軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】 フィディック学院では2

「……ん? まさかとは思うが、あれがそうか?」

講義室から正門へ移動したロックスが、正門で揉める人の群れを見てそう呟く。それに、後ろを並んで付いてきていたフェルターとコートが顔を上げた。

正門では、騎士らしき鎧を着た男たちが十数名。さらに、魔術師らしきローブの男も二、三名ほどいた。奥には、黒の生地に銀の糸で刺繍が施されたマントを羽織った位の高そうな男が立っている。

近づくにつれて声が聞こえてくるが、どうやら揉めているらしい。そう思ったロックスは、面倒くさそうに顔を顰めながら口を開く。

「おい、何を揉めている?」

ロックスは手前に立っていたフィディック学院の生徒らしき男に尋ねる。すると、男はロックスとフェルター、コートを見て驚き、すぐに状況を説明した。

「今日初めて学院内に入ろうとしたみたいなんですが、受付で武器の持ち込みが出来ないと言われてもめているようです」

そう言われて、ロックスは頭を抱えるように片手を額に当てた。

「……学院に何故、武器をもった護衛を連れてきているのか。まさか、アオイを力づくで連れて帰るつもりじゃないだろうな……」

「え?」

「何も言ってない!」

小さく呟いた言葉に生徒が思わず聞き返すと、ロックスは顔を赤くして怒鳴った。その剣幕に生徒が震え上がって口を閉じると、ロックスはバツが悪そうに鼻を鳴らして視線を正門へと向ける。

「受付の爺さんは気にもしないだろうが、周りの奴らは不安になるだろう。鎮圧するぞ」

ロックスがそう告げると、フェルターは口の端を上げて軽く腕と首を回した。そして、コートが慌てて口を開く。

「ちょ、ちょっと待ってください。私が先に行って話を聞いてきますから」

コートがそう言うと、二人は不服そうに振り返った。

「……もうそれなりに喧嘩腰になってるぞ? どうにか出来るか?」

「……五分だけ待ってやる」

意外にも、二人はコートの言葉を尊重したのか、待つ素振りを見せた。それにコートはホッとした様子で頷き二人を追い抜いて前に出る。

正門まで歩いていくと、先ほどよりも激しくなった喧騒にコートは若干顔を顰めた。

「だから、我がマッカイ侯爵家のホス・マッカイ様がわざわざフィディック学院の生徒になりに来たというのに、このような庶民と同様の扱いを受けることを問題だと言っておるのだ! 何故、それが分からん!?」

怒りに唇を震わせて怒鳴る中年の騎士。対して、受付の初老の男は表情一つ変えずに何度か頷いて答えた。

「そりゃあ、大層なことで……それじゃあ、順番にこの受付用の用紙に名前を書いていってくださいな。その武器とかは預かりますんで、帰る時にまた寄ってくれりゃあ良いですよ」

と、男が答えると、騎士はさらに激昂する。

「貴様、私の話を全く聞いておらんではないか!? もう容赦ならん! 叩き斬ってくれる!」

怒鳴り、剣を抜く騎士。それには流石のロックスも焦りの色を見せる。

「ちょ、ちょっと待て……!」

声をあげながら走る。しかし、騎士は余程気が短いのか、すぐさま剣の刃先を受付の男に向けた。

「さっさと通せ、この老いぼれ!」

騎士が怒鳴った瞬間、初老の男が片手を机の上に置き、口を開いた。

「…… 石の檻(ロックジェイル) 」

男が一小節の詠唱の後に魔術名を唱えると、あっという間に受付の前の地面から石の槍が無数に突き出してきた。地鳴りを響かせるほどの勢いで突き出た石の槍は、生き物のように騎士達を取り囲み、最終的には四角い檻となって固まった。

その間、僅かに一、二秒程度である。

これには救援に駆け付けていたはずのロックスも唖然として足を止めた。

「な、何が起きた……!?」

「どういうことだ!?」

「貴様、出さんか!」

急に投獄された状態になった騎士たちが怒鳴り散らす中、男は片手を振って笑う。

「ちゃーんと決まり事を守って受付してくれりゃあ出してやるさね。ほれ、全員ここに名前と出身国を書いてくんな」

こんな状況でも受付の担当者らしく職務を果たそうとする男の姿に、歴戦の猛者らしき騎士達も何も言えずに口を噤んだ。

「……分かった。よこせ」

「おぉ、この続きから書いておくれ」

男はそう言って檻の隙間から受付の用紙を差し出した。騎士はひったくる様に受け取ると、黙って皆の名前を書きだしたのだった。

「これで良かろう!?」

騎士は怒声を発しつつ、紙を男に渡す。それを丁寧に受け取ってから、男は紙に記入された内容を確認した。

「ふむふむ……人数も良さそうかねぇ。よし、そんじゃ武器もこっちにね」

男はそう言って笑うと、檻の外を指さした。騎士たちは無言でそれに従い、刀剣類を檻の外へ置く。それらを確認してから、受付の男は椅子に座りなおして頷いた。

「まぁまぁ、良かろうか」

男がそう口にした途端、石の檻は細かい砂となって崩れて消える。きらきらと光を反射させて舞う細かな砂の中、騎士達はようやく自由になって誰ともなくホッと息を吐く。受付の男はその様子を笑いながら眺めた。

