作品タイトル不明
魔術披露
まさか簡単に手の内を明かすとは思わなかったのか、オルドは戸惑いながらも中庭に出るように言ってきた。だが、流石にいくら広いといっても中庭では色々と設備を破壊してしまう恐れがある。
私は街道で魔術を使いたいとお願いをした。
街道に出ると、子爵家の騎士団や魔術師団がオルドを囲むように並ぶ。オルドの隣には敵意を剥き出しにしたカティの姿もあった。どうやら、中庭ではなく街道にまで呼び出したことでオルド達の警戒心を強めさせてしまったようだ。
「……言っておくが、こちらに被害が及ぶような魔術を行使した場合、敵対行動とみなす」
「そんなことしませんよ」
オルドの的外れな脅しに苦笑しながら、私は街道の中心に立って周りを見回す。怯える兵士もいれば、あからさまに馬鹿にしたような顔の魔術師もいる。中には魔術に興味を持った様子の若い者もいた。
そんな観衆を見て軽く息を吐き、肩の力を抜く。
「それでは、まずは火の魔術を」
そう言って、片手を空に向けて持ち上げた。一気に場の緊張感が増したのが分かるが、気にせずに口を開く。
「 地獄の業火(インフェルノ) 」
一言呟いた瞬間、私の手のひらの上に拳大の火の玉が出現する。それに周りから苦笑したり吹き出して笑うような声がしたが、次の瞬間、それは悲鳴に変わった。
まるで空間を侵食するように燃え盛る炎が空に広がったのだ。一気に周囲の温度をサウナのように引き上げ、炎は上昇気流を伴いながら空へ空へと昇っていく。
本来なら炎は手のひらの向く方向へ好きに動かせるのだが、今はこれくらいで良いだろう。
そう判断して、炎を途中で消した。周りを赤く染めて照らし出していた炎がパッと消失し、空には大きな穴が開いた雲があった。まるで空に湖が出来たようだなどと思いながら、私は周囲に視線を戻す。
周囲の状況を確認すると、先ほどまでの空気は完全に消し飛んでいるのが分かった。笑っていた兵士や魔術師は顔を引き攣らせている。興味深そうに見ていた者も顔色を真っ青にして震えていた。
そして、肝心のオルドは眉間に皺を寄せて動かないでいる。カティは目を丸くしていたが、一先ず全て披露してしまった方が早いだろうか。
「次に、水の魔術を…… 白い貴婦人(ホワイトレディ) 」
魔術を行使した瞬間、私の頭上に高さ十メートルに達する局所的な豪雪が発生する。雪は渦を巻くように吹き荒れ、中心に集まっていった。そして、まるでドレスを着た女性のような形が薄っすら浮かび上がる。
白い雪の中に現れた巨大な人型の何かに皆が目を奪われる中、周囲の温度は一気に冷え切っていった。
そして、白い貴婦人は片手をゆっくりと振った。途端、中心に集まっていた雪は無数の氷柱となり、散弾銃のように周囲に放たれる。街道から逸れて遠く原っぱの方角、氷柱は次々に打ち出された。地響きを伴って氷柱が地面に突き立ち、まるで巨大な剣山にも似た光景を作り出す。
城壁も貫通する威力の氷の弾丸を見て、観衆は声を出すことも出来ずに固まってしまった。
こうして、土の魔術や風の魔術も披露していき、最後に癒しの魔術を披露することとなる。
ここまでの段階でもう十分色々と見せることが出来た筈だが、メイプルリーフは癒しの魔術に異常なほど執着している。ならば、癒しの魔術も披露しておいた方が無難だろう。
「さて、最後に癒しの魔術を行いますが、誰か怪我をしている人はいませんか?」
そう尋ねると、自然と皆の視線がマントを着けた髭の騎士やオルドの方へと集まる。
「……君は、本当に報告にあった通りの癒しの魔術も使えるというのか」
オルドが若干掠れた声でそう口にすると、今度は私に視線が集まった。どうやら、オルドはカティか誰かに報告は受けていたらしい。つまり、こういった面でもジェムと同様に自分が理解出来ないこと、自身の常識外のことについては嘘やデマカセと思い込んでしまっているに違いない。
私は真っすぐに目を見て頷いてみせた。
「はい。バルブレアさんやアウォードさんには高評価をいただけたと思いますが」
答えるとオルドは何か言いそうな素振りを見せて、また口を閉じた。どんな言葉を飲み込んだのかは分からないが、どうやら色々と葛藤しているらしい。
と、押し黙ったオルドに変わってカティが口を開いた。
「……嘘よ! いくらなんでも、癒しの魔術まで……!」
怒鳴りながら私の言葉を否定するカティ。それに首を傾げつつ答える。
「お二人からは聖人、聖女と同等の魔術であると認めていただきました。それはご本人に確認していただいて結構です。そして、私の癒しの魔術は誰でも使えるようになるものです」
そう答えると、カティも何も言えなくなり、辺りを沈黙が支配したのだった。