軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

課外授業と事前情報共有

今度のお休みの日に、学院の外で会おう。

そんなアバウトな約束をして、別れを告げた。ソラレの部屋から出ると、通路の突き当りにある角っこで、グレンが自らの膝を抱いて座り込んでいた。

視線は壁の一点をずっと見つめている。驚くほど哀愁が漂っているその姿に、シェンリーが不安そうにこちらを振り返った。

「……グレン学長? 話は終わりましたので、そろそろ行きましょうか」

そう声を掛けると、シェンリーが驚いたような顔をしていた。それを尻目に、茫然自失とした様子のグレンの傍へ移動する。

「グレン学長」

もう一度名を呼んでみる。すると、グレンはハッとした顔になり、首を捻ってこちらを見た。

「お、おお。アオイ君か……ど、どうだったのじゃろうか? ソラレは、何か話をしたかの?」

グレンは複雑な表情で尋ねてくる。色々と聞きたいことがあるのだろうが、直接その内容を聞くのも勇気がいる、といったところだろうか。曖昧な質問の仕方がそれらを物語っているように思う。

それを理解して頷き、答える。

「はい、色々と話をしてくれました。グレン学長のことも聞いています」

そう告げると、グレンは立ち上がって体ごと振り向いた。

「……それは、わしが聞いても良い話じゃろうか」

「大丈夫だと思います」

答えると、グレンはこちらに歩み寄る。

「わしが傷付く内容じゃろうか」

「恐らく」

そう答えると、グレンは一歩下がった。

「……そ、ソラレは、わしのことを嫌っておるんじゃろうか」

「……そういうことではないと思いますが」

そう答えると、グレンはその場で立ち竦んだ。どうしようかと思い悩んでいるようである。

「場所を変えて話しましょう。シェンリーさんはお時間ありますか?」

確認すると、シェンリーは少し戸惑いつつも頷いてくれた。

移動した先はシェンリーが以前勧めてくれた飲食店である。木々を植えたテラス席を横目に店内に入ると、あの獣人のマスターがカウンターの奥で会釈していた。

「いらっしゃいませ」

男らしい挨拶に一礼する。

「ちょっと、内緒の会議があるのですが、良い部屋はありますか?」

そう尋ねると、マスターは二階を指差した。

「いつもの場所で申し訳ないが、二階のテラス席をどうぞ……ところでアオイ先生、そちらのご老人は……」

マスターがいつになく緊張感を滲ませてそう確認してくる。グレンは髭を軽く撫でつけてから、会釈をした。

「グレン・モルト。フィディック学院の学長をしておるぞい」

そんな挨拶に、マスターの背筋が若干伸びる。

「……ようこそ。まさか、学長殿が来店するとは思わず、驚きました」

「あぁ、いやいや……ただの客として扱ってくだされ」

恐縮するマスターに、グレンは苦笑しながらそんな返事をした。

やはり、このウィンターバレーにおいてグレンの存在はその辺の要人よりも上らしい。明らかにいつもと違うマスターの態度に、改めてグレンの地位や知名度を理解する。

マスターがシェンリーに何か耳打ちすると、シェンリーは苦笑しながら頷く。

「では、グレン学長。ご案内します」

何故か、シェンリーがウェイトレスのように丁寧に案内を申し出てきた。どうやら、マスターに言われてグレンの世話係を頼まれたようだ。

シェンリーもそれが可笑しかったらしく、楽しそうにグレンの前を先導していく。

二階のテラス席につくと、グレンが目を細める。

「ほう。これは中々良い席じゃの。ゆっくり出来そうじゃ」

「はい。お料理も美味しいですよ」

店を褒められて嬉しくなったのか、シェンリーが店の宣伝を行った。グレンは「楽しみじゃ」と言って微笑みながら椅子に座る。それを見て、私も椅子に腰を下ろした。

すると、シェンリーがメニューを持ってきてグレンと私の注文を受け、マスターの下へ戻っていく。その姿を見て、グレンは目を瞬かせた。

「シェンリー君はここで働いておるのかの?」

「いいえ、常連客というだけですよ」

「その割には随分と慣れている感じじゃのう」

と、そんなやり取りをしている内に、シェンリーが飲み物を盆に乗せて戻ってきた。

「どうぞ。お料理は出来次第マスターが持ってくるそうです」

シェンリーはそう言って席に座った。三人でテーブルを囲んだことを確認して、私は口を開く。

「それでは、今日ソラレ君と話した内容について、グレン学長に説明します」

そんな切り出し方で私はグレンにソラレの言葉を要約して伝えた。

学院でエルフの血を引いていることからイジメが起きたこと。グレンが守ってくれなかったと感じていること。そして、学院で講義を受ける事は拒絶しているが、魔術を学びたいという気持ちはあること。

それらを踏まえて、私がソラレとシェンリーを対象に学院外で魔術の講義を行うこと。

それらを聞き、グレンは悲しそうに眉尻を下げた。

「……つまり、ソラレにとって学院も、祖父であるわしのことも、許せない存在、ということじゃな」

切ないグレンの言葉に顎をひき、口を開く。

「ソラレ君はグレン学長が助けてくれなかった、庇ってくれなかったと思っています。それはなぜでしょうか?」

そう尋ねると、グレンは深く長い息を吐いた。