軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ソラレと対面

学院の校舎は広く、研究部屋なども加えると建物の数も多い。中庭も校内に幾つもあり、一つ一つが広く作られている。実験場としての広場や施設もある為、学院にずっと学生として通っているのに行ったことの無い場所が多いなんて生徒もいるくらいだ。

その学院内で、グレンは校舎の上の階層に住んでいる。校舎内に生徒達用の食堂や売店もある為、特に用事が無ければ学院外に出ずに生活することが可能だ。

それはソラレも同様である。幼い頃に両親を亡くしたソラレは、グレンが面倒を見る為にずっと学院の校舎内に自室があり、そこで生活をしてきた。

校舎の北側。図書室や魔術具倉庫、一部研究室などがある場所の三階にソラレの部屋はある。

「……中等部に上がる前はわしと一緒に暮らしておったんじゃが、魔術の勉強がしやすいように図書室と研究室の傍にあった居室をソラレに譲ったのじゃ。元々は住み込みで働く図書室と魔術具の管理人用じゃったが、管理人は結婚してウィンターバレーの方から毎日来るようになったから、部屋が空いておったというのも大きな理由じゃな」

グレンに教えてもらい、一礼を返す。

「ありがとうございます。早速行ってみます」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! わ、わしも行くぞい!」

場所は分かったので案内は必要ないのだが、やはり孫が心配なのだろう。グレンは慌てた様子で立ち上がった。

「そうですね。一緒に向かいましょう」

同意すると、グレンは眉を八の字にして浅く頷いた。

校舎の中でも、北側は生徒の数が少ないエリアとなる。図書館は広く作られている分、北側の出入口をわざわざ利用する人が少なく、その更に奥の各倉庫には教員くらいしか入ってこないからだ。

ちなみに、教員も殆どが研究に必要な道具は自分の研究室に置いているので、魔術具倉庫を利用する人物も限られてくる。

そういった状況もあり、ソラレはほぼ誰にも見られずに生活を送っていたようだ。

「……ここですか?」

「うむ」

小さな、木の扉だ。片開のその扉を見て、グレンは心配そうな顔をした。わずかに、扉の向こうから人の気配は感じる。椅子に座って居眠りでもしているかのように、ほんのわずかな気配だけだ。

「失礼します」

グレンにそう行ってから、扉を片手でノックする。軽い音が響いた。

扉が開けられる様子は感じられない。

もう一度だけノックしてみたが、同じ反応だ。だが、扉の向こうの気配は少し強くなったように思う。

「……グレン学長?」

無理やり開けても良いか、そう目で訴える。すると、グレン学長が慌てて前に出てきた。

「そ、ソラレ……開けてくれんか?」

グレンが名を呼びながら、もう一度ノックする。それには少し反応があったが、やはり返答はなかった。

「開けさせていただきます」

「ちょ、ちょっと待って……!」

グレンが待てと言ってくるが、それは聞かなかったことにする。直接の生徒ではないが、地球での教員時代に引き篭もりの生徒の家に家庭訪問した同僚の話を聞いたことがある。何度も何度も根気よく訪ねて話しかけてきたが、結局通信制の高校へと転校してしまったという。同僚は、もっと早く手を尽くしていれば、と後悔を口にしていた。

つまり、引き篭もってしまった生徒への対応は早さが大事に違いない。そういったことの経験はないが、同僚の話を聞く限りでは熱意と早さ、そして何より教員の行動が大事なのだ。

「 解錠(オープン) 」

魔力を指先に集めて細く伸ばし、扉に触れて一言魔術名を呟いた。土の魔術の一種だが、粘土のように形状を変えて鍵の形を把握し、鍵を開けることが出来る。

鍵が開けられたことが分かったのか、扉の向こう側で人の動く気配があった。

「失礼します。フィディック学院の教員をしている、アオイ・コーノミナトです」

そう言って、もう一度ノックをする。すると、今度は向こう側から扉が開かれた。わずかな隙間だが、それでも確かにソラレが扉を開いたのだ。

内心ホッとしつつ、隙間から顔を出す小柄な少年の顔を見た。確かに、ずいぶんと整った顔立ちだがエルフらしさはない。暗く赤い髪に黒い目、肌の色も透き通るような透明さはなかった。少年は怯えたように眉根を寄せて、体を小さくして扉の陰に隠れている。十六歳と聞いたが、中学生にしか見えない小柄さだ。この少年がソラレか。

「……え? あ、アオイ先生って……貴女が?」

何故か驚いた様子を見せるソラレ。それに首を傾げつつ、会釈をした。

「初めまして。アオイ・コーノミナトです。私のことを知っているのですか?」

そう尋ねると、ソラレは不安そうな顔で更に小さくなってしまった。

「……少しお話をしたいと思ってきました。部屋に入っても良いですか?」