軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔女の授業準備

学院に来て一ヶ月が経った。

殆どの授業に顔を出し、様々な教員の教え方を見ることが出来た為、そろそろ一人でやってみないかと言われた。

「実践的なものが良いでしょうか。それとも魔術の概念や知識にしましょうか」

そう口にすると、グレンは悩んだ。

梅干しを初めて食べたとでもいうような顔になり、ようやく返事をする。

「……魔術の概念、知識で頼もう……っ!」

「……なぜ、そんな血を吐くような言い方で……」

良く分からないが、グレンからはそのような要望を受けた為、生徒達の魔術への理解を深める授業を行うことにした。

この学院では、魔術の知識や基本は初等部で学ぶらしい。十分な知識を得たか確認テストを各種類の魔術ごとに行い、それらが合格基準に達し、さらに初級魔術を合格ラインまで使うことができるようになったら中等部へと上がる。

その後は、基本的に様々な魔術を実際に発動、応用することを学ぶ。

なので、需要があるかは分からないが、中等部と高等部を対象とした魔術概論を行うことにする。

この学院では、授業は各教員の空いた時間を当てる。つまり、教員が主導で授業の日時を決め、生徒はそのスケジュールに合わせて授業を受けるのだ。

それらは校舎に入ってすぐの壁に掲示されている。左側に初等部、真ん中に中等部、右側に高等部だ。授業名が書かれた銅の板を、マスで分けられた木の板に差し込んでいく形でスケジュールが埋まる。

ちなみに朝二回、昼二回の授業だが、同時に二つの別の授業がある場合もある。

つまり、朝一回目に火の魔術と水の魔術があり、どちらか好きな方を受ける。朝二回目は風の魔術のみ。昼の一回目は土と無属性魔術があり、昼の二回目は癒しの魔術のみ。

といった具合だ。

月曜から日曜まで授業は行われているので、生徒は自らが休む日も選ぶことが出来る。とはいえ、通常は自身の適性がある魔術を集中して学ぶ為、自ずと一週間のスケジュールが決まるだろう。

