作品タイトル不明
文化祭後半11 アオイの発表
「学院の魔女とは、私のことですか?」
他国の王族までそんな変なあだ名を知っているのか。そう思って聞き返したのだが、ロレット含め、全員がウッと呻いて一歩後方へ下がった。
「い、いや、申し訳ない。別に侮辱するつもりではなくてだな……」
「うむ、言いたいことは分かるぞ。ロレット卿……とても良く分かる」
焦った様子を見せるロレットに、ディアジオが小刻みに頷きながら何らかの同意を示した。それに首を傾げていると、アイザックが渇いた笑い声をあげて両手を広げ、前に出てきた。
「恐らくですが、大魔術師という意味で口にしたのでしょう。昔、グレン学長のことを学院の賢者と呼ぶ者もおりましたので……」
学院の賢者。そちらの方が好みだが、あだ名は自分で名乗るものでもないだろう。不承不承頷きながら、ミドルトンを見た。
「それでは、私はそろそろ行きます。もうすぐ中央広場で発表をしますので、そちらも是非見に来てくださいね」
さり気なく自分の発表の宣伝をしてから、皆に向かって一礼して踵を返す。さぁ、もう文化祭も終わりだ。最後に失敗などしないよう、きちんと準備をしておこう。
徐々に日が暮れてきた。赤い太陽に学院が照らされて、校舎も会場もオレンジ色に染まっている。その会場には見渡す限りの人で溢れていた。
最後の発表は中央会場だけで行う。その為、他の会場からも人が集まってきているのだ。生徒達の発表の時はグランサンズ王であるグランツが実演販売を行ったせいで人の集まりが悪かった。しかし、今は本人が最前列に来て仁王立ちしているので、その心配はない。
「……さぁ、皆に魔術の様々な可能性を教えましょう」
自らを鼓舞するようにそう呟き、私は両手を上に上げて体を軽く伸ばした。そのまま深呼吸をして、目を瞑る。
風の流れ、人々の呼吸や衣擦れの音、夕陽に照らされて僅かに火照る肌の感覚。
それらをじっくり感じ取りながら、目を開けた。
会場の奥から、中心へと歩いていく。すると、会場で聞こえていた人々の声もそれに合わせるように静かになっていった。中心に立つ頃には、すっかり静寂に包まれていた。
沈黙が支配する会場をゆっくりと見回し、人々の中に紛れ込んで手を振るシェンリーやアイル達に軽く微笑みを返す。
「……こんにちは。フィディック学院の教員をさせていただいております。アオイ・コーノミナトと申します。本日は、私の発表を見にきてくださり、誠にありがとうございます」
そう挨拶をして、深くお辞儀をした。ゆっくりと体を起こし、集まった人々を眺めながら口を開く。
「今日は、私が開発した魔術を二つ発表いたします。少し特殊な魔術の使い方になるかもしれませんが、見る分には面白い発表になると思っています。皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。それでは、発表を始めます」
発表の開始を宣言して、片手を前に出した。手のひらを正面に向けると、何人かは身を強張らせてしまった。
その様子を見てやり方を間違えたかなと思いつつ、もう遅いかとそのまま継続する。魔力を集中させて手のひらの前に水の魔術で水球を作り出す。その水球の温度を上げていき、次に風の魔術を発動させた。同時に二つの魔術を行使すると、会場の一部から驚きの声が上がる。
そのまま、水球を風の魔術で包み込むようにして流れを作り、循環速度を上げていく。周囲を竜巻のように風で覆い、中心に向けて圧縮した。あっという間に、ただの水球だったものが直径一メートルほどの水と風の竜巻に変化する。
球体内は瞬く間に静電気を溜めていき、外にまで放電を発するまでになっていった。激しい放電音を響かせると、会場から息を呑むような声が聞こえてきた。
今回は、更に大きく成長させようか。
そんなことを考えながら、手を上に挙げた。空中で徐々に大きくなっていく圧縮した雷雲。十分に静電気を溜めたか確認する為に、目を細めて頭上を見上げる。
激しい明滅を繰り返す球体を見て、ひとり頷いた。
「もう十分ですね…… 電光砲撃(トリトニスレイ) 」
小さく呟いて、魔術を行使する。
直後、夕焼け空を巨大な雷が引き裂いた。向けたい方向を指定していた為、周囲に広がることなく雷の奔流が一直線に空へと放たれる。
大型のドラゴンも墜落させることが出来る最大級の魔術である。迫力があり、見栄えも良い魔術なのだが、音が問題だ。
雷が発生すると、熱によって空気が瞬間的に膨張し、破裂音に近い轟音が鳴り響く。それは雷に近いほど大きな音となってしまう為、必然的に会場は耳を劈くほどの轟音が鳴り響いてしまうのだ。
予想通り、会場の人々は殆どが腰を抜かして座り込んでしまっていた。
「……前もって言っておくべきでした」
私は小さくそう呟いて、胸の内で反省する。