作品タイトル不明
【別視点】 フィディック学院では1
【別視点】
「……おいおい、またか?」
誰もいない講義室で、ロックスが不機嫌そうにそう呟いた。それにフェルターが鼻を鳴らす。
「……毎週誰かが訪ねて来るような状況だ。今更だろう」
低い声でそう言われて、ロックスは大きな音を立てて舌打ちする。
「面倒な……そもそも、アオイを知りもしない奴らが何が結婚だ」
ぼそりとロックスが口の中で呟くと、フェルターの頭の上の耳がピクピクと動いたが、何も言うことは無かった。
その時、講義室のドアが外から開かれ、二人の目が同時にそちらへと向けられる。
現れたのはコートだった。コートは二人を見て困ったように笑う。
「ああ、ここにいましたか。やっと見つけましたよ」
そう言ってコートが入ってくると、ロックスは不機嫌そうな態度を隠しもせずに目を鋭く細める。
「……何の用だ」
ぶっきらぼうにロックスがそう尋ねたが、コートは意に介した様子も見せずに微笑みながら近づいてきた。
「それが、困ったことになりまして……ちょっと相談に乗ってくれませんか?」
「……調子の狂う奴だな。聞くだけ聞いてやる、言ってみろ」
怒気をぶつけたところで綺麗さっぱり受け流すコートに、ロックスは溜め息を吐いてそう聞き直した。すると、コートは腰に片手を当ててもう片方の手をひらひらと振る。
「コートハイランドより連絡があり、二人の議員が子息を学院に入学させたいというので手続きをしています。しかし、その議員二人の子息というのが、どうも私よりかなり年上のようでして……これは、また例のパターンかなと」
苦笑しながらコートがそう告げると、ロックスは肩を落として深い溜め息を吐いた。それに同意するように小さく息を吐きつつ、コートは二人を見る。
「……今のところ、私にはそういった話は来ていませんが、そちらはどうですか? お二人とも王族と上級貴族の子息ですし、似たような話があったのでは?」
「……別に」
ロックスがコートの質問にそう答えると、次はフェルターに視線が向けられる。
「フェルターさんもですか?」
コートが目を細めてそう尋ねると、フェルターが僅かに身じろぎをして視線を向けた。
「……俺は、家からアオイを嫁に貰ってこいと言われたが、何も答えていない」
フェルターがそう告げると、ロックスは目を見開いて驚く。
「な、なんだと!?」
ロックスの驚愕に、フェルターは口をへの字にして黙り込んでしまう。その様子にコートは眉をハの字にして頬を掻く。
「恐らく、私の父も同じようなことを思っているでしょうね。直接そういった政略結婚をするようにといった指示はありませんが、アオイ先生がコート・ハイランドに来てくれたら嬉しい、といった内容の手紙はもらっていますので」
コートはそう口にした後に、ロックスを横目に見た。
「……ミドルトン陛下からは、特にそういったことはありませんか?」
改めてコートがそう聞き直すと、ロックスは言い難そうに口籠り、腕を組んだ。一、二秒考える時間を置いて、ようやくロックスが顔を上げずに答える。
「……俺は、母上から必ずアオイの争奪戦に勝つようにと命令された。それこそ、先週の話だ」
そんなことを言いだすロックスに、コートとフェルターは思わず顔を見合わせる。
「……争奪戦?」
「……だから、他国の婚約志願者達を蹴散らしていたのか?」
コートとフェルターが同時に聞き返すと、ロックスは顔を真っ赤に染めて怒鳴る。
「ば、馬鹿か貴様ら! そんなわけがあるか!」
激昂するロックスに、コートは笑みを浮かべたまま肩を竦めた。
「大きな声で否定するあたりが嘘っぽいですね」
「ぶっ飛ばすぞ!?」
コートが疑うようなことを言うと、ロックスは立ち上がって恫喝した。激しく感情を露わにするロックスを見て、コートは何も言わずに再度肩を竦めて首を左右に振る。それに再び怒鳴ろうと口を開くロックスを一瞥して、フェルターが溜め息交じりに呟いた。
「……どちらでも良い。とりあえず、共通することはカーヴァン、グランサンズ、メイプルリーフの三国から来る転校生は叩き潰して良いということだな」
フェルターが物騒な発言をして話をまとめようとすると、コートが慌てて両手を振った。
「い、いえいえ、そんな乱暴な対応ではいけません。正式な手続きでこのフィディック学院に来ているでしょうから、追い出すなんてことをしたら軋轢が生まれます。戦争の原因となってしまったらどうするんですか」
コートが必死に二人の行動をなだめようとすると、ロックスは腕を組んで椅子に座りなおす。
「……じゃあ、どうする? そうこうしていると、コート・ハイランド同様にブッシュミルズからも別の男が来るかもしれんぞ」
「それはヴァーテッド王国も同じではありませんか?」
ロックスの質問に、コートは怪訝そうにそう聞き返した。すると、ロックスはなんとも言えない顔をしてそっぽを向く。
「……うちは大丈夫だろうさ。良くは知らないが、母上が他の貴族に圧力をかけたらしいからな」
ロックスのそんな言葉を聞いて、コートは引き攣ったような笑みを浮かべた。
「さ、流石はレア王妃ですね。君主でなくとも他の貴族達を抑え込むことが出来るとは……」
コートがそんな感想を漏らして驚愕する中、フェルターも浅く顎を引いて同意する。
「……我がブッシュミルズ皇国も同様だ。俺が学院にいるから、他に人はいらないと伝えているらしい」
面倒くさそうにそう言うフェルターに、ロックスは眉間に皺が寄った。
「ラムゼイ侯爵の意向は分かったが、そもそもお前はアオイのことを師匠と思っているんじゃなかったのか?」
「……そうだ」
フェルターは言葉少なくロックスの質問に答える。それにロックスは懐疑的な目を向けたが、何も言うことはなかった。