作品タイトル不明
オークションでの戦い
オークションは順調に進んでいき、会場の熱気も徐々に高まっていく。私は次々高額で競り落とされていく品物の数々に目を白黒させていた。
「……こんなにお金持ちの方がいるのですね」
そう呟くと、ストラスから呆れた顔で見られた。
「一番高額になる物を出品する人間から言われるとおかしいと思うだろうな」
鋭い突っ込みをされて思わずおし黙る。なるほど。確かに、お金を稼ぐという意味では一番高価な物を出品しているではないか。
そんなことを考えていると、気が付けば最後の目玉の紹介となっていたようだ。中心に立つ男が咳払いを一つして、熱気冷めやらぬ会場を見まわし、口を開く。
「さぁ、いよいよ最後の出品です! 途中で唸り声が聞こえた人もいたでしょう! これまで、その姿を直接見ることが出来るのは英雄と呼ばれるようなごく一部の者達しかいませんでした! 普通の人間では捻り潰されてしまうような強大な魔獣達がいる森や山を抜けて捜索しなければいけないのだから、当然のことだと思います! しかし、今日このオークションに参加した皆様は幸運です! こんな街の中で最上級のドラゴンを見ることが出来るのですから!」
男がそう言って合図を送ると、ドラゴンの入った檻の布が取り払われた。
檻が露わになり、視界が戻ったドラゴンが顔を上げて周りを見ている。生きたドラゴンの姿を見て、参加者達が大きな声をあげる。歓声や悲鳴、驚愕の声などが入り混じった大声だ。その声に、多少は落ち着いていたドラゴンも興奮し始めた。
耳を劈くようなドラゴンの雄叫びが会場内に響き渡り、気が弱い者は慌てて逃げ出す。そんな中、ドラゴンの雄々しい姿に目を輝かせる者の姿も確かにあった。
「それでは、始めます! 開始金額は金貨千枚からです!」
「千五百!」
「千七百!」
「二千枚!」
オークションスタートの宣言と同時に、数人の男が手を挙げて入札する。千枚から二千枚、二千五百枚と瞬く間に金額が釣り上げられていく様子に、声も出せずに見入っていた。
「あ、あわわわっ! すごい勢いですよ!」
「……もう三千枚を超えたか。これなら、四千枚も超えるかもしれんな」
エライザとストラスも高揚した様子でそう言った。
その時、三階から大きな男の声が聞こえてきた。
「四千枚だ!」
ロイルだ。最高入札額が三千三百枚だったところからいきなり四千枚に値が跳ね上がり、皆の目がロイルに向かう。
「ロイルか……!」
「くそ、あの成金め……」
どこからかそんな声も聞こえてきたが、当のロイルは不敵な笑みを浮かべてドラゴンを見て、次に私の方を見てきた。
その笑みに何か嫌な予感みたいなものを感じたが、オークションは続く。
「四千二百!」
誰かがまた声をあげたのだ。これに、ロイルは面倒くさそうに口を開く。
「四千五百枚だ!」
「四千八百!」
ロイルが入札すると、即座により高値で入札をする男。誰がロイルと争っているのかと、皆の視線が声のする三階、ロイルのいる場所とは反対側にあたる席に向いた。
そこにいたのは明らかに貴族風の中年の男だった。後ろには鎧を着た騎士達までいるのだから、間違いない。
「ダルモア侯爵……」
「あの大侯爵様が相手か。これはロイルも勝ち目が無いな」
どうやら有名な貴族が出てきたらしい。周りの声は隠す気がないのか、ロイルの耳にも入りそうな大きなものだった。
予想通り、ロイルは眉を吊り上げて更に高値で入札する。
「五千枚だ!」
ロイルが怒鳴るように発すると、ダルモアが片手を上げた。
「六千」
「七千枚!」
「八千だ」
先程までとは比べ物にならない速度で値が釣り上がっていく。それを見て、エライザが声にならない声をあげて慌てだした。
ストラスも無言だが、何度もロイルとダルモアの顔を見ている。参加者達は完全に二人の争いを楽しみだし、大盛り上がりで歓声を上げ始めた。
「……一万枚だ!」
その歓声に後押しされたのか、ロイルがまた一段高く値を積み上げた。とんでもない金額となり、流石に会場の歓声も静まった。反対に、息を呑むような緊張感が場を支配する。
「……他にありませんか?」
ダルモアが押し黙ったことで、司会が確認を行う。実際、この国の経済状況がどれほどかは分からないし、貨幣価値が如何ほどか正確に理解しているわけではないと思う。しかし、この金貨一万枚がとてつもない金額であることは窺い知れた。
ダルモアは静かに司会を見返して、首を左右に振る。それに頷き返して、司会は最高の笑顔を浮かべた。
「落札! ドラゴンは金貨一万枚で落札されました! これは、このオークションハウスで落札されたドラゴン関連商品の中で最も高額なものとなります! おめでとうございます!」
その宣言とともに、オークションハウスは興奮の坩堝に包まれた。司会の声が聞こえないような歓声と拍手の中、オークションは幕を閉じた。
三人揃って無言で会場から出て、通路へと出る。人々が行き交う通路の中、エライザが我慢できないといった様子で振り返った。
「い、いい、いいいい、一万! 一万枚ですよ!? どうなってるんですか!?」
「……驚愕すべき金額になったな」
「驚くなんてもんじゃないですよ! 心臓が口から出るかと思いました!」
ストラスが冷静にコメントすると、エライザが飛び掛かりそうな勢いでそう叫ぶ。通路で大声を出していることを心配したが、周りも先ほどの入札争いについて興奮した様子で会話している人たちばかりだったのであまり目立っていないようだった。
興奮しっぱなしのエライザを落ち着かせながら受付まで戻ると、カウンター奥に立っていたクリークがこちらに気が付いて歩いてくる。
「お疲れ様です、皆さま。本日は素晴らしい価格での落札、おめでとうございます。もしよろしければ、これから行うことについて説明をいたしますが……」
「頼む」
クリークの言葉にストラスが即答する。それに微笑むと、クリークは奥を指し示した。
「それでは、こちらへ」
案内された先はこじんまりとした会議室のような場所だった。クリークの他には二人の若い男女が付いてきて、テーブルに何か書類のようなものを並べている。
テーブルを挟むようにしてクリークの正面に三人で座ると、クリークはその書類を一つずつ説明し始めた。
「今回の落札額はとても高額となりました。通常なら貨幣か王国銀行の手形でお支払いをいたしますが、金貨千枚を超えた場合は選択肢が増えるようになっております」
言いつつ、クリークは二枚の紙を並べる。
「こちらは貨幣か手形でのお支払い。この場合、貨幣や手形を準備する業務が発生しますので、通常通り手数料は一割となります。しかし、オークションハウスへ預けていただけるなら、手数料などは発生いたしません。そのままの金額を次回以降のオークションでご使用することができます。途中で一部の金額を貨幣か手形に変換することも可能です。その場合は手続きの度に一割ほど手数料をいただきますが」
と、クリークは説明をしながら紙に書かれている文章を手のひらで指し示していく。
「それなら丁度良い。一万枚そのままオークションハウスへ預けさせてもらおう」
ストラスがそう告げると、クリークはこちらをちらりと見た。
「よろしいですか?」
そう問われて、頷く。
「はい、構いません。元から、使うつもりでしたから」
正直に答えると、クリークはこれまで見たことのない自然な笑顔で笑ったのだった。