作品タイトル不明
文化祭後半7 発表【別視点】
生徒達の発表寸前、他の会場に行っていた人たちも集まって来た。グランサンズ王の実演販売の場にいた者たちの顔もあるようだ。
大々的な集客活動によって、気が付けばこれまでで一番多くの人が集まった気がする。結果に満足して、私も会場の端へと移動した。
カリラ達の姿は見えないが、恐らく目立たない場所から見ていることだろう。
【ティス】
最初はそうでもなかったのに、気が付けば広場は驚くほどの人だかりとなっていた。遠目からでも王族や上級貴族らしき人物がいると分かるが、そういった人物も他の見学者と同じく会場の前に並んで立っている。
「……不思議な町……いえ、不思議な学院ですね。普通なら、王族や上級貴族には席を設け、その前で発表を行うのが常識でしょうが……」
確か、この学院の長であるグレン学長は侯爵位を受けていたはずだ。貴族の世界に疎いわけでもない筈なのに、問題は起きないのだろうか。
「……この学院で育って、貴族としての常識は身に付くのでしょうか」
魔術以外の部分で不安が芽生えてしまった。元々の性格のせいか、何でも悪く考えてしまう。ストーン男爵家の先行きが不透明なことが原因なのかもしれない。結局、夫である現当主ではストーン家は存在感を発揮することが出来そうになかった。
情けないことだが、一番の希望は息子のディーンである。魔術師として大成してくれたなら、ストーン家はしばらく安泰となることだろう。それを裏付けるように、ディーンがフィディック学院に入学することが出来てから他の男爵家や子爵家から舞踏会等に招待されるようになった。今のうちに顔つなぎしておいて、ディーンが宮廷魔術師になった時に備えているのだろう。
カーヴァン王国ではそう簡単に爵位が上がることは無い。しかし、血統を重んじる分だけに、公爵や侯爵の子が大人になれば子爵以上にはなってしまう。つまり、男爵程度でゆったり構えていると、いつ爵位を剥奪されるか分からないのだ。
王国の財も土地も有限である以上仕方が無い。だからこそ、子爵以下の家は必死に功績を挙げようと走り回っているのである。だが、当主は結果を出せなかった。
そんな状況で、ディーンがフィディック学院に入学出来たことは大変な僥倖だった。カーヴァン王国内の魔術学院に入学する子はいくらでもいるが、フィディック学院に入れた子は年に何人もいない。
他の貴族だけでなく、王国としてもディーンへの期待は高くなる。つまり、ストーン家が男爵でいられる期間が延びた、という意味でもある。
後は、ディーンが魔術師としての実力を備えてくれたなら……。
祈るように、私は会場の奥で準備をしているディーンの姿を目で追った。
やがて、生徒達が一列に並び、こちらに向き直る。その空気から、少し騒がしかった広場が静まり返った。
その状態を確認するように細身の男子生徒が見渡し、口を開く。
「……皆さま、お集りいただきありがとうございます。コート・バトラーと申します。今回はアオイ先生の魔術概論を受講している生徒達合同での発表となります。魔術師であっても魔術師でなくても興味深く見られる発表と思いますので、是非とも最後まで見ていってください」
コートが発表の挨拶をすると、拍手が少しずつ起き始める。それに優雅な一礼をし、コートは一歩下がった。まさに、貴族然とした堂々とした態度と優雅な立ち振る舞いである。密かに、私の心の内に嫉妬の炎が宿るのを感じた。
彼は、確かコート・ハイランド連邦国の重鎮の子だった筈だ。生まれながらに揺るぎない地位と財を得て、最高の教育を施されて育ったのだろう。
うちの子とは違い、本物の上級貴族の子だ。その自信に満ちた姿を見ると、まるで自分たちが地を泥だらけになって這う鼠にでもなったような気分になる。
どんどん暗く、落ち込んでいく気分を自覚しながら、私は会場を見続けた。
「これは新しい魔術であり、この学院でもアオイ先生以外に使うことの出来ない魔術である。残念ながら、その魔術の最も優れた使い手にはなれなかったが、数少ない一人にはなれたことを幸運に思う。それでは、始めよう」
最後に、この国の王子であるロックスが発表の開始を宣言した。これも、まるで生徒とは思えない威風堂々とした態度である。だが、あれだけ自信に溢れたロックスでも一番ではなかったのか。それならば、やはり一番の使い手は先ほどのコートだったのか。
そんなことを思っていると、頭一つ分以上小柄な男の子が前に出てきた。
ディーンだ。
驚いて声にならない声を発していると、ディーンは今まで見たことがないような真剣な顔で口を開いた。
「……電気というものを、皆さんはご存じでしょうか。電気は様々なものに含まれております。しかし、水の魔術で精製する水には含まれておりません。この水に風の魔術を加えて、空気中の塵芥を混ぜ込みながら激しい回転を加えることで、電気を発生させることができます。僕個人の感覚にはなってしまいますが、この水の回転体の中では小さな物と物がぶつかり合い、電気を作り出していると思っています。この電気を内側に内側に集めていくと、雷鳴を発する雷へとなります……それが雷の魔術です」
ディーンがそう口にしてから魔術の詠唱を開始すると、皆が一斉に魔術の詠唱を始める。そして、一番にディーンの詠唱が完了した。
「…… 雷玉(エレクトリックボール) 」