軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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まさか、ローブの人物が殿下とは思わず、まじまじと殿下を見つめてしまう。

対する殿下は嬉しそうに目を細めて、私の髪の毛を優しく撫でた。

「今日、キャロル嬢が来たのだろう?何かされなかったか?」

「えっ、えぇ。アンナさんとは色々お話をしただけですので⋯⋯」

殿下は私の答えに胸を撫で下ろし、「良かった」と安心したように微笑む。

「先日私が大教会を訪問した時、彼女の様子がおかしかったから。

キャロル嬢が君に危害を加えたらと思うと、ジッとしてられなくてね」

「ご心配をおかけして、本当に申し訳あ⋯⋯」

そんなにも殿下は私を心配していたんだ。

それなのに、アンナさんに会うと言う報告しかしなかった自分が申し訳無く思う。

謝ろうと口にした言葉は、殿下の指によって遮られた。

私の唇に、殿下の人差し指がそっとあてられた。

それはまさに、それ以上は言わなくて良いと言っているようだ。

だが、目の前に殿下のお顔。

そして私の唇に殿下の指⋯⋯。

そう意識すると、急にドキッと心臓が速く動き始める。先程から、殿下との距離が近い事で恥ずかしいと言うのに。

殿下はそんな私に気付いているのだろうが、何も言わず、眉を少し下げて首を横に振る。

「私が勝手にした心配で、君が謝る必要はない。

⋯⋯ただ、何かあったらキャロル嬢が聖女であろうと、容赦はしなかったけどね」

にっこりと微笑みながらも、その瞳が冷たく凍っていく様を間近に見て、思わず背筋が凍る。

先程までの頬の熱が一気に冷めるようだ。

ヒッ、と叫びそうになった声を飲み込み、引きつる頬を何とか笑顔に戻す。

何か、何か話題を変えよう。

⋯⋯えぇ、そうね。何か、何か。

「とっ⋯⋯ところで、大丈夫だったのですか?

我が家に来た事が陛下のお耳に入ったら拙いのでは」

「大丈夫だよ。今日ここに来たのはエルネストとその友人。私は城の執務室にいる事になっているからね」

「お仕事の方は⋯⋯」

「あぁ。三倍速で今日の分は終わらせて来たから大丈夫。少し時間がかかってしまったから、来るのが夕方になってしまったが」

そう言うと、申し訳なさそうに眉を寄せた。

そして殿下は後ろを振り向くと、エルネストへと視線を向ける。

急に振り返った殿下に、先程まで気まずそうに視線をウロウロさせていたエルネストの背筋がピンっと伸びる。

「エルネスト、お前にも無理を言ってすまなかったな」

「いえ。あの、俺は⋯⋯」

「あぁ。そんなに時間は取らせない。外で待っていてくれ」

「はい」

殿下の言葉に、エルネストは若干ホッとしたように安堵の色を見せた。そして、私へと目配せをした後に、扉の方へと向かった。

それを見送りながら、殿下は私の腰に手を当てると、先程まで二人が座っていたティーテーブルまで誘導した。

席に着くとすかさず、サラがエルネストのカップをワゴンに片付けて、私と殿下に新しく紅茶を入れてくれた。

カップから立ち上る湯気と香りにホッと一息つきながら、その紅茶に口を付ける。

すると、今日一日ずっと気を張り続けていたようで、急に肩の力が抜けるようだ。

そんな私の様子を殿下は嬉しそうに、ただ微笑みながら眺めていた。

そして私がカップをテーブルに置くのを待ち、口を開いく。

「それで、キャロル嬢の話とは?」

「えぇ。そうですね⋯⋯詳しい事は、その」

「あぁ。勿論言える範囲で良いよ。

キャロル嬢が私に話していない事は、言いにくいだろう。私が知るべきことだけで良いよ。後は本人が話すかどうか、かな」

殿下は、私がどこまで殿下に話をすれば良いのか悩んでいる事を、あっさりと理解していた。

それに思わず目を見開くと、私を安心させるようにニッコリと微笑む。

「そうですね。では、アンナさんは目的があって殿下との婚約を望んでいたそうです。

ですがその目的は果たされないようなので、婚約はしないと陛下に伝える。そう仰っていました」

「⋯⋯そうか。その目的はラシェルは聞いた?

