軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルフの国へ家庭訪問2

森の上空から見下ろしながら、目的地を探索する。

「グレン学長。場所は本当に覚えていないのですか?」

「いや、わしが子供の頃じゃよ? もう百年ばかり前じゃしなぁ」

「……困りました。城などがあるなら分かりそうなのですが」

そんな会話をしながら、背の高い木々の頭を順番に眺めていく。と、奥の方に少し開けた空間があることが分かった。

「あの辺りは木々がありませんね。少し離れていますが……」

そう告げると、グレンが目を細めて暫くその場所を眺めた。そして、「おお」と声を出す。

「そういえば、エルフの国には小さいが湖があったような気がするぞい」

「それを早く言ってください。森の中で唯一の手掛かりじゃないですか」

「本当じゃのう……もうすっかり忘れておるわい」

グレンは困ったように頭に手を当ててそう呟く。学院のことを話す時や、他国の貴族と会話をする時はとてもしっかりしているのだが、こういった場面になると途端に老人っぽさが出てくる。新しい魔術を見ると子供のようになるのだから、何に興味や関心が向いているのか一目瞭然である。

「それでは、エルフの国を訪ねるとしましょう。時間が無いので、対象となる生徒の家を訪問してお話をしたらすぐに帰ります。良いですね?」

「意見を聞いてくれるのは有難いのじゃが、ここ数日でわしの意見が採用されたことがあったじゃろうか……いや、何でもない。アオイ君の好きなようにしてくれ」

と、グレンは私の意見を尊重してくれるようなセリフを口にした。それに頷きつつ、目の前に現れた白い石の城壁や城を見下ろす。

「それでは、降りましょう」

そんなやり取りをして、私たちはエルフの国の城壁の外側へと降りたった。一応、城門を潜って入国した方が良いと思ったからだ。

しかし、地上に降り立つやいなや、すぐさま城壁の上に人が集まってきて弓矢を構えられてしまった。

「……貴殿らは何者か? 突然我が国に現れた理由を述べよ」

落ち着いた声音なのに、良く通る声だ。顔を上げると、城門の上部にローブをまとったエルフの男性の姿があった。二十代後半ほどに見える見た目だが、エルフの場合は年齢が判別できない。あの見た目でもしかしたらグレンより年齢が上の可能性もあるのだ。

「我々はヴァーテッド王国の特別自治領であるウィンターバレーから参りました」

そう言ってから、グレンに顔を向ける。

「名乗っても大丈夫ですか? グレン学長の名前を出すと良くないでしょうか」

確認すると、グレンは引き攣った顔で目を細めた。

「お、おお……一応わしの体裁を気にしてくれるんじゃな? でも、それを聞くなら出発前に聞いてほしかったのぅ」

「申し訳ありません。それで、名前は?」

「すごい嫌なんじゃけど、言うしかなかろう。言わんと入れてくれんぞい」

眉間に深い皺を作ったグレンの台詞を聞き、頷いて城門へと向き直る。

「フィディック魔術学院、学長のグレンと教員のアオイ・コーノミナトと申します。入国の許可を願います」

そう告げると、城壁の上でエルフ達がざわざわと少し騒がしくなった。どうやら、フィディック学院の名はこの国にも届いているらしい。

城門の上でこちらを見下ろすエルフは、厳しい目つきで観察するように私たちを見ている。

「この国を出て、人間の国で名を挙げたハーフエルフのグレン・モルト氏で間違いないか? ヴァーテッド王国の侯爵の地位にあると聞いていたが、私兵もおられないようだが……?」

訝しむように質問された。どうやら色々と疑われているらしい。それにしても、言葉のどこかにグレンへの棘が感じられる。

「今回は、侯爵としてではなく、フィディック学院の学長と教員として参りました。理由は家庭訪問です。もし気になるなら見張りを付けていただいても構いませんので、入国の許可をお願いいたします」

答えると、暫くの沈黙が訪れた。そうして、城門の上で軽い話し合いが行われた後、先ほどの男が再度顔を出す。

「……承知した。そちらの提案通り、警護隊の中から第一魔術師団を傍に置かせてもらう。問題はないな?」

「はい、構いません」

男の提案に即答で了承する。その後、また一、二分待たされて、城門は開かれた。

「……第一魔術師団といえば、エルフの国でも最上級の精鋭じゃな。どうやら、かなり警戒されておるらしい」

「グレン学長が、ですよね?」

「……そうじゃな。アオイ君の噂はまだエルフの国には届いておらんじゃろう。残念ながら、わしがなにかするかもしれんと思われておるようじゃ」

溜め息混じりに、グレンがそう推察した。

「入国前に、少し話を聞かせてもらおう」

と、そこへ先ほどのローブを着たエルフが十数人のお供を連れて現れる。男の目は油断なく私とグレンの顔を順番に見た。

「……そちらの女は随分と若いようだが、ハーフエルフではあるまいな?」

「私は人間です。アオイ・コーノミナトと申します」

そう答えると、男は頷く。

「アオイか。承知した。それで、今日は家庭訪問なる用事だと聞いたが、それは何か」

実直な質問である。それにこちらも真面目な態度で答えた。

「以前、フィディック学院で学ばれていた生徒がいらっしゃると聞き、お話を伺いに参りました。込み入った話もありますので、ご家族の方も交えて話が出来たらと思っております」

「……よく分からんが、理解した。それで、グレン殿は?」

「わしは付き添いじゃな」

グレンも正直に答える。すると、男は僅かに疑惑の目を向けた。

「……承知した。申し訳ないが、グレン殿には常に見張りを立たせていただく」

「分かったぞい」

男の意見にグレンは頷いて了承した。こうして、私たちは何とかエルフの国への入国を果たしたのだった。