軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔術の研究

一か月後、今度こそという気持ちで私は学院内を歩いていた。

講義が終わり、自分の研究室へ一直線に向かっている。もちろん、精霊の魔術の研究のためだ。途中、色々と検証を重ねたりしてみたが行き詰まってしまった。それで数日を無駄にしてしまったが、別の角度から考察をしてみたところ解決の糸口が見えた気がしたのだ。

それは、メイプルリーフ聖皇国の癒しの魔術である。

精霊という存在は目に見えず、実態がない為、生命体とも思えない。しかし、魔術を行うにあたり重要な要素となる。そういった観点で見ると、メイプルリーフの癒しの魔術にも似たような部分があった。

それは聖人や聖女といった最上級の癒しの魔術師に現れる現象である。一見、精霊の魔術とは似て非なる魔術だが、ある意味で共通する部分がある。

癒しの魔術も、見えない何かが力を行使している可能性がある、という点だ。

聖人であるアウォード宮廷魔術師長が実際に目の前で行使した魔術だが、一定範囲内の怪我人を一気に癒してしまうというものだ。なにせ、視界に入っていない人物まで治療してしまうのだ。こちらの魔術も私には理解不能で研究を中断していた魔術だったが、精霊の魔術を知った今なら解決する為の仮説を立てることくらいは出来るようになった。

つまり、精霊に近い何かが魔術を行使した本人以外の感覚を補っているのだ。それならば、壁の向こう側でベッドに入ったままの怪我人を治療することも出来るだろう。逆に私が癒しの魔術を使おうと思ったら、必ず対象者を確認して怪我の度合いや部位を見ておく必要がある。そうしなければ、どこを治療するべきか分からないからだ。

もし、自らの意思で考えて行動することが出来る精霊などを生み出すことが出来たなら、自分自身が見えない場所にいる怪我人を治療することも可能になるだろう。

これは、今まで研究してきた魔術と根本的に違うものであり、新たな魔術の体系を確立することにも繋がるだろう。それはつまり、念願だった空間や別世界への移動といった魔術の開発に一歩前進するかもしれないということだ。

問題はその手法だが、それも精霊魔術の研究が進めば徐々に形になってくるだろう。今のところは目に見えない精霊という存在に魔術を補助してもらうという情報しかないが、もし精霊の出現を操作できるならば大変興味深いものとなる。

精霊が普段は深い森の中や水辺などに生息していて、それを空間を跳躍して呼び出しているのか。それとも、精霊達だけが棲む別の世界があり、そこから召喚して精霊を行使しているのか。

「……そう考えると、やはり精霊という存在そのものに焦点を当てて研究をしておいた方がよさそうですね」

そう呟いて顔をあげると、タイミング良くラングスが歩いて来るのが見えた。珍しいことに、女子生徒ではなく男連れで歩いているようだ。

「む、アオイか」

「おお、アオイ」

二人同時に気が付いたらしく、揃って手をあげて私の名前を呼んできた。

「ラングスさん、ストラスさん。二人が一緒にいるのは珍しいですね」

そう言って歩み寄ると、ラングスがストラスを横目に口を開く。

「ストラス殿はとても面白い。特に、魔術に対する情熱や精霊魔術に対する妙な意識が無いところも気に入っている」

「……エルフの精霊魔術を教えてもらっている」

ラングスはまっすぐにストラスが気に入ったと笑い、ストラスはその言葉に照れくさそうにして答えた。対照的な二人に見えるが、どうやら気が合ったらしい。

「ストラスさんは才能豊かな魔術師ですからね。私もストラスさんの実直で誠実な性格が好きですよ」

ラングスの意見に同意して答えると、急にストラスが咳ばらいをしてそっぽを向いた。それを見てラングスも変な顔をする。

「……よし、後でストラスと話すことが出来たな」

少し低いトーンでそう呟くと、表情を変えてこちらを見た。

「それで、アオイは何をしていたんだ? また魔術のことか?」

「え? まぁ、そうですね。先日の精霊魔術の研究が間違っていたことが分かったので、根本から研究をやり直しているところです」

そう告げると、ラングスは腕を組んで成程と顎を引く。

「ならば、私がもう少し精霊魔術について手ほどきするとしよう」

「それはありがたいですが、今はもうラングスさんも教員になられているので、中々時間が……」

「何を言う。私の講義など週に数回だ。その間を使って魔術の研究に充てようじゃないか。はっはっは! 共同研究だな!」

ラングスが大声でそんなことを言いだしたので、思わず周囲を確認してしまう。すると、予想通り学生や教員の姿がちらほらあり、こちらを見ている者もいるようだった。

「……変な噂にならないように気を付けてほしいと言ったと思いますが」

少し怒気を含ませてそう告げるが、ラングスは眉をハの字にして困ったように笑うだけだった。

悪意は無いのだから、タチが悪い。