あぁ、内容は言わなくていいよ。聞いたか、聞いていないかだけで」

「聞きました。誰かに話したかった、と」

私の答えに殿下は、「そうか」と一言返すと、暫く難しい顔をして黙り込んだ。

そして目の前の紅茶に口を付けると、ふぅっと小さく息を吐く。

「陛下が聖女との婚約を簡単に諦める筈が無いな」

「やはり、そうですか⋯⋯」

「だが、私だってそうだ。

君を私の妃にする事を諦める筈が無いだろう?」

殿下は眉間に皺を寄せながら、決意を固めた力強い瞳を私へと向ける。

「陛下とは一度話をしなければならないな。

その辺は私に任せてほしい」

「はい」

「⋯⋯本来なら王太子の座を弟に譲り、王族から出る方法だってあるのだろうな」

殿下は切なげに眉を下げると、弱々しくポツリと呟いた。

だがそれよりも、今の殿下の言葉。

これは私を想っての事だと分かる。

殿下は私を王家に、王妃にと望む事をどこか後ろめたい気持ちが無くならないのだろう。

きっと王家に、そして第一王子として生まれた殿下にとって、その窮屈さを肌で実感しながら生きてきたから。

それを私に背負わせることになる事を、殿下は悩み続けているのだろう。

⋯⋯でも、これは私の決めた事。

殿下だけの問題ではないのだから。

「いえ、そのような方法はありません。

私は殿下の隣に立ちたいのであって、殿下の目指す未来を奪いたい訳ではありません」

キッパリと伝えた私に対し、殿下は息を飲むように目を見開いた。

そして右手で目元を覆うと、力なく「ははっ」と声を漏らした。

「そうだったな⋯⋯君は本当に強くなったよ」

目元を覆っていた手を殿下が退けると、そこにはもう弱さを見せた殿下の姿はなかった。

そして、光の宿った瞳で私を見つめた。

「最後に聞くが、本当にいいんだね?

私がすることは、陛下と対立する事になる可能性さえある」

「構いません。

あなたが私を信じてくださるように、私も殿下を信じていますから」

迷う事なんてなく、私は殿下のその視線を逸らさずに受け止め、答えた。

「⋯⋯困ったな、ラシェルはこんなにも可愛いのに。

更に眩く美しくなっていくな」

「なっ、殿下!」

殿下はその蒼い瞳で、私の全てを捕らえるかのように真っ直ぐ貫く。

そして、目元を綻ばせて妖しく瞳を煌めかせる。

殿下のその薔薇の香りを漂わせそうな雰囲気に、思わずクラッと酔いしれそうだ。

「他の男には見せたくないな。いっそ、君を閉じ込めてしまおうかな?」

「⋯⋯からかっていますね、殿下」

ニヤリと口角を上げる殿下に、私は必死の抵抗でキッと睨み付ける。

だが、恥ずかしさから潤みそうになる目元、そして赤く染まる頬が隠されてはいない事から、効果は無さそうだ。

そんな私の様子に殿下は楽しそうに、声を出して笑った。

「ははっ、冗談だよ。そうしたいって希望だけで、そうはしないよ。ラシェルが笑っている事こそ、私の一番の望みだからね」

そう優しく呟く殿下の声は、どんなケーキよりも甘く、柔らかいものだった。

きっと、私がこれから目指す道は厳しいものだと思う。

魔力枯渇の謎、そして失った力を取り戻す方法も見つからないかもしれない。

それでも、殿下がいつだって力をくれる。

大丈夫だと、私の背を押してくれる。

だから、私はまた一歩、前へと踏み出す事が出来るのだろう。

殿下といる時間は甘く優しく、それでいて幸福に包まれた時間。

この時がずっと続きますように⋯⋯。

そう殿下の優しい笑みを眺めながら、私は願った。