軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

文化祭17 決闘1

広場の真ん中で準備運動がてら岩を素手で砕いているフェルターの姿が目に入った。

「申し訳ありません。遅れました」

飛翔魔術で人垣を飛び越えて広場に降り立ち、フェルターに謝る。これも発表の一部と思ったのか、観衆から拍手が起きた。

フェルターは大きな岩を拳で砕くと、鼻を鳴らす。

「大丈夫だ。準備運動の時間としては丁度良い」

フェルターがそう言って片手をぐるんと音を立てて回した。

その時、広場の左手奥側の人垣が勝手に割れて通路が出来た。その通路を、軽装な革鎧を着た金髪の男が通ってくる。

「その意気や良し」

歯を見せて獰猛に笑う、フェルターに良く似た男。ラムゼイだ。ライオンのたてがみのような髪を揺らし、ラムゼイは真っすぐに向かってくる。

人垣の前には白いドレスを着たフィオールの姿もあった。フィオールは困ったように笑いつつも、ラムゼイの決闘を止める様子は見せない。

その姿に、観衆の誰かが驚きの声を上げる。

「ラムゼイ侯爵だ。ブッシュミルズの番人が来たぞ」

「合同での発表か?」

ヒソヒソとそんな声が聞こえてくるが、ラムゼイは聞こえてもいない様子で笑っている。

広場の中心近くに来ると、フェルターもラムゼイを睨むように見て拳を握った。一触即発といった雰囲気が空気として伝播しているのか、観衆たちも瞬く間に静まり返ってしまう。見回すと、観衆の中にはミドルトンとレア、グランツ、ロレット、アイザックたちの姿もあった。そして、ディアジオは何故かフェルターとラムゼイのことを同情のこもった目で見つめていた。

そんな観衆を見回してから、ラムゼイは口を開く。

「皆の者! これから、フィディック学院に通う息子の発表を行う! しかし、ただ魔術を披露して終わりでは面白くないであろう! 故に、これから模擬戦をやろうと思う! 内容は簡単である! このラムゼイ・ケアンに、フィディック学院の上級生であるフェルター・ケアンが勝てるのか!? そして、噂の上級教員、アオイ・コーノミナトは俺に勝てるのか!?」

怒鳴るような宣言をするラムゼイ。それに観衆たちも釣られるように「おお!」と興奮した声を発した。

「……フェルター君の発表というより、ラムゼイさんの発表になってますが」

冷静にそう突っ込んだが、フェルターから首を左右に振られてしまう。

「あの男は人の言葉を聞かない。どうせ戦いたいだけだからな。こちらとしても正面から殴り倒せるなら願ったり叶ったりだ」

「……似た者同士ですね」

フェルターの言葉に溜め息を吐き、感想を述べる。だが、気合十分のフェルターも人の話を聞かずに拳を振って動作の確認をしていた。

その様子を見て、観衆は更に盛り上がっている。それを受けて笑い、ラムゼイが魔術の詠唱を行った。

身体強化の魔術だ。それも、完全に速度に特化したものである。身体能力は勿論だが、反射速度も大幅に強化している。私が想定する身体強化の魔術に非常に近い考え方で構成されているように感じた。

だが、それならフェルターの身体強化の魔術も良い勝負をするだろう。時間が足りずに全体の強化までは伝えられなかったが、フェルターも弱体化のしない身体強化の魔術を行使出来るようになったのだ。

「速度と力で良いだろうか」

「そうですね。相手は完全に速度に特化しています。同じような強化をしても相手の方が経験が多い分不利になるでしょう。それなら、当てれば勝てるという考えのもと、身体強化を行いましょう」

「分かった」

私の言葉に、フェルターは素直に頷き、詠唱を始めた。

私に弟子入りしてからというもの、フェルターとは何度も模擬戦をしている。殆ど自己流だった、野生に任せたような戦い方も一部改めさせている。見て避ける、見て殴る。そんな戦い方では能力的に相手が己を上回った時、あっさり倒されてしまうだろう。

格闘技とは、そのような考え方ではない。私が打ち込んできた剣道もそうだが、弱い者が強い者に勝つ為に存在しているのだ。

その極意は単なる力や速度に負けるものではない。

「自分を信じてください。私と戦った経験は、必ず貴方を強くしています」

フェルターの目を見てそう告げると、ぐっと口の端を大きく上げて、フェルターが笑みを作った。

「……任せろ」

詠唱を終えたフェルターがそう言って一歩踏み出すと、こちらの準備を待っていたラムゼイが歯を見せて笑みを返した。

「やるか、小僧」

「ぶん殴ってやるぞ、爺」

二人は憎まれ口を叩き合うと、同時に自らの拳と拳を打ち付けて気合の声を上げた。

それを合図にして、二人が地を蹴って飛び出す。その速度に、広場にどよめきが起きた。風のような速さで二人が交錯し、また距離をとる。

拳を打ち合う音と地面を蹴る音が鳴り響く中、私は冷静に二人の戦力を分析する。速さはラムゼイが上だろう。力は、正直同等だ。魔術で五割は筋力を強化したはずなのに、ラムゼイを完全に上回ることが出来なかった。まさか純粋な筋力量でそれほどの差があるわけではないだろう。恐らく、身体強化で足を強化し、踏み込みと重心移動で破壊力を増やしていると思われる。

つまり、ラムゼイは高い戦闘技術を持っているということだ。

だが、一般の観衆にそんな知識は無いだろう。ただただ、二人の高速での戦闘に驚愕し、歓声を上げている。

と、牽制しながら距離を詰めずにいたフェルターの間合いに上手く入ったラムゼイが、肘を直角に曲げて鋭い右フックを放った。フェルターの横っ面を殴ろうとしたラムゼイの一撃を、フェルターは肩で受けて防ぐ。

しかし、走り込んできたラムゼイの速度と体重が乗った一撃に、フェルターの足が地面を滑り、一、二メートルほども横に体が流れた。

「どうした、フェルター! もう終わりか!?」

ラムゼイがフェルターを叱咤しながら更に追撃を狙って走り込む。接近戦を得意とするボクサーのような滑らかな動きだ。

だが、そんな状況をフェルターは何十回と経験している。

「甘いですね」

私が誰にともなくそう呟くと、まるで指示を受けとったようにフェルターが足を開いて体を反転させた。

追撃しようとするラムゼイに振り向いて真っ向勝負するわけではなく、ラムゼイから見て体を斜めにし、一歩後ろに下がるようにして距離をとった。

予想外の動きにラムゼイの拳は空振りして無防備な態勢となり、逆にフェルターは最高の態勢と距離感で拳を構えている。

「死ね!」

フェルターはかなり物騒な怒鳴り声をあげて、ラムゼイの顔面に向かって拳を伸ばした。