。
「この部分が難しかったのか。形を丸暗記するだけだと思っていたが、中々難しいな」
「私たちはもう当たり前になっていたので、気にならなかったのでしょう」
「ふむ……とはいえ、これである程度は講義を休んでも良いだろう」
と、オーウェンは無表情で呟く。いつも通り無表情で会話をしているが、どうもブッシュミルズ皇国に行ってみたそうな雰囲気だ。少しだけ落ち着きがなくなっていると思う。
「ブッシュミルズ皇国は飛翔魔術ならば最短で二日で行ける。あのフェルターという生徒を連れていくべきだろうな。後は、可能ならばその時に当時一緒に行動していた人物を探す必要がある」
「……もう行くことになっているみたいだけど、そんなの何日かかるの?」
「まずは一か月程度は調査したいところだな。もし持ち帰ることが出来ればそこで終わりだ。持ち帰れないようなら、追加で一年か二年はブッシュミルズ皇国に残って研究をしたい」
「それは流石に無理ね」
そう告げると、オーウェンは不服そうに眉根を寄せた。
「……むむむ」
オーウェンの不満そうな声を聞きつつ、学院にある地図を確認してブッシュミルズ皇国の位置を確認する。
「……ちょうど、フェルター君の家が一番近いのですね」
そう呟き、ブッシュミルズ皇国の広い領地を手でなぞった。行けるなら行きたいところだが、精々二週間といったところだろう。
さて、どうしたものか。