作品タイトル不明
情報屋
「こんにちは」
路地の裏口からアーリーに言われた店に入ると、行儀悪くテーブルの上に足を上げて椅子に座るカリラがいた。カリラは木のジョッキのような容器を傾けて何か飲んでいたのだろうが、口元から赤い液体がダラダラとこぼれてしまっている。
目を丸くして私を見ると、カリラはテーブルから足を下した。
「な、な、なんだよ、突然……お、驚くじゃないか」
驚くカリラの顔を見つつ、周りの様子も窺う。広くはないが、カウンターもあるバーのような店だ。少し薄暗いが、雰囲気は悪くない。カウンターの奥には細身の背の高い男がおり、何か飲み物を作っているようだった。
「良いお店ですね。雰囲気が落ち着いていて考え事に向いていると思います。ちなみに、ここはネヴィス一家の所持するお店ですか?」
尋ねるとカリラは困惑しながらも頷く。
「あ、ああ。隠れ家としても使っているし、飲み屋としても稼いでるよ」
「なるほど」
そう言って、もう一度カリラとカウンター奥にいる店主らしき人物を眺める。若干、視線が泳いでいるような気配を感じて、眉根を寄せた。
「……何か、悪巧みをしてましたか?」
「ぶふっ」
探りも何もなく、直球で確認する。予想外だったのか、カリラは再度口にジョッキを運んで噴き出した。
「な、なにもしてねぇよ! なんでいきなり疑ってくるんだ!?」
と、カリラは更に動揺してみせた。少し怪しいが、確かに証拠があるわけでもない。
「そうですか。ちなみに悪巧みではない商売とかを考えていたのなら、それについても教えて欲しいのですが」
そう告げると、カリラはカウンターの奥にいる男を一瞥し、顎を引く。一瞬何か考えていたようだが、すぐにこちらを振りむいた。
「……まぁ、普通の商売だからな? 悪巧みとかじゃねぇぞ?」
「はい、分かっています」
かなり警戒している様子のカリラが目を吊り上げてそう前置きし、また口を開く。
「今、フィディック学院で文化祭があるから、色んな国から商人が来てるだろ? そんな時は情報も売れるし、表だって商売してない奴らと引き合わせれば売り上げの一割は取れるんだよ。まぁ、稼ぎ時ってやつだな。あ、奴隷に関しては関わってないからな? 盗品も扱ってないぞ?」
「そこは疑っておりません。もちろん、発見した時は色々と考えなくてはいけませんが……」
「だから、言い方が怖いんだよ!」
釘を刺しておこうと一言付け加えたら予想以上に効果があった。カリラは急に背筋を伸ばしてピシリと椅子に座りなおす。
それを見て、カウンター奥にいる男がフッと息を漏らすように笑った。
「まったく、カリラの言った通りだな」
「うるせぇよ、ガイヤ」
カリラは舌打ちをしてカウンター奥の男に文句を言う。どうやらガイヤという名前らしい。ガイヤはカリラに肩を竦めると、こちらを振り向いた。
「あんたがアオイって教員だろ? 噂はかねがね」
「……どうも。ガイヤさん、でよろしいですか?」
名を確認しておく。すると、ガイヤは面白いものを見たような目で私を見た。
「ああ、構わないさ。それにしても、噂では暴君とか魔王とか魔女とか散々な言われようだったが、実際に会うと想像とは違ったな」
「……カリラさん?」
ガイヤの言葉に、カリラを振り向く。カリラは首の骨が外れそうなほど勢いよく首を左右に振っていた。
「違う違う違う! 俺が言ったんじゃねぇよ! このガイヤってのは街の裏側の情報に滅法詳しいんだ! おそらく、他の組織の奴らだ!」
必死に弁明するカリラを見て溜め息を吐き、ガイヤを見る。
「つまり、ガイヤさんは情報屋、みたいなお仕事をされているのですね」
「その通りだ。ちなみに、昨日の情報ならどこの奥さんが浮気をしたかなんて小さなものまで知り尽くしてるよ。何か聞きたい情報があれば何でも聞いてくれ」
と、ガイヤは腕を組んで笑った。かなりの自信だ。
「それでは、何かあった時はお願いいたします」
そう言って会釈すると、ガイヤは軽く頷いて微笑む。
「任せてくれ。噂の学院の魔女に頼られるってのも悪くない」
「おいおい、営業はまたの機会にしてくれ」
会話がひと段落したのを見計らって、カリラが口を挟む。
「今は先客の仕事を済ませろよ」
カリラが文句を口にすると、ガイヤは苦笑して肩を竦めた。
「ああ、各国の要人の居場所か。とりあえず、ヴァーテッド王国の国王とグランサンズ王国の国王、ブッシュミルズ皇国の侯爵、カーヴァン王国の公爵は既に街の中にいる。コート・ハイランド連邦国は代表同士が揉めて遅れてしまったらしい。メイプルリーフ聖皇国は明日か明後日には到着するだろうな」
スラスラと語るガイヤにカリラが軽く頷く。
「なるほど。それなら今回はかなり儲けられそうだな。辛い商売をするコート・ハイランドが来る前に荒稼ぎしておこう」
上機嫌にカリラがそんなことを言うが、私はガイヤの情報収集力に目を見張っていた。なにせ、ミドルトンとラムゼイが到着したのは今朝のことだ。まさか門番から一時間ごとに情報をもらっているとでもいうのか。
目を瞬かせながら見ていると、それに気が付いたガイヤが不敵な笑みを浮かべたのだった。