軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

文化祭19 決闘3

それだけ口にして、ラムゼイが再び地を蹴る。今度は工夫を凝らしたのだろう。真っすぐに向かってくるのでは無く、自分から見て右側へ一気に移動した。視界から姿を消して、次の行動を予測させないつもりだろう。

僅かな間に良い回答を導き出している。戦いの経験が豊富なのは間違いないだろう。しかし、まだまだ甘い。

「…… 身体強化(リーンフォースメント) 」

魔術を素早く発動し、全体の強化を図る。そして、誰もいない前方へと二歩分進み、振り返る。

直後、風を切る鋭い音がして目の前を大きな拳が通過した。

「……一度も視線を向けずに躱すのは、どういう魔術によるものだ?」

信じられないものを見るような目でこちらを見て、ラムゼイが尋ねる。それに軽く頷き、答えた。

「正面からがダメなら左右か背後から……この選択もまだまだ素直過ぎます。そして、せっかちな性格から隙があると判断したらすぐに攻勢に出てしまう、と。これに関しては私の予測によるものでしたが、大当たりでしたね」

挑発も兼ねてそうアドバイスを送ると、ラムゼイが初めて悔しそうな表情で眉間に皺を寄せた。腰を落として臨戦態勢をとると、目を見開いて顎を引く。

「次は本当に全力でいく。死なないように防げ」

「では、私も反撃をするようにしましょう。死なないでくださいね」

売り言葉に買い言葉ではないが、ラムゼイのセリフに合わせて返答する。それに目を瞬かせてから、ラムゼイは笑い、地を蹴った。今度は流石にすぐには突撃してこないだろう。そう思った私は、十分に魔力を込めて魔術を行使する。

「…… 石槍衾(ロックスパイク) 」

口にした瞬間、私の周囲を囲むように太い丸太のような巨大な石の槍が突き出た。接近していれば回避は難しいだろうし、機を窺っていた場合は足を止めることになる。

そう思ったのだが、すぐ目の前で石の槍が打ち砕かれて、予測を修正する。

「こんなもので止められると思うな!」

怒鳴り、ラムゼイが突進してきた。拳を振るうだけで石の槍が砂の塊のように砕かれている。あれは、単純な力や速さの強化ではなさそうだ。とはいえ、消去法でどのような魔術か想像はつく。

「…… 柔らかい壁(テンダウォール) 」

素早く次の魔術を発動して、その予想が当たっているか確認を行う。

魔術名を口にした瞬間、周囲に薄い膜のような壁が覆った。その膜に向かって、ラムゼイが拳を振るう。だが、薄い膜は分厚いゴムのように衝撃を吸収し、形を変えただけでとどまった。

驚愕して動きを止めるラムゼイを見て、私は次の魔術を発動する。

「…… 黒刀(クロヌリノタチ) 」

魔術を行使した瞬間、地面から黒い刀が現れる。土の魔術を用いて地中の鉱石を集め、強度に特化した刀を作成したのだ。

その刀を手に、私はラムゼイを見やる。

「それでは、反撃をいたします」

そう告げてから、刀を正眼に構えた。何かを感じたのか、ラムゼイは後方へと跳躍し、大きく距離を開ける。

それを確認して、すり足で前進した。先ほどの素早い動きを想定して、体の中心から手を離し過ぎないように気を付ける。

徐々に距離を潰していくと、ラムゼイが焦れたように右、左と移動して距離感をぼかしにかかった。だが、間合いを何よりも重視する剣道において、そんな小手先の工夫は無意味だ。

正眼に構えたら、剣先は常に相手の顔に向ける。体の重心は崩さず、出来る限り脚運びのみで対象が正面になるように動く。この動作、間合いの取り方は長年剣道をしていれば嫌でも身に付くものだ。

更に、相手が動かなければ下段や脇構えでわざと先手を譲ったり、距離を取ろうとする場合には上段に構えて圧力をかける。

打ち合う前段階で、様々な心理戦が行われている。

そんな戦い方の経験はないのか、ラムゼイは攻めあぐねて動けずにいた。

「もう、私の間合いに入りますよ」

十分に距離を潰した私が一言そう告げると、ラムゼイは弾かれるように飛び出した。攻めるイメージが湧かなかったのか、それとも最も自信のある手法に縋ったのか。ラムゼイは最後の最後に真正面から殴りかかって来た。

だが、正眼の構えは最も防衛力が高い。正面から伸びてくる拳を、黒刀の背で下に落とした。それを予期していたのか、ラムゼイがもう片方の手を伸ばしてくるが、それは刀の鍔元で軌道を変えるように逸らせる。

両拳を防いだ。そう思った瞬間、ラムゼイの右足がこちらへ突き出された。通常なら蹴りを放てるような態勢ではない。優れた体幹とバランス能力だ。上半身を無理やり引くことで、脚を前に突き出すことが出来たのだろう。

咄嗟にそんな動きが出来ることは称賛に値する。

「……っ!」

何とか、刀の腹で蹴りを受けた。大型の魔獣の一撃を受けたような衝撃を受けつつ、後方へ弾かれる。

態勢を整えながら、ラムゼイがこちらに鋭い目を向けた。攻撃の機会を見逃さない、野性的な直観だ。

しかし、如何せん距離が離れすぎている。地面に足が着く前に、私は最後の魔術を行使した。

「…… 白銀の盾(イージス) 」

ラムゼイが恐ろしいまでの勢いで突進してくる中、目の前に光り輝く白い盾が出現する。その盾に衝突した瞬間、ラムゼイは激しく弾き飛ばされてしまった。地面にめり込むような勢いで吹き飛んだラムゼイは、ボールのように地面を二度三度と転がっていく。

二人の戦いに息を呑んでいた観衆たちも、その光景には驚きの声を発する。

地面に大の字なったラムゼイは全く動かない。

「……癒しの魔術が必要ですか?」

魔術を解除してそう尋ねると、地面に寝転んだままのラムゼイが寝たまま口を開いた。

「……不要だ。大して怪我もしておらん」

それだけ呟くと、言葉通りラムゼイは自然な動きで立ち上がった。軽く埃を払い、こちらに体の正面を向けて腕を組む。

「俺の負けだ。清々しいまでの完敗である!」

怒鳴るようにそう宣言すると、一瞬の間をおいて広場が大歓声に包まれる。拍手と歓声を浴びながら、ラムゼイは私を見下ろした。

「まさか、全力でぶつかって真っ向から負かされるとはな。強大な魔術だけでなく、恐るべき剣の技術だ! 一度、魔術無しで戦ってもらいたい!」

ラムゼイは一方的にそう称賛すると、顔を上げて豪快に笑いだした。

まったく、面白い男である。

発表が終わり、広場から出ようとすると、テンションの上がったアイル達に呼び止められる。

「アオイ先生、凄い!」

「ラムゼイ侯爵に勝つなんて!」

キャアキャアと甲高い声援を聞きながら、私は広場から出ようと歩く。

「ありがとうございます。あ、ちょっと外へ行かせてください。ディーン君のお母さんを待たせてますので」

そう言いながら会場を出ようとするが、今度は上機嫌のミドルトンに捕まる。

「素晴らしい戦いであった! 感動したぞ!」

「そうですか。ありがとうございます」

「うむ! 今度、我が国の近衛騎士と戦ってみてもらいたいがどうだろうか?」

「いえ、それは遠慮しておきます」

軽くあしらいながら、何とか皆の声を振り切って広場を後にする。