作品タイトル不明
【別視点】 とんでもない女
【ロイル】
アオイ・コーノミナト。あのフィディック学院の教員にして、最年少の上級教員だ。その知名度は国内外に関わらず高まっており、今やその辺りの上級貴族よりもよほど発言力を持つ存在だと言えるだろう。
勿論、商人界隈でもその噂は何度も聞いてきた。
曰く、弱冠二十歳前後して特級魔術やオリジナル魔術を多く扱うことができ、あのエルフ達にも認められるような魔術師である、と。
各国の宮廷魔術師達に並ぶ魔術を、二十年程度しか生きていない人間が?
そんなはずはない。どんな天才だろうと、一つの魔術を研究してオリジナル魔術を生み出すのが精一杯だろう。
ならば、答えは一つしかないではないか。
そう、魔術具である。
アオイの噂を聞いた時から、常々思ってきていたことだ。アオイは自分と同等の魔術具蒐集家に違いない。だから、その若さで様々な魔術を扱うことが出来るのだ。
その考えは、実際に会って更に確信を得た。ドラゴンを眠らせる時、また運ぶ時も、すべて無詠唱による魔術の行使だ。挙句に伝説とまでいわれてきた飛行の魔術をなんなく発動させ、あまつさえ全員を空に浮かべたと思ったら、今は飛ぶ鳥すら追い越しながら空を飛んでいる。
ドラゴンは寝たままのようなので完全にアオイだけの力だ。
こんな力が、通常通り研究して生まれたわけがない。間違いなく魔術具の力を使っている。
その考えが正しいことを検証すべく、アオイの一挙一動を観察していたが、どこに魔術具を持っているのかも分からなかった。
「……ロイル様。もうすぐ、コウスキーに到着いたします」
「……なに?」
マイラにそう言われて、思わず身を乗り出して地上を確認した。確かに、見慣れた地形だ。小さな川があり、深い森がある。そして、前方には城塞都市が見え始めていた。
「もう到着か? まだ昼間だぞ」
自分の感覚がおかしいのだろうか。そう思って尋ねると、マイラも唖然とした表情で頷く。
「はは……私も、魔術師としての常識が完全に壊れてしまいました」
渇いた声で笑うマイラを横目に見て、改めてアオイを見る。
「……飛行の魔術か。欲しいな。なんとしても……」
街に到着し、一番北側にある我が館へ案内する。
「あれがこの国での根城だ。このくらいの別荘が他にもカーヴァン王国とコート・ハイランドにある」
「凄い大きさですね。お城みたいです。それで、中庭に降ろしても良いのですか?」
そう聞かれて、首を左右に振った。
「いや、街道に魔獣が現れて困っているんだ。城壁の外側に置きたい。別に狭くても良いから、檻を準備できるか」
そう尋ねると、アオイは空から南北に延びる街道を見下ろした。
「外で狭い檻は可哀想ですね。それなら折角ですから、少し檻造りをさせてください」
「なに?」
アオイの提案に首を傾げていると、さも当然のように空を指差して口を開く。
「いくら大きなドラゴンであっても、劣悪な環境では生活できません。もし可能なら、街道の近くにそれなりに大きな家を作りましょう」
「……なんだ? どういうことだ?」
アオイの言っている意味が分からず、聞き返した。すると、アオイは森を指差して答える。
「試しに作ってみましょう。問題があれば撤去しますので、教えてください」
そう言ったかと思うと、すぐにドラゴンごと皆を街道の傍へと降ろした。
「この辺りが一番森に近い場所ですね」
「ここに家を作るのか?」
「街道の邪魔にならないようにしないと、騎士団の方とかも通りますよ」
何をするのか理解しているのか、二人の男女もアオイにそんなことを言った。それに頷きつつ、アオイはまたも無詠唱で何かしらの魔術を使い始める。
何が起きるのかと見守っていると、突如として街道と森の間ほどの場所に巨大な柵が出来始めた。街道から数百メートルほど離れた場所に、地面から突き出すような形で黒い柵が出現したのだ。これだけ離れてしっかり見えるのだから、かなり太さもあることだろう。
「……な、なに、あれ?」
マイラが掠れた声を出した。振り向くとジェレも目を丸くしてその様子を見ている。
「……土の魔術を使うことができる魔術具でしょうか」
ジェレがそう呟いた為、首を左右に振った。
「ただの土の魔術ではないな。何かの魔術と組み合わせたオリジナル魔術だろう。国宝級の代物だな……」
解説しながらも、目はアオイの魔術に釘付けだった。信じられないような魔術を連続して使用している。なんなのだ、あの女は。もしや、大国の王女か何かなのか。
「森の中の一部まで庭にしました。後は、屋根と寝る場所ですね」
一方、アオイはこちらの苦悩など全く気にした様子もなく、さっと先ほどの魔術を応用するように網状になった屋根を地面から出現させて、空に浮かべて檻の上に乗せた。驚くべきはその大きさである。檻はドラゴンが立ち上がっても問題ないようにしたのか、高さ五十メートルは間違いなくある。更に、先ほどの話だと見えない森の中にまで檻は広がっているようだ。
更に、今度は柵の街道側に石で出来た壁が出現する。幅は三十メートルはあるだろう。高さは屋根ギリギリの大きさである。
「……あの檻に囲まれたところすべてが、ドラゴンの家ということでしょうか」
「そういうことだろうな」
信じられない規模の家づくりだ。どれほどかは分からないが、街道と森の間にある草原部分から奥の森の一部までドラゴンの巣となったらしい。
街道からも見える位置にドラゴンの庭付きの邸宅が出来たことに茫然としていると、アオイはこちらに振り返って頭を下げた。
「それでは、この中にドラゴンを入れて私たちは帰らせていただきます。ありがとうございました」
そんな挨拶に、ただ頷くことしか出来なかった。
すると、アオイはさっさとドラゴンを出来たばかりの家の中に入れて、再び空へと舞い上がっていった。空を飛んで帰っていくアオイに、ジェレが眉根を寄せて口を開く。
「……どうせ王都へ戻るなら、一緒に帰れば良かったかもしれない」
そう言われて、マイラがハッとした顔でこちらを振り向く気配を感じた。