作品タイトル不明
【別視点】魔術具対決3
【ロイル】
「ば、馬鹿な……!」
これまで、マーカイがあの魔術具を使って負けたことは無い。馬鹿な貴族が雇った傭兵団を一人で撃退したこともあるのだ。それが全くと言って良いほど相手にならなかった。相手の魔術具との相性もあるとは思うが、それでも圧倒的な差だったのは間違いない。
「そ、そんなわけがあるか……! マーカイが持っていたのは国宝級の魔術具の一つだ! 超一流の魔術師が長時間の詠唱を必要とする魔術を一瞬で発動するような代物だぞ!? どんな手を使った!?」
護衛の一人が怒鳴るようにそう言った。それに対して、マーカイと戦った教員が振り返る。
「見ていなかったのか? 魔術具によるものだから、無詠唱で特級相当の風の魔術が発動した。結果、風の壁が炎を防ぎつつ術者を直撃した。それだけだ」
「そ、それがおかしいと言っているんだ! 最上級の魔術具同士であったとしても、こんなに差が出るはずがないだろう!?」
「そんなことは知らん。そっちの魔術具が格下だっただけだ」
「な、なんだと……!?」
はっきりと格下扱いされて一気にこちらの陣営が色めき立つ。
「ロイル様、次は私が行きます」
怒りに肩を震わせるヘザーが前に出てそう言った。軽装の鎧を好む、元騎士の女だ。持たせた魔術具は大人数を相手にするものではないが、少数を相手にするのに適しているものである。
「……ヘザーか。本気でやれ。負けることは許さんぞ」
「はい!」
返事をして、剣を抜く。ヘザーが剣を抜いたことに対して、赤い髪の少年が敵意を剥き出しにして睨んできた。
「剣を使うのは反則じゃないのか?」
低い声でそう言われて、吹き出すように笑う。
「これは魔術具だ。魔術具の使用は許可したはずだぞ? もう忘れたのか」
「くっ、なんだその口の利き方は……!」
少年は見た目通りの短気らしく、すぐにカッとなって怒り始めた。あれを相手にすれば勝利は固いだろう。そう思って挑発をしようかとしたが、先に金髪の獣人が前に出て口を開いた。
「……剣を使うなら面白そうだ。俺がやる」
獣人が出てくると赤い髪の少年は不服そうな顔をしつつ、溜め息を吐いて一歩退いた。
「フェルター、絶対に勝て。負けることは許さん」
「……ふん、そっくりそのまま返すぞ」
フェルターと呼ばれた獣人は自らの首と肩を軽く回しながら歩いて来る。どう見ても魔術師には見えない体格と雰囲気だ。むしろ、武芸者と言った方がしっくりくる。
剣を携えた鎧の女と、格闘家のような雰囲気の男が歩いていく様子は、とてもではないが魔術具の対決には見えないだろう。ロープで囲まれた空間の中に入り、ヘザーがロープの端と端を結んで結界を形成する。
結界内では二人が左右に分かれて壁を背に立ち、構えた。まるで日々試合を重ねてきた者たちが向き合うように自然に相対している。
そして、どちらともなく、二人は同時に動き出した。
剣を構えて走り出すヘザーと、両手の拳を肩の高さに挙げて地を蹴るフェルター。今のところ、フェルターがなんの魔術具を使うのかも分からない。本来なら相手の手の内を見てから接近すべきだが、ヘザーの場合は逆だ。
相手に剣を使うということしか知られていないのならば、まず一対一で負けることはないだろう。何故なら、ヘザーの魔術具は魔術を切り裂くことが出来るという代物だ。火や土、水、風といった様々な魔術で実験をしたが、どの魔術も易々と切り裂いてみせた。そして、ヘザーは元々が剣術の達人である。
つまり、この魔術具対決という勝負において、ヘザーを一対一で倒すことは至難の業ということだ。対処法があるとしたら、ヘザーが剣で対応できないほどの数の魔術を連続して放つことくらいだろうか。そうとも知らず、フェルターは接近して魔術具を使用しようとしている。
「馬鹿め。魔術具の奥深さを知るが良い」
そう思って笑みを浮かべた直後、フェルターはヘザーに向けて恐ろしい速度で拳を突き出した。
「っ!?」
予想外の行動に、ヘザーの方が驚いて剣を左右に振りながら横っ飛びに移動して攻撃を回避する。一方、フェルターは回避されることを予想していたのか、すぐに軸足に力を入れて体の向きを変えた。
「ふっ!」
鋭く息を吐き、フェルターが姿勢を低くしていたヘザーの頭に向かって拳を振り下ろす。反撃をとれる態勢ではない。地面を転がるようにしてヘザーはフェルターの拳を回避した。
直後、空振りとなったフェルターの拳は地面を殴りつける。
地面が縦に跳ねるような振動を伝え、何かが爆発したかのような激しい音が鳴り響いた。見ると、フェルターが殴った地点を中心に放射状に地割れが起きていた。とんでもない力だ。どう考えても人間に出せるものではない。
「な、なんだ、あの魔術具は!?」
思わず、そう叫んでいた。すると、律儀にアオイがこちらを見ずに答える。
「フェルター君が得意としている身体強化の魔術を魔術具にしたものです。元々、とても強い魔術師ですが、私の魔術具があれば更に強さは倍以上になるでしょう」
「ちょ、ちょっと待て! なら、魔術具を使うのに攻撃手段は素手でぶん殴るってことか!?」
アオイの説明に驚いて聞き返すと、無表情に首肯された。
「そうですね。まぁ、殴る、蹴る、投げるなどもあるかと思いますが……あ、私がこの魔術具を使う時は剣を使いますよ」
何でもないことのようにそう言われたが、こっちはそれどころではない。あの魔術具がただの身体強化だとするならば、ヘザーにとって最悪の相手だと言える。唯一の救いは、相手は素手であるということ。ヘザーは剣術の達人だ。フェルターが身体能力を強化しているとしても互角に戦える筈……。
そう思った矢先、ヘザーが目にも止まらぬ連続の斬撃を放ち、フェルターは素早く後ろに回り込むように移動を始めた。遠目から見ても素早く、無駄のない動きでフェルターに向けて剣を振るうヘザーだったが、フェルターは器用に移動しながら上半身を動かし、全ての剣を避けてしまった。
間違いない。フェルターはヘザーと同じく武術の達人だ。どう考えても魔術師の動きではない。ヘザーは負けじと剣を鋭く振り下ろすが、フェルターは一気に斜めに前進するようにして剣を回避し、拳を腹に叩きこんだ。
結界の壁まで数メートル近く吹き飛ばされて、ヘザーは地面に倒れ込む。鎧を着ているというのに、一撃で終わってしまった。
「……な、何が起きた? まさか、拳で鎧を着たヘザーを?」
信じられずにそう呟き、赤い髪の少年が鼻を鳴らして笑う。
「見たままだ。そんなことも分からないのか?」