作品タイトル不明
天変地異の犯人
放心したジェムと会話にならない会話をしていると、王城からの使いが来たと連絡があった。
「何事でしょうか」
「いや、間違いなくアオイ殿の魔術に関してだと思うが……」
アラバータとそんなやりとりをして、仕方なく皆で王城に向かうことにする。ジェムは呼ばれていなかったようだが、話の続きもある為そのまま王城に連行することにした。
何故か一切抵抗しないジェムを連れて謁見の間に通されると、疲弊した顔のメイプルリーフ皇帝、ディアジオの姿があった。周りには完全武装の騎士たちと魔術師が列を為して待機している。
私は先頭に立って謁見の間の中央まで歩き、片膝をついた。
「何か御用でしょうか?」
顔を上げてそう尋ねると、陛下の前にいた宰相がビクリと肩を震わせる。ディアジオはそれを横目に見て溜め息を吐き、片手をあげた。
「いや、ちょっとした確認をしたかっただけでな。先ほど、神話で神の 雷(いかずち) と謳われるような不可思議な稲光があった。極稀に、この聖都の上空で四方に広がるような稲妻が目撃されたことがあるが、今回王城まで聞こえてきた話はそんな類のものではない。前兆も無く、轟音を伴って稲妻が一直線に西の空へと奔ったらしい……貴殿の魔術か?」
「はい。先ほど、シェンリーさんに雷の魔術について教えておりました。申し訳ありません。そんなに大騒ぎになるとは」
ディアジオの言葉に素直に謝罪をした。すると、ディアジオが宰相を見る。
「みろ、やはりそうだっただろう。それほど怖がるなら最初からアオイ殿に確認をしてから連れてくれば良かったのだ」
ディアジオは宰相に溜め息交じりにそう告げると、こちらに向き直った。
「突然だったのでな。こやつが天変地異だと騒いでおったのだ。余は最初からアオイ殿の魔術に違いないと思い、ここに呼ぶように言ったのだがな。しかし、驚いた。今度からは事前に連絡をしてもらいたいぞ」
苦笑しつつそう口にしたディアジオに、私は「承知しました」と頷いて答えた。
それを確認して、ディアジオは私の後ろに並ぶ面々に目を向ける。
「……それにしても、珍しい組み合わせであるな。アラバータは勿論、そこにいるのはシェンリーとローゼンスティール子爵か。おお、そうか。親子でアオイ殿の魔術を見学でもしていたのか? しかし、何故ここにジェム副魔術師長が同行しているのだ」
名を呼ばれて、ジェムは体を固くする。頭を下げる格好のまま冷や汗を流している様子のジェムを見ていると、地面についた手を震わせて、ジェムが顔を上げた。
「……陛下。私は、私は……」
急に老け込んでしまったようにジェムは掠れた声で小さくつぶやく。その様子に、ディアジオも眉根を寄せた。
可哀想なほどに小さくなってしまったジェムを見て、私は失礼を承知で横から口を出す。
「……陛下」
私が口を開くと、ジェムが短く息を吸った。
「む? アオイ殿と関係があるのか」
私とジェムの態度、二人の空気を察してか、ディアジオは若干険しい表情となる。それに頷き、答えた。
「はい。実は、私がシェンリーさんを連れてフィディック学院に戻ると聞き、ジェムさんが魔術を教えてほしいと……ちょうど聖都にシェンリーさんの家族であるローゼンスティール子爵とカティさんもいらっしゃったので、ジェムさんの邸宅で魔術の見学会をしておりました」
咄嗟にそんな嘘を吐くと、ジェムとオルドがこちらを見る。ディアジオは首を傾げつつ、ジェムとオルドを見た。
「ふむ……余はてっきり両者がアオイ殿を怒らせて、文字通り雷でも落とされたかと思ったが、そんなことは無かった、ということか」
「……は」
ジェムは答えられず、かろうじてオルドがそれだけ発した。その様子にアラバータが困ったような顔で顎を引き、ディアジオに頭を下げる。
「恐れながら、陛下。すでにアオイ殿が最上級の要人としての待遇を得ていると聖都の貴族には周知しております。尚且つ、公式ではありませんがアオイ殿と敵対するような行動は絶対に慎めと一文も添えております。その状況で、王家の勅命に逆らってまでアオイ殿を怒らせるとは、国外追放も覚悟の行動でしょう。そんなことを長年王家に仕えてきた二人が行うでしょうか」
と、アラバータは仰々しく二人を庇った。流石は近衛騎士団の要職である。とても説得力のある言い訳に聞こえた。
これにはディアジオや宰相も顔を見合わせて頷くしかない。
「確かにな。では、分かっていると思うが、もう一度だけ念を押しておこう。アライド」
名を呼ぶと、宰相が咳ばらいを一つして、階段上からジェムとオルドを見下ろした。
「陛下より勅命を。フィディック学院の上級教員であるアオイ・コーノミナト氏は今後、メイプルリーフ聖皇国の魔術発展に大きく寄与してもらう重要人物である。最大限の協力体制を構築していく為、王家だけでなく聖皇国に所属する貴族も同様にアオイ殿を援助していく。当たり前であるが、これは王家の勅命故、逆らうことは国家反逆罪に問われることとなる。双方、理解はされているか」
宰相が厳かにそう告げると、ジェムとオルドは片膝をついたまま肯定を示す返事をしたのだった。