「ほれ、中に入りな。次の人がさっきから待っとるからな」

そう言われて騎士が顔を上げたが、周囲にいる多くの観衆が自分たちのことを見ていることに気が付き、何も言えずに舌打ちをした。

「……早く行くぞ」

「えぇい、そこをどけ!」

騎士たちの奥でホスと呼ばれた貴族風の男が低い声でそう告げると、騎士達は慌てて民衆を怒鳴りつけて動き出す。わらわらと横柄な態度で学院内へ入ってきたマッカイ侯爵家の騎士達に、ロックスは苛立たしげに一瞥を送る。

ホスがロックスの視線に気が付いて顔を上げるが、周囲の注目を浴びている為かすぐに視線をそらして横を通り過ぎて行った。それを見送っていると、フェルターとコートもロックスの方へ歩いて来る。

「……よく殴らなかったな」

「てっきり掴みかかるかと思っていました」

フェルターとコートが近づいて早々にそんなことを口にする。それにロックスは目じりを釣り上げて怒った。

「俺をなんだと思ってやがる」

ロックスが文句を言うと、フェルターとコートは似たような顔でロックスを見る。

「……短気で暴力的な男だ」

「力で解決する人だと思っていましたが」

二人が一言でロックスの性格を表すと、ロックスは地面を蹴って怒鳴る。

「良い度胸だ、てめぇら! だいたい、お前に暴力的だなんて言われたくねぇぞ、フェルター!?」

「……ふん」

ロックスの指摘にフェルターは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。それを横目に、コートは受付の方へと一人で歩いていく。

「あの、大丈夫ですか?」

コートが声を掛けると、受付の男は「ほ?」と間の抜けた声をあげて顔を上げた。コートに気が付くと、片手を振って笑う。

「おお、学生さん。ぜーんぜん問題ないよ。あんな大声上げるだけの騎士なんざ怖くもなんとも無いさね」

なんでもないことのように男がそう答えると、コートは感嘆したように驚きの声をあげた。

「……お見逸れしました。もしかして、以前は教員をされていたのですか?」

コートが尋ねると、男は笑って頷く。

「おうともさ。何を隠そう初代上級教員だからな。引退して気ままに暮らそうと思っておったら、学長からまだまだ学院にいて欲しいって頼まれてな。教員とかはもう面倒だから、受付とか雑用みたいなんなら良いって答えたら、本当に受付で残ることになっちまってなぁ」

そう言って苦笑する男に、コートが目を丸くする。

「上級教員……確かに、先ほどの魔術は下手をしたらフォア先生よりも……」

驚きつつ納得するコート。その時、新たな来訪者が受付を訪ねてきた。

「おお、お客さんが来た。そんじゃ、学生さん。またな」

「あ、ああ、はい。お邪魔しました」

そう言ってコートが一礼してロックス達の下へ戻る。一方、受付では新たに学院を訪ねてきた背の高いローブの男が受付をしていた。白いローブにはメイプルリーフ聖皇国の紋章が描かれている。ローブを外すと、ぼさぼさの薄緑色の髪が現れ風に揺れた。男は魔法陣の描かれた灰色の手袋を着用した手で受付を済ませる。

受付の男はそれを確認して読み上げた。

「……クラウン・ウィンザーさん、ね。メイプルリーフの宮廷魔術師? それはそれは……学院には何の用で?」

そう尋ねると、クラウンと呼ばれた男はぼさぼさの髪を片手で搔きながら苦笑する。そして、しゃべり始めた。

「いやぁ……もっと早く来たかったんだよ、本当は。しかし、嫌がらせみたいに上司が仕事を用意するもんだから、全然来れなくて! そうこうしてたら、今度はエルフが教員になったと聞いて、これはもう是が非でもフィディック学院に行くぞと……! 書置きを残してすぐさまメイプルリーフを出てきた次第!」

「お、おお。そりゃあ、中々大変だったみたいだねぇ……ほいよ、フィディック学院へようこそ」

怒涛の勢いで来訪理由を語るクラウンに、受付の男は若干引きながらも許可を出したのだった。