その中に私が授業の予定を入れて何人が参加してくれるか分からないが、精一杯やってみよう。

最低限、シェンリーは来てくれる気がする。

シェンリーは確か、水の魔術が得意だと言っていただろうか。

そんなことを思いながら校舎の入り口に向かい、一週間の授業の日程を確認する。

昨日、銅の板は作成した。授業名は基礎魔術概論と応用魔術概論である。

中等部は授業が多く、殆どの場所が埋まっている。対して、高等部は一日に二つか三つの授業しか無い。

「……無難に、ライバルがいない時間帯が良いかしら」

そう思い、すっぽり空いた中等部の火曜日午前中一回目と、高等部の水曜日午後二回目と木曜日の午前二回目と午後二回目に授業を入れてみた。

一週間に四回しかないが、中等部と高等部のスケジュールで被りが無いのはこの四箇所しかなかった。

だが、授業数よりも問題は別にある。

授業内容だ。

「……さて、魔術の基本を教えるとなると、やはり魔素と無生物の関係から……いや、それは初等部で習っているかも。それなら、新しい魔術の開発法とか良いかな……」

色々考えながら振り返る。今日は予定が無いから、エライザを探してみようかなどと思って顔をあげると、周りに人が集まっていることに気がついた。

生徒も教師も無く、殆どの人が遠巻きにこちらを見ている。

何事かと思っていると、三人組の女子生徒が恐る恐るこちらに歩いてきた。

「あ、あの! この魔術概論って、アオイ先生の授業ですか!?」

「え? は、はい。そうです。もしかして、興味がおありですか?」

確認すると、三人の女子生徒ははっきりと頷く。

「わ、私達、アオイ先生みたいになりたくて!」

「絶対に授業に参加します!」

「します!」

三人のそんな言葉に、私はどこかホッとしながら答えた。

「分かりました。それでは、火曜日はよろしくお願いします。頑張って良い授業にしてみせますので、皆さんも勉強を頑張ってください」

「はい!」

私の言葉に、三人は元気よく返事をしてくれた。

良かった。これで生徒は最低でも四人は確保出来た筈。

そう思ってその場を離れ、エライザを探しにいく。

時間がぽっかりと空いたので、初等部で習う魔術の基礎知識などを教えてもらおう。そうすれば、自ずと自分が何を教えれば良いかわかる筈である。

寮に戻って探して見たが、エライザはいなかった。授業は無い為、校舎にもいないだろう。

ならば、街の飲食店だろうか。

そう思ってふらりと以前行った高級店に足を伸ばしたが、そこにはいなかった。仕方ないので、一人で高級ランチを食べて満足する。

学院に戻ってエライザの研究室の場所を聞いて見に行ってみたが、そこにもいなかった。

あったのは山積みの鉱石ばかりだ。

仕方なく、近くを通り掛かった教員に尋ねることにした。

「あ、スペイサイド先生」

「う……コーノミナト先生、か」

お互い微妙な顔をしてしまった。これがストラスとかならば気軽に聞けたのだが。

「……何か用ですか」

不貞腐れたような顔でそう言うスペイサイドに、こちらも何とも居心地の悪い気持ちで口を開く。

「エライザさんがどこにいるか、知りませんか?」

尋ねると、スペイサイドは目を一度瞬かせた。そして、少し意外そうに答える。

「裏の広場ですよ。知らなかったのですか?」

そう言われ、眉根を寄せる。

もしかして。

そんな言葉が浮かび、私はスペイサイドにお礼を言うと裏の広場へと向かった。

すると、そこには二人の人影があった。

ストラスとエライザだ。

二人は揃って地面を見て、何か言っている。

「だから、アオイのやり方は……」

「いえ、アオイさんの言う通りにやれば、たしかに勝っていたので……」

二人はどうやら、先日のエライザ対フェルターの戦いについて考察しているようだった。

地面には簡単に頭上から見下ろしたような図が描かれている。

「最初にフェルターが力を強化していたから良かったが、序盤から油断せずに脚力強化で攻めてきていたらどうなった?」

「えっと、脚力強化だったら、砂嵐を作ってから壁や落とし穴を設置、ですね」

「ふぅむ……それも厳しい作戦になるな。俺だったら、自分の周りを竜巻で囲い、破壊力の高い上級魔術の詠唱をするか」

そんなやり取りを耳にして、私は頷く。

「それも正解ですね」

私が答えると、二人はギョッとした顔で振り向いた。

「あ、アオイさん……」

エライザが私の名を呼び、涙ぐむ。

何事かと思ったら、唇を震わせて俯いた。

「ごめんなさい。アオイさんが折角勝てるように作戦を考えてくれたのに……」

悲しそうにそう呟くエライザに私は微笑み、首を左右に振る。

敗戦した当日はもう開き直れたような雰囲気で楽しく夕食を共にしたのだが、やはり引きずっていたのだ。

先輩後輩問わず、様々な人の挫折を見てきた。その中で、挫折をバネに出来る人や、全く気にせずにまた歩き出せる人もいる。しかし、挫折を経験して壁の高さを知り、立ち直れずに折れてしまう人もいる。

エライザならば挫折をバネに出来ると思ってはいるが、もしダメならばそれはそれで仕方がない。

全力でフォローして立ち直らせてみせよう。

「……エライザさんは研究者であり、魔術を教える教師です。実践経験もあり戦いに特化した魔術の使い方をするフェルター君相手では不利なのはわかっていました。ただ、エライザさんの魔術は戦い方次第では互角以上に戦えます」

「やっぱり、私が……」

どんどん落ち込んでいくエライザの肩に手を乗せて、顔を上げさせる。

「剣を学んだからといって、いきなり騎士と戦って勝てるでしょうか? なんでも経験が大事です。フェルター君と戦う前と比べたら、エライザさんは格段に強くなっていますよ。もしも強い魔術師になりたければ、私が良い経験が出来る魔の森を教えます。三ヶ月でフェルター君に圧勝出来るようにしてあげましょう」

そう告げると、エライザは頬を引き攣らせて笑った。

「……え、遠慮しておきます」